『プラネテス』

致命的な欠陥。

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プラネテス - Wikipedia
プラネテスとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2003年。幸村誠著の漫画『プラネテス』のテレビアニメ化作品。全二十六話。監督は谷口悟朗。アニメーション制作はサンライズ。人類が宇宙に進出した近未来、衛星軌道上でスペースデブリ回収業に従事する若者達の青春と恋愛、そして、夢を描く。本作は原作・アニメ共に「星雲賞」をダブル受賞している。

・緻密な宇宙描写


 本作を視聴した人がまず驚くのが、その緻密な宇宙描写だ。特にロボットアニメでしかSFに触れない日本人が多い中、本作がアニメーションでリアルな近未来像を描いたことは非常に大きな意味があるだろう。特筆すべきは、無重力空間における正確な物理法則の描写である。質量や重心など、物理学を語る上で外せない当たり前の常識を当たり前に描くことによって、他に類を見ない圧倒的なリアリティを視聴者に提供している。また、太陽風や地球の影といった宇宙開発の問題点を覆い隠すことなく設定に取り入れることで物語に深みを増し、何より他のSFでは見過ごされがちなスペースデブリ(宇宙ゴミ)の問題をメインに取り上げることで、現代社会が抱える光と闇を俯瞰的に見ることにも成功している。
 映像演出の面でも面白いことを行っている。それは「宇宙空間では効果音を入れない」ということだ。バーニア音やジョイントの軋む音など、リアルを謳ったSFアニメでさえ常識のように鳴らしている音を本作では一切用いていない。もちろん、真空中に音は伝わらないからなのだが、それでは画的に迫力が得られないため、ガンダムなどではコンピュータが擬似音声を出しているとわざわざ理由付けをしてまで効果音を加えている。しかし、本作では、逆に無音の状態を上手く使って緊迫感を演出するなど、アニメーションの技法に新たな息吹を吹き込んでいる。

・デブリ編


 本作は、十六話近辺を境界とした二部構成になっている。前半は、主人公とヒロインを中心とした一話完結型のスペースデブリ回収物語だ。社内では半課と呼ばれ蔑まれているデブリ課、そこに配属された新入社員のヒロインは理想と現実のギャップに大きなショックを受ける。愛こそ全てと考える彼女は、あくまで仕事と割り切って与えられた役割に徹する同僚に我慢がならない。しかし、宇宙空間では小さなネジ一つでどんな大惨事を招くか分からない。そのため、デブリ回収という地味でお金にならない仕事であっても、宇宙開発を続行するためには絶対に手を抜くわけには行かないのだ。彼らがそういったプライドを持って業務に当たっていることを理解したヒロインは、自らも率先してデブリ回収作業に従事して行く。
 デブリ回収と洒落た名前が付いているが、要は宇宙空間のゴミ拾いである。一般的感覚だと賎業に数えられがちな職業だ。その一方で、デブリ回収は宇宙開発を続けるためには誰かがやらなければならない立派な仕事でもある。それゆえ、遥か遠くに目を向けるのではなく、もっと足元を見るべきだという主張は強く視聴者の心を打つ。当然、それは現実の政治問題や社会問題のメタファーにもなっている。
 ただ、少し気になるのは、法律で企業のデブリ回収が義務付けられているなら、劇中のような低い扱いは受けないのではないかということだ。むしろ、政府からの補助金目当てで悪徳業者が跋扈すると考えるのが現代的感覚である。もちろん、本編とは何の関係もない野暮なツッコミであることは重々承知している。

・フォン・ブラウン編


 十七話以降は、木星往還船フォン・ブラウン号を巡る物語になる。元々、宇宙船の船長になることが夢だった主人公は、皆の反対を押し切ってデブリ課を退職し、フォン・ブラウン号の乗組員試験を受ける。主人公に対してほのかな恋心を抱いていたヒロインは、そんな彼を心配しつつ影ながら応援する。やがて、地域間格差解消を訴えるテロリストの妨害など、様々な困難を乗り越えて無事に乗組員となった主人公だったが、今度は本当に自分は大切な人々を置いてまで木星に行くべきなのかというジレンマに襲われる。しかし、広い宇宙でも人はみんな繋がっているということに気付いた彼は、新妻のヒロインとお腹の中の子供を地球に残して木星へと出発する。
 人類が次のステージへと進むために木星へ旅立つ映画『2001年宇宙の旅』のオマージュである。人が生きる上において、夢は何よりも大切な物であると謳う爽やかな青春活劇だ。そして、そんな彼のささやかな夢は、我々人類が共通に抱えている宇宙開発という大きな夢ともシンクロしている。劇中のテロリストが言う通り、人が木星に行ったところで地球上の争いは決してなくならない。しかし、前に進まなければ停滞するだけだ。それゆえ、彼の挑戦は人類の未来のためにも非常に大きな意義がある。

・致命的な欠陥


 さて、ここまで読んで頂いた方はお気付きになったと思うが、本作は中心となる物語に致命的な欠陥を抱えている。それは「前半と後半でテーマが完全に逆転している」ことだ。前半は、どんなにみすぼらしく汚いことでも、デブリ回収業は人類が宇宙に進出する上で欠かすことのできない大事な仕事だと訴えかけている。しかし、後半は、そんな細かいことは放っておいていいから、人類は夢を追うべきだと主張している。これら二つは明らかに逆の思想である。まさかの手のひら返し、自分達でコツコツと丹念に描いてきたテーマを自分達の手で打ち壊すという非常に斬新なストーリー構成だ。
 当然だが、これは明らかにアニメ制作スタッフのミスである。一体、何を思ってこのようなストーリーにしたのか理解に苦しむ。訴えたい二種類の思想があるなら、それぞれキャラクターを分けて両者を対立させるのがドラマ作りのセオリーだ。それを一人の主人公に背負わせれば、物語の軸が歪むのは当たり前だろう。そもそも、地域間格差や資本主義経済の問題点を取り上げたいのならば、2クールの間、延々とデブリを回収し続ける物語の方がよっぽど視聴者の心に問いかけることができる。少なくとも、敵役のキャラクターがペラペラとメインテーマを語るという低レベルな脚本よりは何十倍もましだ。
 ちなみに、原作では二要素が同一線上で混在しているので違和感は少ない。それ以前に、ヒロインはほとんどアニメオリジナルキャラクターである。ならば、ヒロインと主人公を思想的に対立させればいいだけの話なのだが。

・総論


 前半と後半を別作品と捉えるなら、間違いなくアニメ史に残る傑作である。デブリ編は星9個、フォン・ブラウン編は星7個といったところだろうか。しかし、全体を通して考えると、物語の中心となるテーマが湾曲している以上、低評価を付けざるを得ない。せめて、別のシーズンに分けてくれたら……。もちろん、作品の品質から言って、オススメであることに変わりはないし、アニメファンを自称するなら一度は見ておくべき作品である。

星:☆(1個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 23:03 |   |   |   |  page top ↑
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