『ガールズ&パンツァー』

命知らず。

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ガールズ&パンツァー - Wikipedia
ガールズ&パンツァーとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2012年。オリジナルテレビアニメ作品。全十二話+総集編二話。監督は水島努。アニメーション制作はアクタス。「戦車道」に青春を懸ける女子高生達の姿を描いた日常系ミリタリーアニメ。制作が遅れに遅れ、総集編を二度挟んでなおレギュラーシーズンでは完結できず、第十一話と第十二話が放送されたのは翌年の三月のことだった。

・女子高生


 「女子高生に何かをやらせてみよう」シリーズの一翼である。昔からありふれたジャンルなので、別に起源がどうの歴史がどうのと今更語る必要はないだろう。要は、みんな大好き女子高生に男性的な趣味やスポーツを体験させて、そのギャップを楽しもうという物だ。これはアニメや漫画に限った話ではなく、例えば、女子高生にジャズバンドをやらせてみただけの映画『スウィングガールズ』など様々な分野で枚挙に暇がない。ただ、例によって例の如く、テレビアニメ『あずまんが大王 THE ANIMATION』登場以前と以後で内容が大きく様変わりしている。それ以前は趣味やスポーツがメインだったのに対して、以後は女子高生が日常を楽しく過ごす方がメインで、趣味要素は他と区別するための追加ガジェットに過ぎない。しかし、他と被らず、それでいて程良いエンタメ性を出せる美味しいネタがそこらに転がっているわけがないので、結局、妙な物を組み合わそうとしてカオスになりがちだ。最終的には、女子高生がエロゲ声優をやったりして訳が分からなくなるのがオチである。
 そして、本作が選んだ追加要素は「戦車道」である。もう一度書く。「戦車道」である。戦車道とは戦車の操縦と戦闘をスポーツにした一種の武道である。本作では華道や茶道と同じく良家の子女の嗜みとされている。武道と呼ぶからには日本発祥ということなのだろうが、実際の日本に戦車が活躍したという歴史は存在しないので、真面目に考えると頭が痛くなる。荒唐無稽もここまでくると爽々しい。日常系アニメと戦車を組み合わせようとした発想も凄いが、誰も止めないアニメ業界も凄い。良い意味で馬鹿である。
 ただ、設定は斬新だが、脚本は安い。いや、安過ぎる。主人公は戦車道の家元の娘だが、過去のトラウマが原因で戦車を避けていた。それが生徒会の強引な勧誘により嫌々ながら再開し、学校の廃校を賭けて全国大会に出場することになる。そこに主人公の姉が立ちはだかる。と、あらゆるシチュエーションがベタベタで、どこかで見たことのある手垢の付いた話ばかりだ。相変わらず、町内・学内・身内に敵がいないのでどこまでも温い(戦車が建物を破壊しても、「やった。これで新築できる」と街の人が喜ぶ等)。キャラも薄い。声優のレベルも低い。もっとも、設定が斬新で脚本まで斬新だと妙な前衛芸術になってしまうので、これはこれでいいのかもしれない。たぶん。

・戦車道


 世間的によく言われるのが、「なぜ、本作がウケたのか分からない」ということだ。アニメの未来について真剣に考えている人ほど、むしろ不思議に感じるらしい。例えば、『けいおん!』などは分かり易い。何の敵もいないダラダラとした日常と努力なしでスポットライトを浴びられるイージーな世界が、中高生にとってのリアルな理想郷だったからだ。バンド演奏と歌というお祭り要素が魅力的だったのもあるだろう。だが、本作はバンドではなく戦車である。確かに、ミリタリーは男性が好きな物の一つだが、萌えアニメとミリタリーの噛み合わせが良いとは到底思えない。実際、同年に放送されたミリタリー日常系アニメの『うぽって!!』は散々な結果だった。それゆえ、ただ単純に戦車のミリタリー要素が原因だとは言い難い。
 まず、本作の優れた点は、戦車が動くまでのメカニズムを克明に描いていることだ。ズブの素人が初めて戦車に触れるところから始まり、徐々に操縦や戦闘に慣れて行く様子がキメ細かく描写されているので、彼女達と同じく戦車の知識がない視聴者もすんなりと物語の中に入っていけるのである。また、その際、戦車の音や装甲の肌触りなどを精密に描いているため、戦車が今そこにあるという質感・空気感を存分に味わうことができ、これも初心者を誘う良い効果を生んでいる。特に、音の描写に関しては素晴らしいの一言で、発射音や走行音だけでなく人が戦車の上に立つ足音などもリアルに再現しているため、戦車マニアも納得の出来である。
 もう一つは戦車の乗組員が五人一組であることだ。これが一人乗りの戦闘車両なら面白くも何ともない。五人乗りで車長・砲手・操縦手・装填手・通信手と役割分担がしっかりなされているからこそ、各キャラクターの個性が生かせるのである。同時に皆で協力して強大な敵に立ち向かう友情展開も描き易い。昨今の萌えは、外部との関係を断ち切る代わりに内輪の絆を強調する傾向にあるため、戦車という「鉄の棺桶」は打って付けの存在だ。そして、その棺桶同士が協力したり反目したりして戦う様は、まさに現在のアニメ業界を映し出しているようで面白い。

・実弾


 以上、良くも悪くも典型的な水島努監督作品なので、中身は空っぽだがエンターテインメントとしては優秀である。これと言って問題視する要素もなければ、褒め讃える要素もない。『けいおん!』みたいに物語の軸が狂っていることもない。むしろ、萌えアニメ的な要素が邪魔なぐらいだ。ただ一点、どうしても見過ごせない点を除けばであるが。
 それは、彼女達が戦車道に用いている弾丸が「実弾」であることだ。基本的には炸裂しない徹甲弾(なぜか、地面に当たると炸裂する)だが、分厚い装甲に突き刺さる程度の威力を有している。衝撃だけでも眼鏡が割れるほどで、当然、当たり所が悪いと大破・爆発、機動がやられると障害物に衝突、もしくは崖下に落下だ。実際、劇中でも何度か戦車が炎上したり横転したりしている。しかも、主人公は戦車から顔を出す機会が多く、そこに直撃すると「即死」である。主人公達もその危険性を十分に認識しているらしく、「滅多に当たる物じゃない」「もしものことがあったらどうする?」「一斉に攻撃されたらケガ人が出るかも」などと深刻に話し合う。少なくとも、試合中に負傷者が出るのは日常茶飯事らしい。
 あり得ない。剣道で例えるなら、高校生の大会で「真剣」を用いるような物だ。剣術の歴史を振り返ってみても、戦闘訓練やコロシアムならともかく、鍛錬としての「試合」で真剣を使うことは早い段階でなくなっている。それどころか木刀すら幕府に禁じられ、竹刀に変更されたという記録が残っている。当然、戦車戦をスポーツとして成立させようと思うなら、安全面に対する配慮は必要不可欠だろう。相手が良家の子女なら尚更だ。常識的に考えて、ここはペイント弾を使うべきではないだろうか。それでは映像に迫力が出ないと言うなら、音と光と煙だけのバラエティ番組用こけおどし弾でもいい。要は、安全だという何らかの「理由付け」が必要ということだ。さらに言うと、主人公達は試合中にヘルメットも被らなければ、シートベルトもしない。それ以前に体を鍛えてもいないし、定められた「型」もない。こんないい加減な心構えでよくも「戦車道」と名乗れた物だ。

・バーチャル


 かのような指摘をした際、ファンはいつもこう擁護する。「フィクションだから」と。なるほど。確かに、アニメとは未来の世界の猫型ロボットが地球破壊爆弾を持っていたり、テニスプレイヤーがテニスで物理的に相手を倒すような世界だ。それを思えば、戦車道の名を借りた殺人ゲームぐらい安い物。主人公に砲弾が直撃しても、肌を黒焦げにして髪をアフロにすれば済む話なのだから。
 もちろん、問題はそんな矮小なことではない。アニメーションはただの絵である。たとえ、キャラクターに声が付いて自由に動き回っても、所詮は魂のない人形である。それを「生きている」と思わせるにはどうするか。食事をしたり恋をしたり、悩み苦しんだりするのも良い方法だが、それより大事なのは「死を恐れること」である。命を失うことに対する本能的な恐怖心があるからこそ、その反動で生きることが実感できるのである。だが、本作の主人公達は死を恐れない。当たれば即死の実弾が飛び交う中、彼女達は鍛えられた兵士のように勇猛果敢に出陣する。そもそも、自動車の免許も持っていない彼女達が当たり前のように初見で戦車を動かすという異様さ。まず、かの如き巨大な車両を動かすこと自体に恐怖を覚えるのがまともな人間だ。文字通りの「命知らず」である。そんな人間は生きている人間ではない。
 最終盤、全国大会の決勝戦では住宅地を舞台にした市街戦が行われる。だが、なぜかその街は無人である。無人どころか生活の匂いが一切しないゴーストタウンである。そこで、彼女達はこれ幸いとばかりに街を破壊しまくる。これでは完全に一昔前のテレビゲームである。要するにバーチャルだということだ。バーチャルな世界に命知らずのキャラクターとはお似合いだが、これではどんなに戦車の描写を頑張ってもリアリティなど生まれない。そんな死んだ人間が努力と友情パワーで勝利を掴んだところで感動も何もないのである。

・総論


 ただの日常系萌えアニメである。戦車シーンだけは頑張っているが、中身はないに等しい。そして、その戦車シーンのせいで、ただでさえ薄い人間性がさらに薄くなっている。結局、ミリタリーと萌えアニメは噛み合わせが悪いと再確認しただけであった。

星:☆☆(2個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 23:51 |  ☆☆ |   |   |  page top ↑
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