『つよきす Cool×Sweet』


前代未聞。

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つよきす Cool×Sweet - Wikipedia
つよきすとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2006年。きゃんでぃそふと制作の十八禁美少女ゲーム『つよきす』のテレビアニメ化作品。全十二話。監督は木村真一郎。アニメーション制作はトライネットエンタテインメント、スタジオ雲雀。演劇好きの強気な女の子が、転校先で幼馴染と再会したことから始まる学園ラブコメ。原作ゲームはヒロイン全員が強気系という特徴を持ち、後の「ツンデレブーム」を牽引するほどの人気を博した。アニメ化に際し、女性陣のキャストは全員変更されているのに、男性陣の一部は原作から継続という謎のキャスティングが行われている。

・ツンデレ


 現在でも各所で行われていることから分かるように、「ツンデレ」の歴史ほど面白い研究対象はないかもしれない。それこそ手塚治虫の時代から、ツンツンした女の子がデレデレした時のギャップの可愛らしさは描かれており、用語こそなかったが一つの黄金パターンとしてキャラクターが確立していた。そして、九十年代の後半からゼロ年代前半、エロゲーがオタク文化の牽引車としてその地位を固めると、「萌え」という名の下にカテゴリの分類・整理が行われるようになる。その中には、当然のように「体は小さいけど態度のでかいケンカ友達の女の子」(例:『ONE ~輝く季節へ~』の七瀬留美)も含まれていた。ツンデレという言葉が生まれたのはちょうどその頃である。ただし、俗に言う「ツンデレブーム」が起きたのは、2005年~2006年のことであり、そこから少し間が開いている。そのバックグラウンドには、間違いなく本作の原作ゲームが大きく係っている。
 そもそも、当時の時代背景は、妹ブーム・姉ブームが終焉してエロゲー業界自体が斜陽に差し掛かった頃であり、そこで新たな起爆剤としてツンデレというジャンルに目を付けたのが本作を制作したきゃんでぃそふとである。結果、本作は大ヒットを記録し、エロゲー業界も復活して世代交代が行われた。その後、ツンデレという言葉が独り歩きし、ネット掲示板などで話のネタとして使われ始めた時、ちょうどヒロインがツンデレ風(純粋なツンデレとは言い難い)だった『涼宮ハルヒの憂鬱』が放送されたのである。以降、ツンデレという言葉はアニメ業界のみならず、一般社会にも広く浸透するようになったのはご存じの通りだ。
 本作の功罪は、ブームを作り上げただけでなく、それまで曖昧だったツンデレという単語に一つの定義を与えたことである。それまでは「内と外で性格が異なる」「好きな人の前だけはデレデレになる」などと媒体によって異なる表現がされていたが、本作の登場によって「強気なキャラクターが本心を覆い隠すために虚勢を張ること」と定義付けられた。ただ、これは数多いツンデレの萌え要素の一つの側面に過ぎないので、結果的に良いことだったかどうかは判断が難しい。個人的な意見を述べるなら、ツンデレとは自分を嫌っていた人が徐々に心を開いていく感情の変遷その物を指す言葉であり、世に跋扈するツンデレキャラはその一連の流れを単純記号化しただけの紛い物のように思えるが、これ以上書くと明らかに話が脱線するので自重する。

・改変


 さて、そんな原作をアニメ化したのが本作であるが、世間の評判は著しく悪い。例の如く、原作ファンからは総スカンを食らい、クソアニメのレッテルが張られている。その原因は何だろうか。作画が悪い? いや、確かに技術的な面での不具合は多量にあるが、エロゲー原作アニメは大体こんな物とも言える。設定が違う? いや、『H2O -FOOTPRINTS IN THE SAND-』などと比べたら可愛い物だ。ストーリーがおかしい? いや、別にツンがデレになるというベースラインからは外れていない。本作が叩かれたのは、その程度の些末な差異からではない。もっと単純にして根本的な「主人公が違う」のである。原作の主人公は普通の男子生徒だが、本作の主人公は何とコンシューマ版で追加された「ヒロイン」の一人、近衛素奈緒。もう、この時点で「前代未聞」だ。『スーパーマリオ』で例えるなら、マリオでもピーチ姫でもクッパでもなく、ハンマーブロスを主人公にしてアニメ化するような物である。良い悪い以前に意味が分からない。基本プロットどころか、作品ジャンル自体が変更になるような大胆過ぎる改変である。
 何が悪いって、本作はただのラブコメではなく、「ツンデレをテーマにしたラブコメ」なのである。そして、ツンデレの特徴の一つに「内面の分かり易さ」がある。「思っていることと正反対のことを全力で口にする」と言われているように、言葉では否定しながらも、その態度が明らかに肯定を表しているところに可愛らしさを感じるのがツンデレの萌えポイントだ。ただし、それはあくまで外から見た分かり易さである。隠しているはずの本心がバレバレなのが良いのであって、本作のようにツンデレ側の視点で内面を描いてしまうとメリットを全て捨ててしまうことになる。それでは何の意味もない。まるで犯人が分かっている推理小説のような物だ。そもそも、強気な人間を主人公にすると、ただの少年漫画風熱血馬鹿主人公になり、ストーリー展開自体が強引になってしまう。いくら設定とキャラクターが共通していても、これを『つよきす』だと言い張るのは、どう考えても無理があるだろう。

・実験作


 ただ、ここは一つ、原作ファンには涙を飲んでもらった上で、原作から離れた一つの作品として見てみると、なかなかどうして興味深い点がある。それはヒロイン視点でギャルゲーのシナリオを描くとどうなるかという実験作としての存在価値だ。今までありそうでなかったシチュエーションであり、結果的にギャルゲーという物を見つめ直す良いきっかけになるだろう。
 例えば、主人公の心理に説得力を持たせるため、本作では相手役である原作主人公がとんでもなく「いい奴」になっている。自分の非は素直に認めるし、友達想いで義理堅く行動的、何より女性に対して一途である。ハーレムアニメの主人公と言えば、明らかに人格が捻じ曲がっているのに女の子にモテモテで、「こいつがモテる理由が分からない」と視聴者に陰口を叩かれるのが関の山だが、この主人公なら納得である。なぜ、他のアニメでもこうしないのか。いろいろと理由はあるのだろうが、その一つはゲームとアニメの視点の違いであろう。要するに、基本的に一人称であるゲームだと男性視点の偏った人物像でも構わないが、三人称であるアニメだと第三者の視点、特に女性側の視点が必要だということである。主人公に魅力のない作品ほどつまらない物はないのだから、この辺りを適当にテンプレで誤魔化さず、ちゃんと細部まで煮詰めて欲しいところだ。
 また、特筆すべきは、主人公が原作キャラクター達とは別のクラスに所属していることである。当然、主人公には彼女の同僚となるクラスメイトがいるわけで、日常の多くの時間を彼らと共に過ごしている。そのため、本作はアニメ陣営vs原作陣営という一種のクラス対抗戦の様相を呈している。これはなかなか斬新かつ刺激的な構図だ。学生時代を振り返ってみても、クラス対抗イベントほど面白かった行事はない。良い奴・嫌な奴が入り混じった群衆が、一つの集団となって目標に立ち向かう様は感動的である。もちろん、クラスが違っても個々のキャラクター同士は友人なのだが、個人的な付き合いと社会的な付き合いは別だ。つまり、「個」と「公」は違うということである。この公共という概念が、学園ドラマとは名ばかりで部室等の安全な場所に引き篭もる昨今のアニメでは抜け落ちている視点であり、他に類を見ない独自性を本作にもたらしている。

・ストーリー


 主人公は演劇が大好きな女子生徒。だが、転校した学校に演劇部がなかったため、生徒会に新部創設の許可をもらいに行ったところ、そこで一人の男子生徒と運命的な再会をする。彼は主人公の幼馴染みであり、幼稚園の頃に彼女のことを「大根」と呼んで、深いトラウマを与えた人物だった。最初は彼を嫌っていた主人公だったが、後にその言葉が誤解であったことを知り、気持ちが揺らぐ。これまでの反発心は、「好き」の裏返しだったのではないか……とまぁ、こんな感じでオーソドックスなツンデレシナリオである。些細な誤解から仲違いになるが、その誤解が晴れたことで自分の本心に気付く。しかし、今までずっときつい態度を取っていたため、簡単には素直になれず、気持ちとは裏腹に厳しいことを口にしてしまう。原作と異なるとは言え、これはこれでよくできている。ただし、上記の通り、本作はヒロイン側の視点で描かれているため、この心境の変化を全て映像で見せてしまい、相手の気持ちを推理する楽しみはない。最終的には、原作ヒロインの一人を交えて三角関係になり、彼女との直接対決を制して晴れて恋人同士になる。そのヒロインが原作における「メインヒロイン」なのは、当て付けと取るか挑戦的と取るかで意見が分かれるところだろうか。
 このようにストーリー自体は全く問題ないのだが、そのストーリーを十分に生かした作品になっているかと問われたら、その答えは間違いなく「NO」である。なぜなら、本作の基本演出はデフォルメを多用した九十年代ギャグアニメ調だからだ。しかも、正直、かなりスベり気味である。頻繁に挿入されるアイキャッチは煩わしいだけ。原作もテンポの良い軽快なテキストが売りだったが、ここまで変に崩してはいない。結局は制作者のセンスの差なのだろう。ただ、それでも他作品のパロディーネタをやられるより何百倍もまし。そういった不快感がない分、昨今の低質なハーレムアニメとは雲泥の差だ(ちなみに、最近のエロゲー業界でもパロディー問題が深刻化しているそうだ)。もちろん、エピローグの馬鹿馬鹿しいオチだけはどうやっても擁護できないが。

・総論


 『つよきす』どこー? ツンデレどこー? でも、そこに目を瞑れば、ただ作画が悪くてギャグがスベり気味のB級ラブコメである。こういう物だと割り切れば、十分に楽しめるし、世間一般に叩かれるような作品ではない。まっ、素直に原作をプレイするのが正解ではあるが。

星:☆(1個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 00:07 |   |   |   |  page top ↑
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