『ドラゴンクライシス!』


説明不足。

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ドラゴンクライシス! - Wikipedia
ドラゴンクライシス!とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2011年。城崎火也著のライトノベル『ドラゴンクライシス!』のテレビアニメ化作品。全十二話。監督は橘秀樹。アニメーション制作はスタジオディーン。レッドドラゴンの少女を守るために少年が奮闘する冒険ファンタジー。略称は『ドラクラ』。ヒロインがツンデレで暴力的なのは『とらドラ』。ヒロインがドラッカー信者なのは『もしドラ』、ヒロインが二挺拳銃なのは『ブラクラ』。ヒロインが巨大なカステラを作るのは『ぐりとぐら』。

・インプリンティング


 第一話開始早々、クラスメイトのヒロインが主人公に惚れていることが明らかになる。そこまで主人公の台詞は一切なし。当然、彼がどのような人間なのかさっぱり分からない。その後、第一話中盤でメインヒロインが華々しく登場するのだが、彼女もまた出会った瞬間から主人公に対してベタ惚れで、彼に濃密なスキンシップを要求する。第一話の次回予告では主人公への「好き」を八回も連呼する。だが、この期に及んでも、彼がどのような人間なのかさっぱり分からない。彼の人格・趣味・特技・好きな物・嫌いな物・学力・運動能力・普段の生活・交友関係、一切が謎。もう、ここまでくると「恐怖」である。いや、むしろ心配になる。作者はどれだけ愛情に飢えているんだ? 過去に虐待でも受けていたんじゃないのか?
 ところが、第二話で、メインヒロインの恋心は生まれて初めて見た物が主人公だったことによる「インプリンティング(刷り込み)」であることが明らかになる。な、なるほど、それは分かり易い。むしろ、そうじゃないと説明が付かない……と思ったら、第三話で「本当は一目惚れなんじゃないか」と余計な推論が入る。んな、無茶苦茶な。ただの一目惚れでこんな行動を取ったら完全に心の病だ。人はそれをストーカーと呼ぶ。結局、ハーレムアニメにおけるヒロインの心理は論理的に説明できないから、このような破綻した非合理設定を持ち出さざるを得ないのである。精神病にしか見えない電波な女性に愛されて、視聴者は本当に嬉しいのだろうか。
 ちなみに、本作のストーリーにおいてクラスメイトヒロインの恋の必要性は何もない。じゃあ、何で登場したんだと言うと……愛情に飢えているのだろう。

・インモラリスト


 主人公の両親と再従姉は、ロスト・プレシャス(失われた魔法の道具のような物。劇中では全く説明がない)を集めているトレジャーハンター。ある日、ファング(ロストプレシャスを横流ししている闇ブローカー。劇中では全く説明がない)がSクラスのロストプレシャスを取り引きしているという情報を手に入れた再従姉は、主人公と共にそのトランクを襲撃・強奪する。だが、その中にはロスト・プレシャスだけではなく、不思議な魔術を使う一人の少女も入っていた。とりあえず、家に連れ帰ってみると、手の痣から彼女がレッドドラゴン(伝説の幻獣。劇中では全く説明がない)であることが判明する。そこで、二人は彼女をソサエティ(ロスト・プレシャスを管理・研究している団体。劇中では全く説明がない)に明け渡し、そこで精密検査を受けさせる。
 ……何これ? いや、おかしいだろう。闇組織から強奪したトランクの中に人型の生物がいた。まともな人権意識のある人間なら、これがどんなに洒落にならない重大事件であるかぐらいは分かるはずだ。つまり、「人身売買」の現場に遭遇したわけである。それを知って少女をどうするか(かくまうか、売り飛ばすか)はその人次第だが、少なくともドラゴンだと分かって大喜びするような人物を主人公側の人間だとは思いたくない。研究機関で精密検査を受けさせるなど言語道断。それは完全に「悪役」の行動だ。もう腐るほど書いているが、深夜アニメ制作に携わる人のモラルの低さはちょっと笑えないほど酷い。
 その後、婚約者を自称するファング所属のブラックドラゴンの青年にヒロインがさらわれ、彼女を助けに行くかどうかという話になる。普通の物語なら、主人公がヒロインを救うのは当然の成り行きだ。しかし、本作の場合はその「大義名分」が何もない。元々、ヒロインはドラゴン側に属する者であり、それを主人公側が強引に奪ったわけである。確かに、ヒロインは婚約を拒絶しているし、主人公に好意を示している。だが、その唯一の根拠が上記のインプリンティング。馬鹿じゃねーの、このアニメ!? 要するに『天空の城ラピュタ』のような冒険ヒーロー物をやりたいわけだが、それなら、さらわれるまでに主人公とヒロインの関係を十分に構築させないといけないだろう。指摘することすら恥ずかしいぐらい当たり前のことだ。そんな作劇の基本を知らない人間が、雰囲気だけで王道ファンタジーを真似るとこうなるという悪い見本のような作品である。

・シナリオクライシス


 そんなこんなでヒロインを助けに行くことになり、両親が密かに残していた主人公専用の魔法武器が彼に与えられる。いや、待て。意味が分からない。中世ファンタジーならまだしも、この現代社会で自分の息子に専用武器を用意する親がいるのか? 要は、最初から息子が戦いに巻き込まれることが前提だということだ。何て酷い親だ。モラルが(略)。
 その武器はいわゆるチート兵器で、絶大なる攻撃力があるだけでなく、修行等を一切行わずに装備者の身体能力や剣術の腕を劇的に高めることができる。しかも、魔力を断ち切る力まで兼ね備え、心なしか主人公の性格すら変わったような気がする。再従姉の「便利ね、それ」という台詞が全てを表している。そして、その武器を使ってブラックドラゴンと戦うわけだが、その際、主人公に秘められた力があることが判明し、ヒロインと手を繋ぐ(エンゲージする)ことで力を何倍にも高めることができ、その力を使って敵を倒したはいいが、その代償で主人公は深い傷を負い、死にそうになったところをヒロインがキスして、「ドラゴンの息吹」という謎の力で一命を取り戻す。何を言っているのか分からないと思うが、まさにこの通りのストーリーなので他に書き様がない。
 このように、本作における最大の欠点は「説明不足」である。何を焦っているのか知らないが、本来、詳細に語られるべき世界観や専門用語が、なぜか全く劇中で説明されないのである。アニメを見る前にググレカスということだろうか? だが、主人公やヒロインの人物描写だけならまだしも、「ロスト・プレシャス」「ドラゴン」「ソサエティ」という本作を語る上で絶対に欠かせない用語解説すらないのは、少々常識を疑う。特に、主人公達の属するソサエティの組織構造が不明なせいで、主人公の立場が善なのか悪なのか、この作品が最終的に何をやりたいのかさえ分からないのである。どう見ても、ソサエティのやっていることが善だとは思えないのだが、主人公がそれに逆らう気配すらない。一体全体、こんな壊滅的なことになっている元凶は誰だろう。シリーズ構成の倉田英之は数々の人気作品を手がけたベテラン作家なのだが……。

・ロスト・プレシャス


 なお、ここまででわずか三話である。第四話からは急激に路線変更し、ライトノベル原作にありがちなエロス重視の下らないハーレムアニメになる。一応、ロスト・プレシャスにまつわる物語なのだが、あらゆる点にツッコミどころが満載で、作品としての質は著しく低い。とりあえず、主人公がチート能力保持者であることは、クラスメイトにバレちゃダメなんじゃないのか? また、第四話以降、ヒロインに惚れられて妙な自信が付いたのか、主人公の言動がやたらと説教臭くなる。本人的には熱血のつもりなのだろうが、身近な女性の気持ちにすら気が付かない人間が人類愛を語ったところで言葉に重みはない。
 第十話から、ようやく本編が始まる。成竜の儀式(手の痣にキスをする)を経て、大人の階段を昇ったヒロインが、インプリンティングではなく普通の恋心を主人公に抱く。今までの幼い彼女に萌えていた視聴者はご愁傷様。ところが、なぜか彼女は急に体調を崩してしまう。それは、主人公の秘められし力が実は竜を司る「ドラゴンクライシス」だったからという説明が第十一話で為されるが、第十二話で即否定される。どうやら、ただの恋煩いだったらしい。頼む、脚本家。真面目に仕事をしてくれ。そして、ヒロインを連れて「飛行機」で母国に逃亡しようとするブラックドラゴン。お前、ドラゴンだろう。それを引き留めようとする主人公達オールスターキャスト&ソサエティ。ん? ソサエティ? いやいや、この流れだとソサエティが正義の団体になってしまうではないか。お題目ばかりで腰の重い巨大組織を尻目に、主人公達が単独行動をして初めて冒険ヒーロー物になるんじゃないのか? その後、主人公とヒロインがキスをし(濃密なエンゲージをし)、巨大な力が解放されてブラックドラゴンを倒す。もう、何が何やら。ていうか、何か派手な大事件が起こっているように見えるけど、これってただの「痴情のもつれ」だよね。ロリロリな女の子の奪い合いだよね。なるほど、それがロスト・プレシャスか。

・総論


 とにかく、第三話までが酷過ぎる。小学生の妄想をそのまま映像化したような物で、はっきり言って金を取っていいレベルにない。序盤でちゃんと舞台説明をしないと、後半でどんなに取り繕っても無駄だということがよく分かる作品である。

星:★★★★★★★★(-8個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 22:10 |  ★★★★★★★★ |   |   |  page top ↑
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