『怪物王女』

B級のススメ。

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怪物王女 - Wikipedia
怪物王女とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2007年。光永康則著の漫画『怪物王女』のテレビアニメ化作品。全二十五話+番外編一話。監督は迫井政行。アニメーション制作はマッドハウス。大人向け『怪物くん』とでも言うべきダークな世界観と魅惑的なお姉様キャラクター達の競演が特徴のアダルティックホラーコメディー。と同時に、テレビ放送局の厳し過ぎる表現規制の煽りをもろに受けた悲運の作品でもある。

・B級


 世の中には、万人に認められる一流の作品よりも、一部の好事家にのみ評価される「B級作品」を愛する奇特な方々がいる。彼らは作品のダメさ加減に大きな楽しみを見出し、その壊れっぷりに歪んだ愛情を注ぐ。なお、ここで言うB級とは、明らかに低予算・低品質の出来でありながら、ストーリーやビジュアルに何らかの光る物があるマニア向けの作品のことを指す。例えば、セガール映画などがその典型で、映画の質自体はどうしようもないのだが、ファンはセガールの超人的な活躍を見るためだけに映画館へ足を運び、現実離れしたお馬鹿なストーリーに喝采を送る。
 そういった愛すべきB級作品とただの駄作との違いを明確に定義付けするのは難しいが、月並みの表現をするなら、制作者に「作品への愛情があるかどうか」であろう。どんなに不利な条件下であっても、それを覆すほどの深い作品愛が感じられれば、細かい粗は気にならない。むしろ、粗すらも愛しく思えてくる。すなわち、それは「面白い」のだ。そして、この『怪物王女』という作品も、良作と駄作に二極化し易い深夜アニメ業界には珍しく、そんなB級作品の香りがする一品である。

・低予算


 第一話を見れば誰もが一目で理解するだろうが、本作は紛うことなき「低予算」アニメである。画は荒く、演出も安っぽく、とてもじゃないが2クールも持ちそうにない。しかも、放送局の厳しい倫理規定のせいで表現が制限され、話の肝であるはずの「流血」に関する描写を一切行うことができない(ヒロインの血を飲むことで不死の戦士になれるという設定にも係わらず)。もう、この時点で原作の完全再現など絶望的である。悪い予感しかしない。このままでは、行き着く先は「原作レイプ」の誹りを受けるクソアニメの世界だけだろう。
 だが、制作スタッフは諦めなかった。原作の再現が不可能ならば、限られた予算の中でアニメ版独自の表現を模索すればいいのだ。そこで、本作は作画監督の黒田和也のタッチを全面に押し出す画作りを行い、原作の雰囲気を残しつつ、全く新しい『怪物王女』像を作り上げることに注力した。コンテは奇抜なレイアウトを多用し、塗りの濃淡を強調する。本編の脚本はできる限り原作に近付け、逆にオリジナル回はギャグに徹する。演出は古き良き八十年代少年アニメ風。音楽には一般ウケはしないが、コアなファンを持つALI PROJECTを起用。さらに、CVにはお姉さん系の演技に定評のある声優を並べる……等々。

・お姉様


 漫画をアニメ化する際において、ファンに最も喜ばれるのは原作の完全再現である。だが、それができないのなら、次にアニメスタッフのすべきことは原作の持つ最大のセールスポイントを強調することである。では、本作の一番の売りとは何だろう。やはり、一つは作者の幅広い趣味趣向を生かしたおどろおどろしい世界観であり、もう一つは主人公を取り巻く魅力的な女性キャラクター達であろう。しかも、ただのハーレムではなく、主人と下僕という上級者向けのサディスティックな男女関係だ。恋愛感情などはこれっぽっちも存在せず、ただおもちゃの如く目上の人間に弄ばれる。
 この内、前者は予算的にできそうにないため、後者に尽力することになるが、その目論見は十分に達せられたと言っていいだろう。気位の高い怪物の姫、がさつで男勝りな狼女、ミステリアスな雰囲気の吸血鬼等、声優の名演も含め、アニメだからこそできる動的なセクシャリティーが存分に発揮された良キャラクターに仕上がっている。さらに、表現規制のせいで露骨な性描写が押さえられたからこそ、かえって大人向けの品のあるエロさが生まれるという怪我の功名。そのため、ただ単なる「キャラ萌え」では説明できない魅力に溢れている。先程、セガール映画を例に挙げたが、こちらもキャラクターの活躍を見るためだけにテレビを付ける価値のある作品である。

・ストーリー


 話が前後するが、ここで少し脚本面についても触れておこう。原作第五巻までを再構成したストーリーは2クールでよくまとまっている。ただし、表現規制の魔の手がシナリオにまで及んでいるため、全体的に締まりのない何とも間の抜けた物語になっているのは否めない。元々、原作がB級ホラー的なノリを前面に出しているが、アニメ版ではそれがさらに加速しており、尺調整のために付け加えられたオリジナル脚本はいろいろな意味で酷い。もっとも、そのおかげで「何でもあり」のバラエティー感が増しているため、一長一短である。
 また、原作では、主人公は主人のピンチになるとスーパー某人のように覚醒するという設定があるが、アニメ版では完全にオミットされている。おそらく、2クールで完結させるためには話が広がり過ぎるからだという判断であろうが、そのせいで主人公が最後まで情けなく、いまいち物語的な盛り上がりに欠けるのは明確な欠点か。ただ、アニメの雰囲気的に考えると、そちらの方がかえって好都合だったかもしれない。何より、「シリアス」という四文字が全く似合わない作品である。

・総論


 低予算と表現規制という二重苦に晒されながらも、あえてB級感を前面に出すことで、やりたいことをやり切った稀有な作品。原作とはかけ離れているが、「これはこれであり」と言えるギリギリのラインを保っている。いつも一流の作品ばかりを追いかけるのではなく、たまにはこういった肩の力の抜けた作品を見てみるのもいいだろう。決して、万人にはオススメできないが。

星:☆☆☆☆☆☆(6個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 23:37 |  ☆☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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