『げんしけん二代目』

彼岸。

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げんしけん - Wikipedia
げんしけん二代目とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2013年。木尾士目著の漫画『げんしけん 二代目』のテレビアニメ化作品。全十三話。監督は水島努。アニメーション制作はProduction I.G。大学のオタクサークル「現代視覚文化研究会」内で繰り広げられる脱力系ストーリーの最新作。公式では一応、第三期という扱いになっているらしいが、旧作の主要な登場人物はほとんど卒業した後なので、ほぼ別シリーズと呼んでも差し支えない。と言うより、別シリーズであって欲しい。

・続編


 まず、確認しておきたい。本作は、あくまで漫画『げんしけん 二代目』をテレビアニメ化した物であり、アニメ『げんしけん』『げんしけん2』の続編作品ではない。これが大前提である。それゆえ、本作を両作品と照らし合わせて批判するのはお門違いである。だが、旧作のファンだった人からすると、とてもじゃないが黙ってはいられない箇所が幾つも存在する。そのため、後に禍根を残さぬよう先にまとめて書いておく。
 何より、見過ごすことができないのは「キャストの全変更」である。続編を作る際、やってはいけないことベスト3に入るような悪行である。特に、荻上千佳と斑目晴信は本人が声優に乗り移ったかの如きハマり役だったため、この二人を変えることだけはどうしても許し難い。旧作とのブランクが長いからという言い訳は、後番組である『ローゼンメイデン(2013)』でほぼ全キャストが引き継ぎだった時点で通用しない。ギャランティの問題にしても、新たに中堅声優を複数人起用している時点で通用しない(ちなみに、その中堅声優が起用された大野加奈子は、何をしゃべっているのか聞き取れないレベルのミスキャストである)。結局、声優刷新という話題性、つまり、マーケティングを重視したキャスティングでしかないということだ。その証拠に、本作のOP曲を歌っているのは最近人気急上昇中の新規声優の一人である。
 続いての問題点は、旧作の収録範囲が原作の途中までだったため、アニメ化されていないシーンが存在することだ。中でも、物語上の重要な転換点である合宿回が丸ごとカットされているのは如何ともし難く、そのため、アニメしか見ていない人にはストーリーが理解できないという事態が発生する。もちろん、本作は漫画新シリーズのアニメ化作品なので、原作未読者を考慮する必要はないかもしれない。だが、それならそれで、今までのあらすじを第一話で描くべきだろうし、未アニメ化のシーンはしっかりと回想で補完すべきだろう。過去との連続性を断ち切った独立作品が、視聴者に予備知識を求めるようになったらお終いである。
 最後の問題点は、オタクレベルの低下である。例えば、斑目の部屋に『けいおん!』や初音ミク風のフィギュアが飾られているのはどういうことだろうか? 斑目という人物は古き良き硬派なオタクであり、そういったライトな萌えを誰よりも嫌っている人物ではなかったのか。それと関連して、本作の欠点は劇中アニメ『くじびきアンバランス』が削除されていることである。くじアンは、内容はよく分からないが、斑目達濃い目のオタクがハマるマニアックで高品質な作品とされていた。それゆえ、彼らのオタク度合を補完する重要な役割を担っていたのだ。だが、本作ではそれが排除され、既存の有名作品の模倣に置き換わっているため、あらゆる点でオタクレベルが低い(劇中でボーカロイドを使用したBGMも流れる)。つまり、流行に流されるファッションオタクと同程度ということであり、そんな彼らが現代視覚文化研究会を名乗っても全く説得力がない。

・男の娘


 本作の連載が始まる少し前、「男の娘ブーム」が話題になったことがある。2009年頃だろうか。「こんな可愛い子が女の子のはずがない」という言い回しが用いられるようになったり、アイドル育成ゲームに男の娘が参加したり。ただ、「ブームになった」と書いていないのは、あくまで話題になっただけで実際には全く流行っていなかったからである(もちろん、局所的な流行はあったが)。そもそも、「男の娘」の定義自体が曖昧だ。女の子の格好をした男の子なのか、男の子の格好をした女の子なのか、それとも未成熟なロリ・ショタの総称なのか、当時ですら疑問に思われていた。そんな状態なのになぜか話題になったのは、要するに何者かがブームを作り上げようとしたからであり、今風に言うなら典型的なステマである。そして、本作はその謎のブームに乗っかった作品であり、ブームが跡形もなく消え去った今、結果的に孤軍奮闘するような形になっているのは何と言う皮肉だろうか。
 本作より登場した波戸という男子新入部員がその男の娘である。男性なのに男同士の恋愛を描いたボーイズラブが好きな「腐男子」で、女性よりも女性らしく扮装する「女装男子」である。ただし、彼自身は同性愛者ではない(女性としてOBの班目と接している内に、徐々に彼に心惹かれていく描写はあるが)。彼が大学入学を機に女装を始めた直接の原因は、腐女子達の間に入って一緒にオタトークをしたかったから。だが、その目的は、いつしか「自分自身をボーイズラブの登場人物にして妄想する」という楽しみに変わっていく。その感情をビジュアル化するため、女性化した波戸が幽霊のように独立し、彼女が腐女子的な発想で波戸に助言するという演出を本作は用いている。これはなかなか斬新で面白い試みである。ただ、斬新ではあるが、心理描写として本当に正しいのかどうかは少々疑問を覚える。問題なのは、それが女装ではなく完全なる女性の形を取っていることだ。つまり、心の内なる女性性「アニマ」が具現化した物だが、同性愛の傾向を持つ人間はアニマに何らかの異変を来たしていると考えるのが定説なので、普通の女性の姿だと設定的にいろいろとズレが生じる。ここはちゃんと女装男子=両性具有の状態にするべきだったのではないだろうか。
 ちなみに、男性の波戸と女性(女装)の波戸は演じている声優が異なる。これも意味が分からない。映像作品としてのクォリティを保つなら、女声が出せる男性声優か、男声が出せる女性声優を起用すべきだろう。そういう人材がいないというのであれば、それは別の意味で大問題である。

・腐女子


 旧作の主人公達が卒業した後、荻上千佳が新会長となった現視研は、自然と女性会員ばかりが集まり、結果的に腐女子サークルと化してしまう。その状況を悲しむ新会長だったが、なってしまった物は仕方ないと改めてサークル運営に一生懸命取り組むのだった。と、このように、本作は腐女子の生態をリアルに描いた「腐女子アニメ」である。ところが、視聴者ターゲット自体は前作から継続して男性のまま。ここが難しいところだ。ボーイズラブ好きな女性を好意的な視線で見ている男性は多くない。そういった人々に対して、腐女子の現実を包み隠さずに暴露しつつ、彼女達を萌え的な意味で可愛いと思わせるという極めて困難な作業を行わなければならない。なぜ、そんな茨の道にわざわざ進むのかと老婆心ながら心配になるほどだ。
 そういった観点で見て行くと、本作の最大の欠点は誰の目にも明らかで、それは「腐女子を否定する者が劇中にいない」ということである。『げんしけん』という漫画・アニメは、常に身内に正反対の思想を持つキャラクターを置いて自己批判してきた作品だった。第一期では春日部咲が、第二期では荻上千佳がそれぞれオタクと現視研を否定していた。そうやって相反する思考をぶつけ合うことでテーマを深めていたのである。
 勘違いしてもらっては困るが、腐女子を気味悪がったり馬鹿にしたりする人自体は劇中に登場する。そうではなく、本作に決定的に欠けている要素は、男女の恋愛が好きでイケメン男性キャラに心ときめかせる「普通の女性オタク」である。詳しい数値は分からないが、どう考えても腐女子より普通のオタクの方が多いはずだ(最近は美少女アニメ好きの女性オタクも多い)。いくらボーイズラブの同人誌が売れようと、その何倍もの数の少女漫画や乙女ゲームが売れているのである。ところが、本作にはそういった人々の影は微塵も見られない。なぜか、頑ななまでに「女性オタク=腐女子」と決め付け、その勝手な思い込みを前提に話を進めているのである。これは非常に危険である。オタクとは本来、自分の好きな物を突き詰める人のことであり、各ジャンルに多様化するのが当たり前だ。しかし、本作はそれを明確に否定し、表面的な物への画一化を望んでいるのである。これが作者の理想なのだろうか? 上にオタクレベルの低下と書いたが、これではまさにライトオタク・ファッションオタクの考えるステレオタイプなオタク像その物である。これを「にわか」と呼ばずして何と呼ぶのだろう。

・恋愛


 本作のストーリーの前半は腐女子と男の娘にまつわる話、後半は班目の春日部咲に対する片想いの話が中心になる。ところが、アニメ『げんしけん2』の項目で書いた通り、旧作は恋愛要素を少なめにして、人間ドラマを中心に描いている。そのため、班目の片想いの件にはあまり触れられておらず、これまた原作未読者には状況がよく分からないという問題が発生する。具体的に言うと、班目が自宅の机に春日部咲のコスプレ写真を隠していたエピソードはアニメ版ではカットされている。もっとも、それ自体はあまり問題ではない。問題なのは「話の連続性」である。本作のストーリーは、二次元至上主義者のオタクが彼氏持ちの年下の女性をずっと横恋慕していたという話だ。それは彼のアイデンティティーを根底から覆すことであり、ゆえに死ぬ気で隠し通している。そういった背景がある以上、何よりも「時間の積み重ね」こそが重要なのである。だが、本作はそれを自ら断ち切っている。過程に当たる部分を映像化していないばかりか、演者まで変えた。班目を演じて十話も立っていない声優が、映像化されていないシーンを振り返りながら、春日部咲への長年に渡る想いを語る。これほど珍妙なシーンはない。
 結局、班目はあえて玉砕するために春日部咲に告白し、見事に振られてしまう。そして、彼は人として男として成長する……となるのが普通の作品なのだが、なぜか本作はそこから班目が会社を辞め、再びオタクに戻るという流れを取り、そこでストーリーが終結する。さて、どうした物か。班目を主人公として見るなら、これはもうどうしようもない駄作なのだが、波戸を主人公として見るなら、彼が世間に認められて自己実現を果たす話としてギリギリのラインで踏み止まっているようにも思える。さぁ、どちらを採用するか。「荻上千佳が主人公じゃなかったっけ?」という話はこの際不問にする。

・総論


 とても良いアニメですので非常にオススメです。

星:☆(1個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
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