『かみちゅ!』

神アニメ。

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かみちゅ! - Wikipedia
かみちゅ!とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2005年。オリジナルテレビアニメ作品。全十六話(内、四話はDVDにのみ収録)。監督は舛成孝二。アニメーション制作はブレインズ・ベース。ある日突然、神様になってしまった女子中学生の主人公を中心としたファンタジーラブコメ。タイトルの「かみちゅ」とは「神様で中学生」の意味である。なお、ここで言う神様とは、一神教における唯一神のことではなく、日本の神道における八百万の神(自然物や自然現象を神格化した物)のことなので誤解なきよう。

・設定


 ある日突然、平凡な女子中学生が神様になる。最早、これ以上ないというぐらい荒唐無稽な設定である。天使が空から落ちて来るよりも、女子高生が戦車で部活動をするよりもあり得ない。しかも、本作のベースはファンタジーではなく、かつてNHK Eテレで放送された『中学生日記』のような雰囲気重視のリアル系学園青春ドラマである。どう考えても、両者の噛み合わせは悪い。もし、何も考えずにそのまま両者を融合させよう物なら、間違いなく神様の部分だけが宙に浮いて、目も当てられない悲惨な状態になってしまうだろう。そのため、本作はそうならないように様々なトリックを駆使して、設定の不自然さを覆い隠すことに注力している。
 その一つが舞台設定である。本作は広島県尾道市という人口十万人強の瀬戸内の地方都市を舞台のモデルにしている。『転校生』や『時をかける少女』といった大林宣彦監督作品を筆頭に、度々、映画やドラマなどで取り上げられている江戸情緒が色濃く残る坂の多い風光明媚な港町だ。そんな尾道の美しい風景をバックに、古き良き日本らしさを様々な小物を使って精密に描くことにより、本作は神秘的な物と日常とが接近した感覚を巧みに演出している。この聖俗未分離の不思議な空気感は、東京のような大都市をモデルにしていてはなかなか味わえない。また、本作は時代背景を八十年代というアニメでは非常に珍しい年代に設定している。バブル経済直前、世の中に物が溢れ、物質的な豊かさよりも精神的な豊かさの重要性が叫ばれ始めた時期だ。本作は、その当時の世相を全ての物質に宿る八百万の神々を用いることで上手く表現している。そこに生まれた中学生神様と考えると興味深い。
 それとは別に、舞台の狭小化は、神通力の及ぶ範囲を最小限に抑えて世界への影響を低減させるという効果も生んでいる。いわゆる「セカイ系」の逆のパターンだが、それにより荒唐無稽な設定のリアリティを高めることに成功している。その証拠に、国会議事堂を舞台にしたSF物である第四話は、完全にストーリーから浮いており、屈指の駄作回となっている。それはすなわち、一人の人間ができることは、精々身近な人を幸せにすることだけだということを示唆している。

・キャラクター


 さらに、主人公のキャラクター像も設定の説得力向上に一役買っている。彼女はドジで内気で引っ込み思案だが、何事に対しても真っ直ぐで、誰からも愛される優しい性格の持ち主である。その結果、中学生神様という異質な存在が風景の中に自然と溶け込むことを可能にしている。もし、これが才色兼備な優等生でクラスでも目立つタイプのキャラクターだったら、間違いなく神様というチート能力に対して、視聴者は反感を覚えてしまっていただろう。しかし、主人公のような人畜無害で裏表がなく、常に一生懸命生きている人間を神様にすることで、視聴者を含む周囲の人々全員が彼女を素直に応援できるようになるのである。少なくとも、神通力の悪用に関しては誰も心配しないだろう。これは非常に大事なことである。なぜなら、主人公の存在その物が、日本人が八百万の神に対して抱いている「身近な敬愛」を体現しているからである。偉大な唯一神の下で平等に暮らすのではなく、すぐ側の自然の中にいる優しい神様と共存する。そういった日本人独特の宗教観や国民性を、難しい言葉や偏った思想を使わずにすっきりと描いている。
 また、主人公には二人の友人がいる。一人は主人公のネームバリューを使って商売をしようとする神社の娘、もう一人は頼りない主人公をずっと温かく見守り続ける昔からの幼馴染。神様を利用する人と神様を保護する人という二人の対比が面白い。どこまで意図的かは分からないが、現代日本人の神聖なる物に対する関わり方を描いているようで見事である。そんな正反対のスタンスの二人は元々友人ではなく、主人公を通じて知り合った「心の友(主人公)とその友」という関係に過ぎなかったが、物語を通して徐々に仲良くなって行き、最終的には親友と呼べる存在になる。その人間関係一つ取っても、日本人にとっての神様の役割と位置付けがよく分かるだろう。(なお、その過程は本作よりも漫画版の方が詳しい)
 このように、本作は全ての要素が絶妙なバランスで保たれている作品である。逆に言うと、一つでも歯車が狂うと根底から崩壊してしまう危うさを秘めている。ありがたいことに、本作は先の第四話を除いて最初から最後まで基本設定がきちんと守られており、制作スタッフの努力の跡が忍ばれる。

・恋愛ドラマ


 本作は女子中学生を主人公にした「恋愛ドラマ」である。そして、本作における恋愛ドラマとは、主人公が同じクラスの男子生徒に片想いし、様々な心のすれ違いがあった後、ラストで告白してハッピーエンドを迎えるという王道中の王道物語である。なぜ、わざわざ、このような当たり前の注釈を入れなければならないかと言うと、昨今のアニメがこういった要素を殊更に嫌悪し、徹底的に排除しているからに他ならない。特に男性向け萌えアニメの場合、たとえ女性主人公であっても、ヒロインが他の男になびくなど言語道断、絶対にあってはならないことである。ヒロインは常に独り身、もしくは同性の女友達だけを恋愛対象にして、最後まで純潔を守らなければならない。なぜなら、彼女達の相手は他ならぬ男性視聴者であるからだ。
 そんな中、本作も一応は男性向け萌えアニメの枠に属しているにも関わらず、一般作品のような真っ当な恋愛ドラマをメインに据えた珍しい作品である。ただし、視聴者に不快感を与えないよう、幾つかの特別な考慮がなされている。例えば、主人公の相手役の男子生徒は、アニメファンが共感し易いように、他人の名前すら覚えない書道一筋の不思議ちゃんとして設定されている。親友曰く「どこがいいのか分からない」だ。浮世離れした書道オタクである彼は、明らかに視聴者の分身としての役割を背負わされている。要するに、女性主人公の物語でありながら、視聴者は相手側の男子生徒に自分を投影し、可愛いヒロインが自分を射止めるために奮闘努力する様を高みの見物しているわけである。もちろん、同時に主人公にも自己投影しているわけで、一種のナルチシズムのような形になっている。
 また、恋愛における一切の性的な要素を省いているのも、あくまで中学生同士の爽やかな恋物語として、ヒロインの純潔を汚さぬようにするためだ。主人公は幼児体型で女性的なセックスアピールなど何もない。男子生徒も書道に夢中で性欲がない。実際の男子中学生は四六時中、性的なことを考えているはずだ。それゆえ、恋愛ドラマとしてのリアリティーはあまりなく、神様設定などより余程ファンタジーである。

・神アニメ


 上記のような恋愛ドラマをストーリーの軸に据えながら、本作の序盤は神様となった主人公が神通力を駆使して困っている人を助けるという一話完結型のエピソードが展開される。と言っても、基本的に「神様であること」は舞台装置でしかなく、神通力が物語の本筋に影響を与えることは少ない。あくまで、ジャンルは学園青春ドラマであり、主人公の心の成長とヒロイン三人組の友情が物語の中心だからだ。さらに、ストーリー終盤の第十一話(テレビ放送版では第十回)以降は、その神通力ですら脇に追いやられ、舞台を彩る小道具でしかなくなってしまう。ほとんど「タイトル詐欺」と言ってもいいほどの大胆なシフトチェンジだが、これこそが本作を本来の意味で言う「神アニメ」たらしめている最大の理由である。
 繰り返しになるが、本作は中学生神様が主人公の恋愛ドラマである。となると、当然、皆が「神通力を使えば、恋愛など簡単に成就できるのでは?」という単純な疑問を抱くだろう。しかし、本作は劇中でそれを明確に否定している。「恋愛は自分の力で一生懸命努力して叶えないと意味がない」と。そのための神通力の無力化である。つまり、主人公に万能な力を与えておいて、「あえて、それを使わない」ことで自分の力を強調しているのである。それは一見、子供染みた綺麗事に見えるかもしれないが、その一方で誰しもが経験した中学時代の甘酸っぱい青春を思い起こさせるはずだ。だからこそ、視聴者は主人公が皆の協力を仰ぎながら自分の力で告白するラストシーンに深い感動を覚えるのである。
 最後に余談になるが、第十一話『恋は行方不明』(DVDのみ収録)について解説しておく。この回は本作の中でも図抜けた名作である。主人公の弟がメインの回なのだが、男子中学生のナイーブな感情や背伸びしたい気持ちが、声優の名演技込みで見事に表現され、青春ドラマとしても出色の出来である。神様の主人公は、神通力でほんの少し手助けをするだけという辺りが実に『かみちゅ!』らしい。オススメ。

・総論


 大掛かりな設定を用意しておきながら、あえて、それを脇に追いやることで青春の爽やかさを描くという文字通りの神アニメ。ぜひとも現役中学生に見てもらいたい作品である。また、日本人の心性を知るという意味で、外国の方に見てもらうのも良いかもしれない。ただ、返す返すも第四話だけが非常に残念だ。なぜ、こんな話を入れてしまったのだろうか。

星:☆☆☆☆☆☆☆☆(8個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 22:24 |  ☆☆☆☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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