『NOIR』

和製フィルム・ノワール。

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NOIR - Wikipedia
NOIRとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2001年。オリジナルテレビアニメ作品。全二十六話。監督は真下耕一。アニメーション制作はビィートレイン。真下耕一が長年温めてきた「銃と少女」をテーマにしたガンアクションムービー。原案・脚本は後に小説家として名を馳せる月村了衛。同一テーマで制作された『MADLAX』『エル・カザド』と合わせて、「美少女ガンアクション三部作」と呼称されることもある。2011年にサム・ライミ監督による実写ドラマ化が報じられたが、未だにその続報はない。

・ノワール


 そのタイトルが示す通り、かつての「フィルム・ノワール」を強く意識して作られた作品である。ノワールとはフランス語で「黒」。つまり、裏社会を指す。ギャングや探偵、殺し屋、刑事、弁護士などを主人公にして、反社会的な一匹狼的な世界観を丹念に描く。一般的なハードボイルド映画とノワール映画との違いを定義するのは難しいが、目に付くのはその全体に漂う退廃的なムードだ。倫理観が欠落していたり、秩序よりも自由を優先したり、人の醜さを強調したり、ミステリアスな悪女に翻弄されたりするなど、最終的に主人公が悲惨な結末を辿ることも多く、「滅びの美学」が一つのテーマになっている。元々、モノクロムービーが発端なだけあって、映像は光と影のコントラストを強くして暗黒街の雰囲気を演出し、人間の暗い側面を暴き出す。また、回想シーンを多用して、現実と夢想の境界線を曖昧にするという手法もよく使われる。
 日本ではあまり存在し得ない(=生まれ難い)ジャンルである。と言うのも、日本で現代の裏社会を描くとどうしても「ヤクザ物」になってしまい、そうすると必ず「義理・人情」の世界になってしまうからだ。つまり、自己の同一性ではなく他者との関係性がテーマになってしまうのである。そのため、組織に属しない一匹狼が闇に紛れて生きるクールさやダンディズムを描くのは、総じて上手くない。時代劇だとそれなりに暗い側面も描けるのだが、チャンバラにガンアクションと同一のリアリティを求めるのは酷だ。
 そんな中、本作のようにアニメーションでフィルム・ノワールを再現しようという試みは、実に興味深い。しかも、それがほぼ成功していることが何より恐ろしい。実写でできないことが、なぜかアニメだとできるのである。日本の映画界のレベルが低いのか、アニメ界のレベルが高いのか、それとも、その両方か。どちらにしても、手放しで喜べる話ではないことだけは確かだ。

・殺し屋


 若い女性の身でありながら、フランスのパリで殺人代行業(殺し屋)を営むミレイユ・ブーケの元へ、ある日、夕叢霧香と名乗る日本の女子高生からメールが届く。その手紙に添えられていたオルゴールのメロディと「ノワール」という単語に記憶を呼び覚まされたミレイユは、日本で霧香と会う。彼女には記憶がなく、自分が何者かも分からないと言うが、なぜか超人的な殺人術を持っていた。自己の再生を願う霧香、家族の復讐を願うミレイユ、利害が一致した二人はフランスで一緒に暮らしながら、暗殺ユニット「ノワール」を結成するのだった。
 物語の前半は、二人が殺し屋として活躍する一話完結型のストーリーである。練り込まれたストーリーと奥深い人物設定、緻密な背景描写、現実感のあるガンアクションとどこを取っても極めてクォリティの高い作品に仕上がっている。そこに真下耕一のフィルム・ノワールを意識した演出が加わると、完全に深夜アニメのレベルを超えていると言っても過言ではない。さらに、特筆すべきは梶浦由記が担当した音楽である。本人自身、最も印象深い仕事とインタビューで答えている通り、一曲一曲が粒揃いでノワールな雰囲気作りに一役買っている。最早、BGMと言うより映像と同等の関係だ。中でも戦闘時に流れる「salva nos」は出色であり、この曲がきっかけで俗に言う「梶浦語」曲(造語を生かしたメロディー)が生まれたと語っている。
 アニメ的な欠点を言うと、雑魚敵の黒服が弱過ぎることが挙げられる。主人公の超人性を浮き立たせるために敵を弱くするのは常套手段だが、本作の敵のほとんどが反撃もできぬまま、短い呻き声を挙げて一撃で倒されるのである。テレビゲームにおけるやられキャラレベルであり、まるで人間味が感じられない。もう少し、他に描き様はなかったのか。また、本作が抱えるもう一つの致命的な欠点は、超絶的に「眠い」ことだ。つまらないとか退屈とかではなく、物理的に眠いのである。話の展開に抑揚がなかったり、回想シーンを何度もリフレインしたりして、視聴者の眠気を誘う。そういう内容なのだから仕方ないと言われればそうなのだが、人を選ぶアニメなのは間違いない。

・キャラクター


 ミレイユはグラマラスで落ち着いた雰囲気を持つ大人の女性。プライドが高く、自他共に厳しい性格で殺しの腕も一流だが、完全無欠の霧香に比べると数段落ちる。劇中でも何度か敵にやられており、それゆえ、視聴者に付けられたあだ名は「ダメイユ」。口にこそ出さないが、霧香に対して強い劣等感を抱いている様子がうかがえる。一方、霧香は天才的な戦闘能力とは正反対に、無口で子供っぽく生活力のないタイプ。自分が何者か分からない(のに、なぜか簡単に人を殺せる)ことで破滅願望があり、事が済み次第、口封じのために殺すと宣言しているミレイユに対しても、それを待っていると告げる。そんな二人の同棲生活は奇妙な物だった。仕事では息の合うパートナーだったが、プライベートでは殺す・殺されるのサディスティックな関係。しかし、好きの反対は無関心と言うように、殺したいと思うのは強い関心があるということだ。ミレイユはいつしか霧香に対して深い親愛の情を覚えていく。友人のようで、姉妹のようで、そして、恋人のようで。
 ネタバレになるが、二人は伝説の女性暗殺者コンビ「ノワール」の候補者であり、最終的にそれに選ばれたのは年長のミレイユではなく、若い霧香と彼女と同年代の少女・クロエだった。また、子供の頃、ミレイユの家族を殺したのも霧香だった。それを知った時のミレイユの苦悩は計り知れない。自分に屈辱を味わわせた相手、自分の人生を狂わせた相手。しかし、それでもミレイユは霧香を受け入れる。ただの共依存の関係なのかもしれない。自分自身を慰めたかっただけなのかもしれない。それでも、必ず彼女の側にいてあげなければならないという強い絆。そう、本作で描いている物こそが、本来の意味で言う「百合」なのである。
 ちなみに、下衆な話だがノワールの別名は「黒き手の処女」である。選ばれたのは霧香とクロエ。だが、最後に霧香はノワールを拒絶してミレイユの元へ戻る。これを女性のアイデンティティの問題として見ると面白い結果が出ると思うが、さすがにそこまでは踏み込まない。

・ストーリー


 ソルダという秘密組織があった。かつて、彼らは自ら育て上げたノワールという超人的な女性暗殺者コンビを用いて、世界の悪しき力から弱き民衆を守るために暗躍していた。時が流れ、ただの犯罪組織と化したソルダの幹部の一人、アルテナが原点回帰とノワールの復活を画策する。目的は腐り切った世界に変革をもたらすため。彼女は候補者を三人立てて試練を与え、クリアした者の中から二人を抽出するというプロセスを取った。その候補者が幼い頃のミレイユと霧香、そして、クロエという子飼いの少女だった。しかし、急進的なアルテナ派に対して、組織内の現状維持派が反発する。そんな内部抗争に否応なく巻き込まれていくミレイユと霧香……。
 一握りの暗殺者集団が裏で世界を動かしていたというのは、陰謀論を語る上でよく出てくるテーマである。本作もそういった設定をベースにしているが、実質的には「アルテナの物語」である。彼女は戦災孤児であり、他の誰よりも残酷な現実を目の当たりにして生きてきた。それゆえ、彼女が夢見た物は、誰もが平等に暮らせる理想郷の建設であった。感覚的には、テロリストと言うより『もののけ姫』のエボシ御前に近い立場の人間である。しかし、「愛で人を殺せるなら、憎しみで人を救うこともできるはず」という信念に基づき、理想のためには手段を選ばないという彼女のイデオロギーは、最後まで人を惹き付けることはできなかった。
 最終的には、アルテナに捕らわれた霧香をミレイユが助け出し、霧香がノワールであることを否定したことで、彼女の野望は失敗に終わる。しかし、それがハッピーエンドかと問われると回答に窮す。現実世界の問題は残ったままであり、何よりミレイユも霧香も普通の生き方ができない人間だ。このまま暗殺者稼業を続けるのか、すっぱり足を洗うのか、それとも……。その問いに対する答えがラストに流れる二つの銃声なのだろうか。そう考えると、本作は紛れもないフィルム・ノワールである。

・総論


 アニメオタクを名乗るなら、見ていてしかるべき作品の一つ。視聴には多少の忍耐力を伴うが、実写では不可能なフィルム・ノワールをアニメで再現するという無理難題に見事に応えた貴重な作品と言えるだろう。本作をリアルタイムで見られた人は真の幸せ者だ。ちなみに、本作の前番組が『アルジェントソーマ』で、後番組が『ココロ図書館』である。どうやら、この頃のテレビ東京は神がかっていたようだ。

星:☆☆☆☆☆☆☆☆(8個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 22:58 |  ☆☆☆☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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