『銀盤カレイドスコープ』

残念無念。

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銀盤カレイドスコープ - Wikipedia

・はじめに


 2005年。海原零著のライトノベル『銀盤カレイドスコープ』のテレビアニメ化作品。全十二話。監督はタカマツシンジ。アニメーション制作はカラク。オリンピックを目指す女子高生フィギュアスケーターの身体に男性幽霊が憑依したことから始まるファンタジックラブコメディー。監督は『機動新世紀ガンダムX』等で知られる高松信司だが、諸所のトラブルにより最終回だけクレジットされていない。知名度は低いが、『夜明け前より瑠璃色な ~Crescent Love~』や『MUSASHI -GUN道-』などと並び称される作品である。

・作画


 作画がなぁ……。いや、本ブログは脚本重視を表明しており、個人的にもあまり気にならない方なのだが、さすがに限度という物がある。キャラクターデザインの時点で瞳が異常に大きな二昔前の少女漫画絵であり、人体の不思議を超越している。作画監督の技術力の限界か、カットごとにシルエットの歪みが発生し、人間工学的にあり得ない動きを連発する。モブキャラは手抜きの極み。背景は落書き。もっとも、日常シーンは予算を考えるとこんな物だろうと納得できる。最近のアニメが予算以上に高水準なだけだ。問題は本作におけるメインコンテンツであるフィギュアスケートの競技シーンの方である。
 そもそも、スポーツとしてのフィギュアスケートをアニメーションで描こうというのが無茶である。ただ動き回るだけでも大変なのに、フィギュアはそこに「回転」が加わるのである。回転するということは、それだけ中割りの動画枚数が必要というわけで、低予算アニメには厳しい条件だ。さらに言うと、フィギュアスケートは採点競技である。運動性だけではなく、表現力や演技構成力などの「美」を競うスポーツである。これをアニメーションという「絵」で描くのは非常に困難だと言わざるを得ない。しかも、ただ芸術性の良し悪しだけではなく、それを他の選手と比較して、こちらが上だと具体的に示さないといけないのだ。スタジオジブリや京都アニメーションでも無理だろうというレベルであり、カラクとかいう聞いたことのない制作会社(『ガールズ&パンツァー』を制作したアクタスの子会社)では最初から無謀と言うより他にない。
 また、低予算アニメには付き物の空気の読めない寒いギャグシーンの数々も当然のように完備している。デフォルメとSEを多用。飽きるほど繰り返される天丼。ノリは完全に八十年代。昔から不思議なのだが、なぜダメなアニメほど独自のギャグを入れたがるのか。そして、なぜそれが総じて寒いのか。一度、本格的に研究する必要があるのではないだろうか。

・序盤


 本作の主人公は十六歳の日本屈指の女子フィギュアスケート選手。現在、たった一つのオリンピック日本代表の座を賭けて、ライバル達と激しい争いを繰り広げている。だが、代表選考に関わる大事な試合で彼女はジャンプに失敗し、頭を打って失神してしまう。その時、彼女の身体に幽霊が憑依するという奇怪な事件が発生する。幽霊の名はピート。日本育ちの十六歳のカナダ人。アクロバット飛行の若き天才パイロットだった彼は、人生最高の演技を行ったその日に事故で命を失ってしまった。しかし、天国に召される直前、なぜか神の手により百日間の猶予が与えられ、それまで主人公の身体の中で共に過ごすよう命ぜられる。二人の運命は如何に。そして、主人公はオリンピックに出場できるのだろうか。
 以上が本作の導入であるが、まず最初に目に付く欠点がその導入部の弱さだ。ここという押しが分かりづらくインパクトも弱いため、なかなか視聴者の興味を引き難い構成になっている。その理由の一つは、スケーターに幽霊が憑依するという世にも奇妙なトラブルに、シナリオ上の必然性が、少なくとも冒頭の段階ではほとんど存在しないからである。他のファンタジックラブコメを見れば分かる通り、その手の特殊イベントが発生することによって期待されることは、今までずっと変わりたくても変われずに停滞し続けていた物に対する変化の兆しだ。要するに「きっかけ」である。だが、本作の場合は、主人公が何に対して困っているのかが分かり難いため、きっかけの必要性をあまり感じない。一応、「表情が硬い」「大舞台で失敗する」という欠点を抱えているのだが、基本的に彼女は強気で前向きな性格であり、放っておいてもその内に自分で解決するのではと思わせるのはどうだろう。ここはちゃんと失敗の原因を特定させ、このままでは絶対にオリンピックに出場できないと明確に示した方が良いのではないだろうか。
 また、演出面でも幽霊が体に取り憑くシーンがなく、憑依後もほのぼのとした日常描写が続くため、全体的にダラっとした印象になってしまっている。むしろ、幽霊のせいで悪化したようにさえ感じる。この辺りは難しいところなのだが、やはり、もう一つ前の大会から描き始めるべきだっただろう。

・中盤


 こうして奇妙な二心同体生活を始めた二人は、様々なドタバタを経て、徐々に気持ちを通じ合わせていく。そして、アクロバット飛行のパイロットであるピートのアドバイスによって、独りよがりだった彼女のフィギュアスケートも少しずつ改善されていく。と、このようにスポーツラブコメの方法論としては実にオーソドックスだが、その分よくできている。展開も自然だし、フィギュアスケートの身体表現論についても描けている。何より、強気な女の子が段々と心を開いていく過程が良い。ただ、残念なことに、ここで足を引っ張るのが前述した低質な作画と古臭い演出である。
 最も酷いのが第七話だ。代表選考を兼ねた大事な大会で、主人公はピートのアドバイスによりウェイトレスをテーマにしたショートプログラムを演じる。それが何と言うか……簡単に言うと三流アメリカンコメディーか幼児向けミュージカルかといった趣で、あまりにも馬鹿馬鹿しく下らない。作画も酷く演出も幼稚で、見ている方が恥ずかしいというレベルである。しかも、それを観客と審査員が絶賛するのだから、最早、乾いた笑いすら生まれない。そもそも、なぜウェイトレスなのだろうか。ピートの演出意図は「本当の自分を出す」ことであって、そこからどう「わがままなウェイトレスを演じること」に繋がるのか、それってかえって遠ざかっていないかと思わなくもない。好意的に解釈すると、スケートリンクをレストランに見立てて、そこでわがままな主人公が自由奔放に接客することにより、自分らしさを……いや、その理屈は「笑顔が下手」という彼女の欠点の解消には繋がらない。ウェイトレスが客に笑顔を振りまいているのは、それが仕事だからであって心から笑っているわけではないからだ。どちらかと言うと、高飛車なお姫様の方がテーマ的には合っていただろう。
 続く第八話も酷い。オリンピック代表に内定した主人公に対して、マスコミが一斉にバッシングするというストーリーだが、そのマスコミの攻撃の仕方があまりに幼稚で杜撰、誇張にしてもやり過ぎという内容である。何せ、記者会見で日本代表選手を平気で誹謗中傷するという民度だ。もう少し、描写に現実感を持たせようと思わないのか。しかも、なぜかスケート協会のお偉いさんまでもがマスコミに加担して、主人公を出場辞退に追い込もうとする。彼女を選んだのは協会自身では? 内部抗争を描くにしても、他にやり様はないの? 大の大人が寄ってたかって制作しているはずのに、こういった初歩的な脚本上のミスが生まれる、その原因を知りたい。

・終盤


 こうして晴れて日本代表になり、決戦の地へと旅立つ主人公だったが、そこに待っていたのは普段の大会からは到底考えられないオリンピックという名の重圧だった。強気な彼女でも、さすがにそのプレッシャーに押し潰されそうになる。そこで立ち上がるのがピートだ。彼は主人公をあの手この手で励まし勇気付ける。ここに来て、ようやく宙に浮いていた幽霊設定が実を結ぶ。実際に体験しないと分からないだろうが、オリンピックのプレッシャーは常人では及びも付かないほど重く苦しいはずだ。その時、ピートのように本当の自分を理解してくれて、身近で励ましてくれる人がいたらどんなに心強いだろうか。しかも、幽霊であるがゆえに、競技中も一緒にいて身体の感覚も共有しているのである。一歩間違える不正行為に当たるような、それぐらい強力な手助けである。
 もっとも、彼女を襲う不安はそれだけではなかった。ピートが天国に召されるまでの百日という猶予期間、その最終日がフリープログラムの日だった。そう、神様がピートを遣わしたのは、まさにこのためだったのだ。主人公は別れの悲しみを堪えて、自分のキャリアのためでもメダルのためでもなく、ピートのために最高のフリープログラムを演じる。惜しくもミスジャッジによりメダルは逃したものの、それすら主人公にとってはどうでもいいことだった。試合後、二人は会場の外へ行き、お別れの時を迎える。いつしか、二人の間には深い愛情が芽生えていた。しかし、刻々と迫るタイムリミット。そして、二人は……。
 以上、確かに作画は酷い。演出は古臭く、ギャグもつまらない。しかし、その中心となるストーリーは、王道ではあるがよくできているし感動もする。そのため、全体を通して見ると十分評価に値する作品になっている。だが、冒頭に描いた通り、本作は世間的に非常に低い評価を受けている作品だ。「クソアニメ」の定義は人それぞれだろうから、それに対して文句を言うつもりはないが、少なくとも自分は本作がクソアニメだとは思わない。世の中には訴えたいテーマもなく、物語の中心軸が歪み、登場人物の心理描写すらあやふやなアニメなど幾らでもあるのだから。

・総論


 八十年代の懐かしアニメだと思えば、まぁ、こんな物かなと。ストーリーに関しては高水準なので、もう少ししっかりとしたところに作って頂ければ、今のような評価は受けなかっただろうに。あ、そうそう。EDムービーは歌・画共に好き。

星:☆☆☆(3個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 22:05 |  ☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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