『REC』

現実。

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REC (漫画) - Wikipedia
RECとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2006年。花見沢Q太郎著の漫画『REC』のテレビアニメ化作品。全九話+未放送一話。監督は中村隆太郎。アニメーション制作はSHAFT。冴えないサラリーマンと声優の卵の女の子が一つ屋根の下で同棲する青春ラブコメ。一話十五分のミドルサイズアニメ。同名のホラー映画とは全くの無関係なので注意。

・新人声優


 本作のヒロインは声優の卵の二十歳の女の子である。そして、CVは本作がデビューとなる新人声優(当時)の酒井香奈子である。もう、この時点で本作は「クソアニメ」になるよう宿命付けられている。なぜか? 確かに、経験値の低い新人声優のアテレコは様々な面で拙い。しかし、声優という仮面を取り払った普段の彼女は、当たり前だが「普通の人」。それゆえ、ヒロインのCVを担当する声優は、両者のギャップを声だけで演じ分けなければならないのである。しかも、本作は成長物語であるがゆえに、ヒロインの演技が段々と上達する様を具体的に示さなければならない。そんなベテラン俳優でも難しい役柄を新人声優にやらせるなど愚の骨頂、作品の根底を破壊する行為であろう。実際、酒井香奈子は、キャラクターを演じている時はまだましだが、素のヒロインを演じている時の違和感は隠しようがなく、例えば、身に危険が迫った時に叫び声一つ挙げることができない。また、ヒロインはオードリー・ヘップバーンに憧れており、劇中で何度も映画の有名な台詞を口にするのだが、どれもこれも代わり映えしない単調な演技である。オードリーと言えば、王女から娼婦まで様々な役をこなす芸幅の広さが魅力だが、これではとてもじゃないが憧れているとは言えないだろう。
 もちろん、これは声優が悪いのではなく、彼女を選んだ監督及び製作陣の責任である。本作に限らず、ドラマや映画でも新人俳優役を新人にやらせる監督が未だに存在するのは、一体何を考えているのだろうか。キャラクターと気持ちをシンクロできるからなどと考えているなら、ドラマという物をなめているとしか言い様がない。

・ストーリー


 本作は一話十五分のミドルサイズアニメなので、非常に展開が早い。ただ、展開が早いだけならいいのだが、どう考えてもストーリー自体をすっ飛ばしている箇所が多々見られるのは問題であろう。それも明確に原因が「監督の演出力不足」にあるのは何とも物悲しい。
 第一話。主人公とヒロインは映画『ローマの休日』がきっかけで知り合う。その晩、自宅で寝ていた主人公は、消防車のサイレンの音で目を覚まし、胸騒ぎを覚えて雨の中ヒロインを探しに行く。この「胸騒ぎを覚えて」の部分はいわゆる「編集部註」であり、劇中では全く描かれない。精々、窓の外を猫が通ったから、ガラスのコップが割れたからという程度であり、そのため、第六感を通り越して主人公が完全に超能力者になってしまっている。主人公はヒロインの住所を知らないのに、なぜ火事で焼け出されていることを確信しているだろうか。まさか、「愛の力」などという謎パワーを持ち出すつもりではあるまい。続く第二話・第三話はもっと酷い。CMの声優オーディションが行われてヒロインが合格するのだが、その翌日にはすでにCMが放送され、ヒロインの演技が街で話題になっているのである。ドラえもんの秘密道具でも使ったのか。監督はシナリオをチェックしている時に、少しでもおかしいと感じなかったのだろうか。
 第六話。ちょっとしたアクシデントにより、ヒロインのパンチラが全国放送されたことがきっかけで、彼女の仕事が増え始める。もう一度書く。ヒロインのパンチラが全国放送されたことがきっかけで仕事が増え始める。そして、以前、一度だけ主演したエロゲーがテレビアニメ化されたことで、彼女は人気声優の仲間入りをす……しねーよ。普段、アニメを見慣れている人は、これがどんなに荒唐無稽な設定か分かるだろう。確かに、原作漫画が発表された2002年頃は、エロゲー業界は「最後のフロンティア」などと称されて、何が起きても不思議ではないカオスな雰囲気があった。しかし、デビュー作が初主演、その後、アニメ化されて人気声優となったのは『君が望む永遠』の栗林みな実ぐらいしか見当たらない。しかも、彼女はそれ以前から顔出しで歌手活動もしていたのである。こんなあからさまな踏み台扱いされては、エロゲーファンは堪った物ではないだろう。
 第八話以降は、人気声優となったヒロインに対し、仕事で失敗続きの主人公が嫉妬して不仲になるという話になる。主演が決まっただけで放送すらしていないのだが、何とも気の早いことだ。それはとにかく、最後は互いの気持ちを確かめ合ってよりを戻し、無事にハッピーエンドを迎える。もちろん、その先に待っている物は地獄なのだが、それは言わないのがお約束である。

・地雷女


 ヒロインは、いつかオードリー・ヘップバーンの吹き替えをするのが夢の新人声優。性格は明るく元気で、少し天然な部分はあるものの、常に前向きで一生懸命な女の子である。だが、劇中における彼女の行動をよく見ると、ちょっと天然では済まされない部分が多々存在する。それ以前に、人格が破綻しているんじゃないかという疑惑すら浮かんでくるような奇妙な描写が幾つか見て取れる。
 火事で焼け出された後、行く当てのないヒロインは主人公の家に身を寄せるのだが、その際、慰めてくれた彼に対して当然のように体を許す。腰軽っ! いくらショックで混乱状態だったとは言え、相手はその日、知り合ったばかりの男性である。弱みに付け込む男も男だが、流される女も女である。そもそも、そんなことをしている場合ではないだろう。翌日、ヒロインは主人公の服を「勝手に持ち出し」、黙って家を出ていく。そして、そのままの格好で主人公が勤めている会社のCMオーディションを受ける。頭大丈夫か? どういう育ち方をすれば、こんな非常識なことができるのか。ちょっとしたサイコパスだろう、これ。その後、二人は主人公の家で同棲することになるのだが、「恋人ではない」という理由でヒロインは性行為を断固拒否する。それどころか、一度体を許しているにも関わらず、着替えを見られることすら拒絶する。面倒くせぇ! こんな女性が実際にいたら地雷などというレベルではない。骨の髄まで吸い尽くされたあげく、ボロ布のように捨てられて終わりだろう。想像するだけで恐ろし過ぎる。
 だが、考えようによっては、ある意味リアルである。自分本位でしか物事を考えられない二十歳の女性の心理を本作は完璧に描き切っている。彼女にとって声優になるという夢が全てであり、そのためには(無意識的ではあるが)利用できる物は何でも利用する。相手の気持ちなどこれっぽっちも考慮せず、そういう概念すら存在しない。この手の人格に問題を抱えた人間は、男女問わず巷に溢れているのが実情だ。ただ、本作は男性視聴者向けの深夜アニメである。基本的に女性は視ないのだから、劇中でリアルな女性像を描かれても困るのである。まさに、誰得としか言い様のない無茶な設定である。

・声オタ


 声オタ(声優オタク)と呼ばれる一大派閥がいる。彼らは声優という職業をアイドル視し、特別な情愛を傾ける。アイドルである以上、人間であってはならない。それゆえ、声優に対し汚れを知らぬ純真性と処女性を求める。その是非に関しては本項では問わないが、そんな彼らが本作を視聴した際に味わう感情を想像すると、なかなか興味深い物が浮かび上がる。
 言わずもがなだが、本作のヒロインは処女ではない。それどころか行きずりの男性と一夜を共にするような今時の女の子である。現在は年上の一般サラリーマンと同棲中。これらの設定は、声オタが声優に対して持っている「幻想」に真正面からケンカを売る行為である。本作が放送されたのが『涼宮ハルヒの憂鬱』と同じ2006年という過渡期だったのであまり話題にならなかったが、もし現代に放送されていたら、とんでもない祭りになっていただろう。ヒロインの夢を応援する者は少数派で、むしろ「声優になるな」という暴言が飛び交う光景は容易に想像できる。
 また、ヒロインは声優事務所付属養成所出身の言ってみれば「エリート新人」である。その割りには事務所の扱いが殊更に酷い。火事で家財道具を一切合切失ったのに、救いの手を差し伸べることもない。タイアップ企業の宣伝部の男性社員と同棲など、これからドル売り(アイドル声優化)するかもしれないことを考えれば、致命傷になりかねないスキャンダルである。普通は余計な波風を立たせないために、最低でも住居ぐらいは用意する物ではないだろうか。そして、何と言っても解せないのは第五話のエロゲーデビュー話である。エロゲーが新人声優の修行の場だったのは遠い昔、今や養成所を出て間もない二十歳の新人が回されるとは考え難く、下手すると経歴に泥を塗ることになりかねない(しかも、劇中の描写によると事務所はエロゲーの仕事とは知らなかったらしい)。ここまで来ると最早「マネージメント放棄」、見え隠れするのは「使い捨て」の四文字である。実際の声優業界が本作同様に殺伐としているのかは存じ上げない。もしかすると、これが「リアル」なのかもしれない。ただ、一つだけ言えるのは、声オタはこんな生々しい現実は見たくもないだろうということである。
 ちなみに、「声オタではないが声優という職業には興味がある」程度の人間が視聴すると、なかなか背徳的で官能的なアニメである。今思い付いたが、もし本作がちゃんとしたベッドシーンのあるアダルトアニメだったら、歴史に残るような傑作になっていただろう。逆に言うと、本作は「エロのないエロアニメ」ということであり、そりゃつまらないだろうという話である。

・総論


 声オタからすれば、クソアニメを超えたおぞましい何かである。声オタじゃない人にとっては、ちょっとだけヒロインの頭がおかしい普通のラブコメである。どちらにしろ、いろいろと残念なアニメであることは間違いない。(なお、原作では上記の疑問点は全て劇中で解決済みで、ちゃんとアイドル声優との同棲という背徳感を楽しめる作りになっているのでオススメである)

星:★★★★(-4個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 22:59 |  ★★★★ |   |   |  page top ↑
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