『はたらく魔王さま!』

設定の妙。

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はたらく魔王さま! - Wikipedia
はたらく魔王さま!とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2013年。和ヶ原聡司著のライトノベル『はたらく魔王さま!』のテレビアニメ化作品。全十三話。監督は細田直人。アニメーション制作はWHITE FOX。とある事情で現代日本にやってきた魔王が、いつか再び魔界へ帰る日のため、ファーストフード店で地道に働いて生活費を稼ぐファンタジーコメディー。

・魔王と勇者


 魔王とは何なのだろう。もちろん、これは文字通り「魔族の王」「魔界の王」という意味である。だが、「魔族とは?」「魔界とは?」と問われると急に途方もない無理難題と化す。ファンタジーゲームの性質上、冒険の障害となる敵は全て魔族である。スライムもゴブリンもゾンビもドラゴンも全部ひっくるめて。民族・種族の差どころか生物なのかどうかすら定かではない。では、そんな無茶苦茶な寄せ集め軍団を統べる王とは一体何なのか。一言で言うと、「よく分からない」だ。現実世界では絶対にあり得ないことなので、他の物に例えようがない。結局は、フィクション特有の非合理的なご都合主義=お約束に過ぎないということだ。ただ、質の高いファンタジーはその無理難題に何とか整合性を付けようと試みている。例えば、魔族は全て無から生まれた魔法生物であるといった設定や、知性のあるヒューマノイドだけが魔族で、その他の魔獣はただの野生生物に過ぎないといった設定など。しかし、それでもなお「魔王」という職業は存在自体が苦しい。魔族が世界にもたらそうとしている「混沌」と、一人の君主による独裁政治という「秩序」は元々相反する物だからだ。魔王に異形のモンスター達を支配できるほどの能力とカリスマ性があるなら、世界征服などといった子供じみた発想はやめて、もっと建設的な活動をするのではないだろうか、疑問である。
 では、勇者とは何なのだろう。これはいわゆる「英雄」のことだが、神話や寓話で語られるそれとは少し毛色が異なる。神話の英雄は神か神の化身がほとんどだが、ゲームの英雄は(何らかの出生の秘密があるにしても)基本的にはただの人間だ。また、神話の英雄が戦う相手はドラゴンや魔神などの個であるのに比べ、ゲームの英雄が戦う相手は魔界の魔王軍団という集団である。こうやって並べてみると、ゲームの英雄が如何に無謀なことに挑戦しているかがよく分かる。たった一人、もしくは数人の人間で数万もの大軍に立ち向かおうというのだから、なるほど、勇者と呼ばれるだけのことはある。ただ、この設定を成立させようと思えば、勇者に人間離れした一騎当千の力を身に付けさせなければならない。はたして、そこまで進化した人間が人間らしい正義の心を持ち続けられるだろうか、疑問である。
 このように、ファンタジーにおける魔王と勇者は、いずれも幾つかの疑問点と大きな設定の穴を抱えている。だからこそ、ファンタジーパロディーというジャンルが成立する。ただし、疑問点が明確である分、余程、上手く調理しないと各人が似通った物になってしまう。それゆえ、ある意味、作者のセンスが最も試される場と言えるかもしれない。

・導入


 異世界「エンテ・イスラ」。世界征服を企む魔王とそれを阻まんとする勇者の最終決戦が、魔界の魔王城において繰り広げられる。壮絶な戦いの末、勝利したのは勇者一行。追い詰められた魔王とその従者は、空間に転移ゲートを開いて辛くも脱出する。だが、辿り着いた先は現代の日本だった。地球上では魔力が回復できず、魔界へ帰還するための魔法が使えない魔王は、仕方なく普通の人間として生活を始める。様々な現実的困難に直面しながらも、六畳一間のアパートに腰を下ろし、ファーストフード店で働き始める魔王達。数ヶ月後、すっかり人間界の生活に慣れた魔王の元へ、一人のOL風の女性が現れる。彼女こそが魔王を追って日本にやってきて、現在はテレフォンアポインターとして働く勇者だったのだ。
 素晴らしい。ファンタジーコメディーの導入部として申し分のないオープニングだ。上記の魔王に対する疑問点を見事にコメディーに昇華している。基本設定がしっかりと練り込まれているため、どんなにキャラクターが突飛な行動をしても破綻せず、その分、ギャグの切れも良い。現代日本のリアルな生活を誇張もせず歪曲もせずにそのまま描いているのは好印象。何より目的がすっきりしているのが素晴らしい。「現代世界はファンタジー世界と違って魔力が少ないため、魔王は魔法を使えない。そのため、ファーストフード店に勤務しながら、魔界への帰還に必要な量の魔力を回復する方法を探す」と文句の付けようがない設定だ。魔界では最強の魔王が、ファーストフード店では一番下っ端のアルバイト店員で、そこから少しずつ出世して正社員を目指すという展開も面白い。確かに、社内で出世して部下を持つようになれば、間接的に人間を支配することになるため、何も間違ってはいない。これら一連の展開は、「最初から最強」が当たり前になっている昨今のアニメのアンチテーゼと言っても過言ではないだろう。
 ただ、心配なのは、本作は全て基本的に「出オチ」だということだ。恐怖の象徴たる魔王が庶民的な活動するというギャップが根幹なので、そこに慣れが生じるとネタが成立しなくなってしまう。構造的には、漫画『デトロイト・メタル・シティ』とよく似ている。あちらもデスメタルの人気ミュージシャンと純朴な青年のギャップが肝だが、最初は面白くてもずっと似たような展開とオチが続くため、単行本二巻目辺りから飽きが生じてしまう。本作もそういった危惧を抱えており、第二話以降の展開に不安が募る。

・キャラクター


 だが、上記の心配は杞憂に終わる。確かに出オチコメディーの宿命で、物語が後半に差し掛かるにつれて徐々にパワーダウンしている感は否めない。ストーリー自体も極めてオーソドックスであり、第五話までの第一部もそれ以降の第二部も、魔王と勇者の共通の敵が現われ、それに対して共闘して日本を守るというありがちな物だから、視聴者を惹き付ける物語的な求心力に欠ける。それでも、崖下に転がり落ちることなく最後まで一定のラインで踏み止まっているのは、やはり、登場キャラクターの個性が抜群に優れているからであろう。
 まず、主人公である魔王は非常に「良い人」である。もう、これだけでどう考えても面白い。バイト先のファーストフード店では気の利く優秀な店員であり、接客態度も素晴らしく、他人に親切である。せっかく貯まった魔力を人助けに使ってしまい、魔界に帰れなくなってしまうほど。なぜか、魔王のくせに遵法意識に溢れており、勇者よりも社会のルールに敏感である。その一方で、後輩の面倒見が良く、リーダーシップがあって組織を束ねる能力に優れている点などは、さすが魔王というカリスマ性が感じられる。視聴者に「こういう人を友人にしたい」「こういう人と一緒に働きたい」と思わせたら勝ちだ。そういう点において、本作は最初から最後まで極めて高い質を保っている。
 また、勇者のキャラクターも非常に良い。父親の仇である魔王の命を狙って日本まで追いかけ、日本で悪行を働かぬよう常に監視し続ける。事あるごとに魔王城に現れては生活態度を注意し、共通の敵が現れると「魔王を倒すのは私だ」と間に入って仲裁する。そう、要するに彼女は萌えアニメで言うところの「風紀委員キャラ」の強化版なのである。だが、魔王が意外にも良い人であり、世界征服の意志も弱いことを知って、徐々に態度を軟化させていく。それはいわゆる本来の意味における「ツンデレ」であり、非常に可愛らしい。勇者と魔王という立場、殺し殺されるという関係なのに仲良くなるという背徳感がさらに気分を盛り上げる。そして、第二部からは、風紀委員的な立場をさらにパワーアップさせた新キャラクターが登場し、勇者は彼女と魔王との間で板挟みになる。父親の仇である魔界の魔王は許せないが、魔王本人のパーソナリティーには心惹かれるという葛藤。最終的には、「全部、自分が責任を持つから大丈夫」という結論を勇者が出すのだが、それもまるで夫婦の話を見ているようで面白い。

・欠点


 本作は非常に上質のファンタジーコメディーである。設定が良く、キャラクターが良く、ゆえに単純なストーリーでも盛り上がる。ただ、コメディーに徹したことによる弊害で、やはり、どうしてもあちらこちらに細かな欠点を抱えてしまっている。あまり気にしてはいけない部分かもしれないが、そういうブログなので容赦されたし。
 まず、気になるのが、魔王と勇者の異世界における活躍の描写が圧倒的に不足している点だ。ストーリー自体が魔王城での最終決戦から始まるため、魔王が如何様にして世界征服を企み、勇者が如何様にしてその野望を打ち砕こうとしたのかが分からない。ここが分からないと、日本での魔王の不甲斐ない生活の面白さや勇者の魔王に対する執着心が薄まってしまう。これは要するに、世のファンタジーゲームに設定を丸投げしているということである。視聴者がそれらのゲームをプレイしていることが大前提であり、言い換えると本作はパロディーに過ぎないということだ。正直なところ、それはあまり良いとは言えない手法である。作品はその中で自己完結すべきであり、外部資料を要求するようになったらお終いである。
 もう一つ、もっと大事なことは、世界を手中に収めんとする恐怖の魔王が、なぜ人間界では「良い人」になっているのかの説明が不足している点だ。いくら前線の指揮官の暴走があったとは言え、魔王が大軍を率いて人間界に攻め込み、破壊の限りを尽くしたのは事実なのである。現代に飛ばされた後も、人間を支配するという野望自体は失っていない。そのことに関して、勇者は第四話で魔王に疑問を直接ぶつけるが、彼は「何かすまん。あの頃の俺、人間という物をよく理解してなかった」というあやふやな回答をする。彼の言葉をそのまま受け取ると、現代で社会生活を続ける内に人間の素晴らしさに気付いて丸くなったということになるが……いや、仮にも魔族の王の性格がそんなに簡単に変化する物だろうか。元々、こういう性格だったと考えるべきではないのか。ただ、そうなると、彼個人の性格と魔王としての役割は別ということになる。家では優しいお父さんが、職場では非情なビジネスマンになるというのはよくある話だが、それだと現実と理想の狭間で魔王が葛藤するという展開が欲しい。この辺りをもう少ししっかり描いていれば、本作はコメディーの枠を超えた歴史的な名作になっていただろう。

・総論


 作品の出来だけで言うと平均点だが、勇者が可愛いので少しおまけ。

星:☆☆☆☆☆☆☆☆(8個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 23:18 |  ☆☆☆☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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