『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』

普通の人間ドラマ。

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あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。 - Wikipedia
あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2011年。オリジナルテレビアニメ作品。全十一話。監督は長井龍雪。アニメーション制作はA-1 Pictures。かつて、哀しい事故で幼馴染を失った若者達が、ある事件をきっかけに心の絆を取り戻す青春ドラマ。略称は「あの花」。ただし、あの日見た花の名前はあまり本編には関係ない。

・ストーリー


 主人公は、過去のトラウマと受験失敗が重なったことで世の中に絶望し、以来、不登校を続けている高校一年生。ある日、そんな彼の元に奇妙な訪問者が現れる。その人の名は本間芽衣子、あだ名は「めんま」。彼女こそ小学生時代に不慮の事故で命を落とし、主人公に深いトラウマを与えた幼馴染みの想い人だった。どうやら、彼女は過去に交わした約束を叶えるために現れたらしいのだが、どうしてもその約束を思い出せない。そこで主人公はめんまを成仏させるため、恥を忍んでかつての仲間達「超平和バスターズ」に招集をかける。しかし、彼らは自分以上に変わり果てていて……。
 どこかで聞いたような話である。それもそのはず、失われたコミュニティの絆を取り戻す物語は、一般ドラマでよく見られるシチュエーションだ。一方、かつて交わした約束を叶えるために幽霊が現れる物語は、エロゲーを代表とするオタクコンテンツでよく見られるシチュエーション。ゆえに、本作はそれら表と裏の二つの王道物語を程良く混ぜ合わせたようなハイブリッド作品になっている。ベタである。目新しさという面では大幅に欠けるが、セオリーに則ってさえいれば大外れはない。そのため、本作はメインストーリーをそこそこにして、細部の描写や演出にこだわる丁寧な作品作りを心掛けている。それもアニメアニメした似非リアルではなく、実在の日常風景を切り取ったかのような生々しい現実感を持たせている(個人的には、子供の頃の思い出が外遊びではなく携帯ゲームだった点に、時代の変遷が感じられて興味深い)。それは良い傾向だ。口で言うのは簡単だが、なかなか実際にできる物ではない。そして、その小さなこだわりの積み重ねが視聴者を惹き付けて売り上げを伸ばし、結果的に数々の賞を獲得するのだから、アニメ業界もまだまだ捨てた物ではない。
 なお、ただ一つ、本作はあまり他では見られない特殊なことを行っている。それは物語開始時には、すでにめんまが主人公の家に存在していることである。最初は普通の人間だと思わせて、後から主人公にしか見えない幽霊なのだと匂わせる。これはなかなか面白い演出だ。ありがちな幽霊が登場する幻想的なシーンを省くことで、本作はオカルティックファンタジーではなく、人間ドラマがメインなのだと視聴者に明示しているわけである。この単純なセオリーから外れた新しい試みは、素直に称賛されてしかるべきである。

・弱点


 欠点ではなく弱点。制作スタッフも十分にその問題を認識しているが、別の事情でやむなくそうしているという意味での弱点。具体的に言うと、深夜アニメを見る視聴者のニーズに合わせるなら、そうせざるを得なくなるということ。それは「主人公達(幽霊含む)全員が高校生年代」であることだ。
 この手の絆取り戻し系の作品は、過去と現在で登場人物の外見・内面が大きく様変わりしていればいるほど物語的な面白みが増す。だが、本作の場合は、過去の事件から十年も立っていないので、両者が大して変わっていないのである。確かに、リーダーだった主人公が不登校になったり、地味だったヒロインが派手になっていたりするのだが、根本的な性格がそのままなので想像できる範囲の変化でしかない。その理由の一つは、彼らの社会的地位にもある。例えば、映画『少林サッカー』は、少林拳の使い手達がエリートサラリーマンや倉庫内作業員に身をやつしていたからこそ過去と現在にギャップが生まれ、それがネタの面白さに繋がっていた。だが、本作の場合は五人中四人が現役高校生。たとえ、見た目と性格が変わっていても、学生という肩書きに守られている以上、一定のラインは保たれている。それではなかなかギャップを描くことは難しい。
 もちろん、名作と呼ばれている作品のスタッフだけあって、その弱点を逆手に取った物語を抜かりなく構築している。それは、主人公達を子供でも大人でもない不確かで悩み多き年代と位置付け、彼らが社会との衝突を経て大人になる成長物語をストーリーに取り入れていることだ。ただし、それは完成された作品に物語の軸を新たに一つ増やすということなので、どうしても個々の要素が薄くなる。大人の象徴であるめんまの母親との確執もどうにも弱い。本来なら、過去に捕らわれて前に進めない人は主人公達の一員であるべきだ。本作で言うなら、その役割はすでに主人公とゆきあつが担っているわけで、大人と子供の対立という軸が本当に必要だったのかは疑わしい。

・妄想


 本作が他の幽霊話と決定的に異なるのは、めんまの幽霊が「主人公にしか見えない」ことである。設定的になぜそうなのかの明確な理由は存在するが、それよりも素晴らしいのは、仮に主人公の妄想だったとしても、ちゃんと話が繋がるように作ってあることだ。めんまがなぜか主人公達と同年齢まで身体が成長している(声は当時のまま)のも、主人公の空想の産物だからという雰囲気が出ていて良い。周囲の人々は、当然ながらめんまの幽霊の存在を信じない。特に、かつての仲間達は信じたい気持ちと信じたくない気持ちが複雑に絡み合い、結果、煮え切らない主人公につらく当たる。そんな中で、如何にしてめんまの存在を彼らに信じさせるかが話の鍵になる。個人的な妄想を他人に認めさせるには多大な「説得力」が必要になる。そして、その説得力を生むのは、かつての自分がそうだったように、心からの熱意と具体的な行動だけ。それゆえ、主人公は自分の殻から飛び出して、自らの力で動き出さざるを得なくなる。これぞ、まさに人間ドラマである。幽霊話はあくまできっかけであり、本質は人間が困難に立ち向かう美しさを描いているのだ。
 ……と、本作の物語構造を絶賛してみたが、残念ながら、ここに書いたことは全て第九話でひっくり返される。その回において、なぜか、めんまが小屋の中にいる間だけは文字が書けることが明らかになり、以後、筆談による存在証明と意思疎通が可能になる。この瞬間、本作は上質の人間ドラマから凡庸なオカルティックファンタジーへと降格する。なぜ、最後まで妄想状態を引っ張れなかったのか。良く言えば、頑張った主人公に対するご褒美なのだが、今のままでは制作陣が展開に行き詰ったからとしか取れない。なぜなら、特定条件下で文字が書ける具体的な理由が何もないからだ。つまり、「説得力」がないのである。せっかく、主人公が自分に説得力を持たせようと努力しているのに、作っている本人が放り出すようでは意味がない。

・最終回


 いろいろと騒動があった後、超平和バスターズの面々は、めんまの願いは自分達で打ち上げ花火を上げることではないかと推理し、早速、実現に向けて奮闘する。その過程で主人公は引き篭もりを脱却し、自らの足で歩き出す。ただし、元々、彼は何でもできる完璧人間なので、マイナスから元に戻っただけで成長という要素はない(だからこそ、簡単に脱却できたのだが)。彼が本当に成長した姿を見せるのは、もう少し後のことである。また、その際、子供の頃の恋愛感情が再燃し、昼ドラのような男女六人のドロドロの愛憎劇を見せる。「花火の成功=めんまの成仏」という条件下で、仲間達が心の中で足を引っ張り合う光景は悪い意味で面白い。ちなみに、脚本家が女性だからとは一概に言えないが、本作は男性陣より女性陣の方が心理描写がしっかりしている。そのため、本作は全体的に古き良き少女漫画風の印象を受ける。
 そして、最終回。この回はかなり灰汁が強いため、人によって好き嫌いが大きく分かれるという特徴がある。「感動で号泣した」と言う人もいれば、「最終回のせいで台無しになった」と言う人もいる。花火の一件は大方の予想通りただのミスリードであり、最終回で本当の約束の内容が明かされる。そのサプライズ演出自体は悪くないのだが、あまりにも展開が唐突過ぎて「え、そっち?」と思わなくもない。だが、その辺りのゴタゴタは後に続く喧噪の中で忘れ去られる。と言うのも、この最終回、最初から最後まで延々と登場人物が泣きわめているのである。花火が失敗したからと泣き、仲間内で争っていたからと泣き、めんまがいなくなったからと泣き、めんまが再び現れたからと泣く。感受性の強い人は彼らの慟哭に触発され、一緒になって涙を流すだろうが、冷静な人は強引過ぎるお涙頂戴劇に、馬鹿馬鹿しくなって失笑するだろう。やはり、これは最終回でいきなり飛び出した「かくれんぼ」というキーワードに問題があるように思える。大体、かくれんぼは、基本的に人を「見つける」遊びなのだから、人と「別れる」シーンとの噛み合わせはあまり良くない。せめて、皆で遊んでいる間にいつしかいなくなったといったスマートな話にできなかったのか。せっかく、細やかな演出をじっくりと積み上げてきたのに、最後の最後で適当になってしまったのは非常に残念である。

・総論


 『true tears』や『TARI TARI』と同じく、深夜アニメにしては一般ドラマのような高いクォリティを保っている佳作。だが、それは逆に言うと、アニメでなければならない必然性がないということである。幽霊と妄想の狭間の存在であるめんまを、もっとビジュアル的に表現できていれば、違った結果になっただろうに。

星:☆☆☆☆☆☆☆(7個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 23:10 |  ☆☆☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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