『戦国乙女~桃色パラドックス~』

入門編。

公式サイト
戦国乙女~桃色パラドックス~ - Wikipedia
戦国乙女~桃色パラドックス~とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2011年。平和制作のパチンコ「CR戦国乙女」を元にしたオリジナルテレビアニメ作品。全十三話。監督は岡本英樹。アニメーション制作はトムス・エンタテインメント。女性しかいない戦国時代を舞台にしたトンデモ戦国ファンタジー。原作とは設定・ストーリー・声優が異なり、ほぼ別作品になっている。2009年クソゲーオブザイヤーを受賞した……のは『戦極姫~戦乱に舞う乙女達~』なので誤解なきよう。パチンコとアニメの関係性については『うみものがたり ~あなたがいてくれたコト~』の項目を参照。

・女人化


 主人公は、食いしん坊で元気いっぱいな現代っ子の女子中学生・日出佳乃。あだ名はヒデヨシ。ある日、ひょんなことから女性しかいない異世界の戦国時代に飛ばされる。そこで織田ノブナガと名乗る武将に出会った主人公は、「彼女」の家臣となり、天下統一の手助けをすることになるのだった……。
 いつの頃からかスタンダードになった「武将女人化物」アニメの一作である。一体全体、この奇妙なジャンルの起源はどこにあるのだろうか。イラストや漫画の世界では古くから存在したと記憶しているが、詳細は不明。ただ、一つだけ明らかなのは、流行の発端となったのは戦国時代ではなく『三国志』だということである。2000年にコーエーのPS2ゲーム『真・三國無双』がヒットしたことでオタク界に三国志ブームが発生し、時を同じくして塩崎雄二著の漫画『一騎当千』が三国志の武将の女人化という道を切り開いた。その後、2004年に同社の『戦国無双』が発売されたのを機に、女人化ジャンルも戦国時代へとシフトしたと見るのが正しい流れだろう。そのムーブメントを陰で支えたのは例の如くエロゲーだが、これと言うフラグシップはなさそうだ(しいて言うなら、2006年発売のアリスソフト『戦国ランス』か)。そもそも、歴史上の偉人や文学作品を女性化するという創作物(性別逆転パロディー)は、古今東西に幾らでも存在するわけで、さほど珍しいアイデアでもないのだろう。ただ、昨今の乱発具合は少々異常かもしれない。これは別に男性向けだけに止まらず、女性向けでも『戦国BASARA』のように「武将のイケメン化」も行われているため、業界全体のブームなのだろう。問題はその理由は何か、なぜ今の時代に求められているのかである。
 まず、間違いなく言えるのは、「擬人化」の一種であるということだ。2000年頃を境に萌えのコンセプトは一変している。すなわち、既存のキャラクターの中に萌えを見出すのではなく、新たに萌えキャラを創造するという行為である。例えば、強気なキャラの中にツンデレ的感情を見るのではなく、最初からツンデレに特化した専用キャラを作り出すように。一時期、「一瞬で笑わせる」というお笑い番組が流行ったが、それと同じく「一瞬で萌えさせる」という軽薄なインスタント志向が2000年以降の特徴だ。その最たる物が擬人化である。ただの炭を擬人化した「びんちょうタン」やパソコンのOSを擬人化した「OSたん」など、奥深い複雑な心理を持った「人間らしさ」を失う代わりに、萌えを強化してキャラクター性、言い換えるなら「商業性」を高めている。武将女人化も同様で、戦国武将という「偶像」をデフォルメ化し、女性キャラに作り変えることで新たな偶像を獲得する。ただし、世の宗教と同じく、実際のところはその作業自体が目的であり、完成したキャラクターで何かをするというのはあくまで副次的な物に過ぎない。そのため、それらの物語作品としての価値にはあまり期待できないのが世の常である。

・歴史のIF


 歴史アニメを好んで見るような人は、基本的に歴史に興味がある人である。そうでなくても、戦国時代の大まかな流れぐらいは、日本人なら誰でも知っていることだろう。そのため、武将女人化アニメが制作される目的の一つは「歴史のIF」である。つまり、フィクションという枠組みの中で歴史を再構成し、シミュレーションの過程を楽しむという知的な遊びだ。女人化はそのアプローチの一つであり、視点を変えることにより戦国時代のIFを深めるという効果を担っている。本作でも、日本史上の大きな謎の一つである「明智光秀はなぜ謀反を行ったのか?」という疑問に対して、百合と嫉妬という萌えファクターを用いて回答を示している。これはなかなか面白い試みであろう。もちろん、男性である本物の明智光秀にこの推論をそのまま当てはめることはできないだろうが、あらゆる角度から仮説を立てて検証することは学術的にも有意義なことである。
 しかし、歴史のIFと言えば聞こえはいいが、言い方を変えるとただの「パロディー」ということだ。戦国時代という雛形がすでにできあがっているからこそ、それをベースに独自要素を自由に付き足すことができる。アニメ版のキャラクター一つ取っても、ノブナガは豪快な直情家、イエヤスは狡猾な野心家とモデルの性格をデフォルメ化した物になっており、原作を知らない人にも非常に分かり易い。ストーリーにしても実際の歴史をなぞっているだけだから、作り手からすると次の展開を考える必要がない分、極めて楽だ。結局、同人ノリの延長ということであり、一つ二つならまだしも、雨後の竹の子のように乱発されている現在の状況は、やはりどうかと言わざるを得ないだろう。

・ジェンダー論


 最後にもう一つ理由を挙げておく。ただし、これはどちらかと言うと社会学に属することであり、本ブログの趣旨から大きく逸脱するため、簡単に記すに止めておく。それはすなわち、「フェミニズム」である。具体的な数字は不明だが、オタクと呼ばれる男性の中には、男性よりも強い女性を求める人々が一定の割合で存在する。彼らは強い女性リーダーに身も心も支配されることを望み、その状態を心地良く思う。その理由は単純な被虐嗜好と言うより、男尊女卑的な社会に対するカウンターパートであろう。つまり、「男なら強くあれ」という要求に対して、「男だからと言って強くなくても良い」という自己弁護からの女尊男卑思想である。武将女人化などは、まさにその思想が具現化した物であろう。
 ただ、同じ女人化アニメにも、二種類あることに注意しなければならない。それは本作のように女性しか登場しない作品と『織田信奈の野望』のように男性も登場する作品だ。当然、後者の方がより「病的」である。『大正野球娘。』と同様に、男性向けアニメでありながら、男性を敵にし、女性が男性を支配する様をビジュアルとして見せるのである。これはもう女尊男卑などという生易しい物ではなく、完全にオタクの「女性化願望」である。要するに、自分自身が萌えキャラのような可愛い女の子になりたいのである。この観点から萌えアニメを見つめ直してみると非常に面白い調査結果が出ると思うが、今回はこの辺りで閉じさせて頂く。

・ストーリー


 遅ればせながら、本作のストーリーを紹介しよう。天下統一の野望を持つノブナガは、家臣の主人公とミツヒデを従え、全て揃えると天下を取れるという「真紅の甲冑」集めに精を出していた。途中、ミツヒデの謀反未遂などに見舞われながらも、ついに全ての甲冑を手に入れることに成功する。しかし、二人の武将がそれを横取りしようと企んでいた。一人は野心に燃えるイエヤス。もう一人は伊達家の子孫であり、主人公と一緒に異世界へとやってきたマサムネ。彼女は腐敗した現代社会を正すため、伊達家が天下統一を果すという新たな歴史を作り上げようとした。だが、甲冑には身に纏いし者の悪しき心を増幅する力があり、それに魅入られたイエヤスが暴走し……。
 このように、本作は異世界物としても戦国物としても非常にオーソドックスなストーリーになっている。甲冑を集めたら天下統一と簡略化した世界観になっているのも、アニメでは大規模な合戦シーンを描くのを不得手としていることに加え、キャラクター同士の血生臭い殺し合いを回避できるというメリットがあるからだ。全体的にギャグ成分が多く、健康的なお色気も満載なので、『志村けんのバカ殿様』的な面白さがある。台詞回しも時代劇調に練り込まれており、現代とのギャップネタも楽しい。基本的な作品のターゲット層は中高生より少し上の二十代・三十代男性だろうか。そう考えると、パチンコ宣伝アニメとしては間違いなく優秀である。
 不満点を挙げるなら、せっかく各キャラクターに固有の武器を持たせているのだから、それらを生かした格闘ゲーム的なタイマン勝負がもっとあっても良かったことだろうか。また、終盤のまとめ方が雑で、幾つかの伏線・謎を放置しているのも気になる。もう少し、タイムパラドクス的なネタを含めるべきだと思うのだが。

・総論


 武将女人化物アニメの入門編に最適な一品。お色気戦国コメディーとして十分に成立しているので、そういう物に興味がある人は心から楽しめるだろう。後、イエヤスちゃんがとんでもなく可愛い。

星:☆☆☆☆(4個)
関連記事
スポンサーサイト
テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 22:17 |  ☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
twitter
検索フォーム
最新記事

全記事一覧
評価別一覧
年代別一覧
掲示板
カテゴリ
リンク
カウンター
RSSリンクの表示



にほんブログ村
PR1
PR2