『おおかみかくし』

狼なんか怖くない。

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おおかみかくし - Wikipedia
おおかみかくしとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2010年。コナミデジタルエンタテインメント製作のPSPゲーム『おおかみかくし』のテレビアニメ化作品。全十二話。監督は高本宣弘。アニメーション制作はAIC。ある奇妙な風習が残る山奥の町で、高校生の主人公が恐ろしい事件に巻き込まれる怪奇ホラーミステリー。原作・原案は『ひぐらしのなく頃に』『うみねこのなく頃に』で知られる竜騎士07。キャラクターデザイン原案は『ローゼンメイデン』でお馴染みのPEACH-PIT。

・ヒロイン


 ある夏の日、高校生の主人公は、親の仕事の都合で山奥のニュータウンへと移住する。引っ越し当日、彼は隣に住むクラスメイトのヒロインと顔見知りになる。すると、彼女は出会った瞬間から主人公に対して強い好意を抱き、まるで十年来の恋人のように濃密なスキンシップを要求する。また、クラスメイトも転校生に対して非常に好意的で、彼は一躍クラスの人気者になる。と、ここまで書けば、誰もがどこの三流ハーレムアニメかと感じるだろう。世の中にはフレンドリーな女の子もいるし、転校生に一目惚れする女の子もいる。だが、相手がどのような人間なのかも分からず、ましてや相手の意志も確かめずに一方的な愛情を押し付けるような女の子はいない。もしいるとしたら、それはある種の狂気の産物であり、恐怖の対象である。本作はホラーアニメであるが、まさかこんなところで身の毛もよだつ恐怖感を演出してくるとは予想の範囲外だった。
 ……と、勢いでこう書くと作者の「してやったり」という表情が目に浮かびそうだ。実はこれは「伏線」である。詳しくは後述するが、ヒロイン達は生まれ付き特定条件下で性的衝動を抑えられなくなるという特異体質を持っており、一方、主人公も特定の人間の性欲を誘因する十年に一人と言われる天性の素養を有していた。そのため、ヒロインが主人公に見せていた異常な愛情は、ヒロインの意志ではなく主人公の力に誘われた物だったのだ。これは萌えアニメのお約束を逆手に取ったなかなか面白い設定である。やがて、ヒロインは、自分の主人公に対する愛情が性的衝動による物なのか、それとも本当の初恋による物なのか思い悩む。視聴者視点で見るとあまりにも不自然な好意なので、どう考えても性的衝動による物なのだが、今まで恋という物を知らなかったヒロインは何としても初恋だと思い込もうとする。この時のヒロインは意地らしくて可愛らしい。結局、ヒロインは性的衝動に負けて発狂するのだが、主人公の声によりギリギリのところで自我を取り戻す。それは恋心が真実の愛情だったからだろうか。
 ただ、残念ながら、この興味深い設定は第六話で提唱された後、劇中では全く語られなくなる。以後、ヒロインは第十話まで誇張抜きで文字通り「放置」される。そして、事件が全て終わった後のエピローグでは、第一話とまるで変わらない一方的な好意を主人公に見せる。一体全体、この作品は何をやりたいのか。変わらなきゃ。せっかく面白い設定を用意しておきながら、全くそれを生かさないのは情けないとしか言い様がない。

・ホラー


 本作は、奇妙な慣習の残る山奥の町を舞台にした怪奇ホラーミステリーである。同原作者が手がけた『ひぐらしのなく頃に』と同じジャンルだ。ただ、ひぐらしと違って、本作には極めて大きな問題が一つある。それは「ホラーなのにあまり怖くない」ということである。確かに、画面を傾けたり色彩を工夫したり恐怖心を煽る音楽を使ったりと、おどろおどろしい雰囲気を作り上げようとした努力の跡は見られるのだが、さすがにこれを怖がるのは多感な中学生でもちょっと難しいだろう。
 まず、気になるのが、「奇妙な慣習の残る山奥の町」というホラー作品における王道設定の描き方が、本作はあまり上手くないということである。何が悪いって、町人が「町の掟を守らなければならない」とまるで義務感に駆られたように口にすることである。そうではない。奇怪な掟があること自体が怖いのではなく、そういった掟が日常生活の中に溶け込んでいるから怖いのである。町人は一般常識から見ると明らかに歪なルールを当たり前のこととして受け止め、誰もそれを疑ったりしない。そんな閉鎖環境に部外者が立ち入ることで、見た目は同じなのにまるで異世界に迷い込んだような錯覚に襲われ、外ではマジョリティだった自分がマイノリティになる。要するに、今まで普通だと思っていた常識=アイデンティティの危機に直面するからこそ、強い恐怖を覚えるのである。
 また、本作は元々の住民が住んでいる「旧市街」と、新たに他所から移住してきた人々が住む「新市街」が川を挟んで対立しているという面白い設定になっている。だが、その練り込みが極めて甘い。まず、旧市街と新市街の見た目があまり変わらない。住んでいる人もほとんど変わらない。たとえ、表面的には仲良くしていても、心の中には深い溝がある。旧市街の人は新市街の人を余所者扱いし、新市街の人は旧市街の人を不気味に思っている。そういった目には見えない根深い対立構造をしっかりと提示しないと、この設定にした意味がないだろう。
 なお、劇中でも語られないし、それを匂わせるような台詞も小道具もないのだが、本作の舞台は1983年ということになっている。正直、その必要性を一切感じない。確かに、その頃は都市近郊のベッドタウンの開発が進み、元住民との軋轢が問題化した時期ではあるのだが、それならもっと映像に八十年代らしさを出すべきではないだろうか。何も好き好んで自ら「死に設定」を増やす必要もなかろうに。

・狂気


 本作におけるもう一つの大きな欠点は、作品のダークな雰囲気を生み出す重要なガジェットである「狂気」の描き方が非常に稚拙であることだ。タイトルの時点でネタバレなので今更隠す必要もないと思うが、本作の舞台となる嫦娥町は現代に生き残った「狼男」達が暮らす村である。彼らは満月の夜になると(なぜか毎日満月だが)性的衝動が強くなり、あるきっかけで周囲の人を見境なく襲うようになる(主人公はその誘因する力が一際強い)。その際、狂気に蝕まれて内外共に人間離れした姿を見せるのだが……それが黒目を小さく口を大きく描き、奇声を挙げたり「くくくっ」と笑ったりと、実にアニメアニメした狂気なのである。さすがに、これを怖がるのは多感な小学生でもちょっと難しいだろう。
 そもそも、なぜ狂気に捕らわれた人間を見ると恐怖を覚えるかだが、噛み砕いて言えば「合理性がない」からだ。例えば、「美味しい物を見るとよだれが出る」、これは一見すると不思議な現象だが、今では後天的な経験で獲得した条件反射として論理的に説明されている。だが、もし、これが「美味しい物を見ると人を傷付けたくなる」だとどうなるだろう。両者の間には何一つ関連性がない。関連性がない物同士を組み合わせることは、我々の常識からするとあり得ない。だが、狂気に捕らわれた人は無関係の物を平気で組み合わせる。それゆえ、我々の脳が混乱を来たし、そこに恐怖を覚えるのである。では、本作の場合はどうだろう。確かに、様々な人が劇中で発狂するのだが、彼らは「狼男」の末裔なのである。狼男が満月の夜に狂うのは、少なくともフィクションの世界では至極当然のことだ。つまり、そこに合理性が存在するのである。そのため、そういうシーンに直面しても、視聴者は恐怖感を覚えないどころか、「あぁ、可哀想だな」と普通に同情してしまう。そうなると、最早ホラーでも何でもなく、ただのギャグになってしまうのである。
 ちなみに、本作にはもう一つ欠点があって、それはホラーミステリーなのに「主人公の身に危険が及ばない」ということである。基本的に余所者である主人公は常に蚊帳の外におり、好奇心から事件に首を突っ込むだけ。そして、主人公に訪れる最初の危機は、第三話で隣人男性(ヒロインの兄。狼男)に性的に迫られることである。確かに、それは怖いが……いや、違うだろう。

・クライマックス


 こんな本作であるが、第九話ぐらいまではまだ真面目にホラーをやろうとしているので、拙いながらも十分に評価できる。オカルトに興味のある中学生ぐらいなら、特に不満も覚えずに視聴することも可能だろう。問題はその後、劇中で年に一度の八朔祭が始まる第十話以降である。
 旧市街と新市街の間で二重スパイとして暗躍していた男が、かつて狼達に殺された恋人の仇を取るため、嫦娥町全体を滅ぼそうと企む。彼の選んだ手段は、町を流れる川の上流にあるダムを決壊させること。……ダムなんてあったんだ。初耳だ。それならそれで、事前にダムにまつわる伏線を入れるべきでは? そして、男は警官から奪った拳銃でダムの管理人一名(他の人は?)を殺害し、管理装置を操作して「放流」を開始する。途端、川が増水して壊滅の危機に瀕する嫦娥町って、おいおい。ただの放流で下流の街が壊滅するのはお隣の国ぐらいな物です。爆破しろ、爆破。だが、ヒロイン達が至急駆け付けたことで、あえなく放流はストップ。なぜ、立て籠もらない。なぜ、管理装置を壊さない。この時点で計画は失敗したわけだが、男はそのことに対して何の感情も見せない。それ以前に、ダムを決壊させることが目的なら、二重スパイとして暗躍する必要もなかったのでは? その後、男とヒロイン達の命懸けの口論があったり、主人公の身体を張った行動があったり、白狼様(謎)の身を挺した活躍があったりして、とにかく自己犠牲自己犠牲自己犠牲で無理やり話を盛り上げた後、犯人死亡であっさりと物語が終了する。何だか真面目に評論するのも馬鹿らしいぐらい適当な終わらせ方である。おそらく、ゲームをアニメ化するに当たって新たなラストシーンが必要になり、アニメ版の監督主導で急遽付け足された物だろうが、それにしてもお粗末過ぎる。これまでの伏線を全て置き去りにし、エピローグの主人公の台詞で処理してしまう様は壮観ですらある。
 ちなみに、全十二話構成だが物語は第十一話で終結する。では、最終話で何をするかと言うと、本編とは何も関係ないコメディータッチの後日談というまさかの『いつか天魔の黒ウサギ』方式である。視聴者を馬鹿にしているのか? 尺が余っているのなら、もっと描かなければならないことは大量にあるだろう。ヒロインの体質の問題はどうなった? 主人公の処遇は? 神人を救う薬は? 町同士の対立問題は? 何で恋人と白狼様が似てるんだ? 白狼様は何で死を選んだんだ? そもそも、白狼様って何だったんだ!? 以上、何とも幼稚かつ手抜き仕事で商業作品と呼んでいいのかすら迷う作品である。

・総論


 要はクソアニメなのだが、本当にダメになるのは第十話以降であり、それまでは良いとも悪いとも言えない微妙な空気が延々と流れ続けるので、視聴にはかなりの忍耐を求められる。退屈なホラーというのもある意味斬新だが、もう少し上手く視聴者を煽ってくれない物だろうか。

星:★★★(-3個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 22:32 |  ★★★ |   |   |  page top ↑
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