『勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。』

無駄なエロス。

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勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。 - Wikipedia
勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2013年。左京潤著のライトノベル『勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。』のテレビアニメ化作品。全十二話。監督はヨシモトキンジ。アニメーション制作はアスリード。勇者になれなかった青年が渋々家電量販店で働くことになるファンタジックラブコメ。EDテーマを歌っている人気声優グループのスフィアが、本人役で劇中に登場する。女性の胸や下着を強調し、性行為をイメージさせる演出を多用する典型的な疑似ポルノアニメであるが、そこを批判するのは限りなく時間の無駄なので放置する。そのため、普段よりも文章量が少なくなっていることを容赦されたし。

・世界観


 まず、本作の世界観を紹介しよう。見た目は現代日本とほぼ同じである。ただ、電気がない代わりに魔力で電化製品が動くという設定になっている。実用化されたのはほんの百年前なので、地方の一般家庭などにはまだ完全に普及し切っていない。一日に一度、人の手による魔力チャージが必要。ただし、生まれ付き魔力を持っていない人もいるため、そういう人は他人に頼らなければならない。一方、元々が剣と魔法の世界なので、魔界と魔族(魔人)が存在し、そのリーダーたる魔王が世界征服を企んでいる。そして、それを倒すための人材を育成する「勇者予備校」が街に作られ、そこを卒業すると勇者の資格を得ることができる。だが、二年前、ついに魔王が勇者に倒されてしまったため、勇者制度は廃止、予備校も閉鎖されることになってしまった。
 以上、人類の想像力の限界に挑戦するかのような世界観だ。真面目に考察すればするほど破綻するという大いなる悲しみに満ちている。まず、マジックアイテムの魔力を人力で補充するという設定だが、『空想科学読本』風に書くと、一般家庭の一日当たりの平均電力量は10kWh=36MJ=約8500kcal、これは明らかに人間の一日の摂取カロリーを超えており、ゆえに完全なる自給自足が可能になってしまう。つまり、働く必要がないということで、本作のテーマである「就職」を全くの無意味な物にしてしまう。また、魔力を持っている人とそうでない人がいるという設定は不味い。非常に不味い。現代の石油利権などとは比べ物にならないぐらい巨大な格差が生じ、結果、持てる人が支配者階級になり、持たざる人を虐げるという世界になってしまう。いずれも中世ファンタジー世界なら許されることも、こうやって現代劇にすると具体的な数字が出てしまい、問題が発生するという良い見本である。
 そして、本作にも魔王が登場する。今まで何度も書いてきたように、ファンタジーゲームにおける魔王の定義は極めて曖昧だ。それは本作でも変わらない。なぜ、世界を征服しようとしているのか、どのような組織体系になっているのかが具体的に語られないため、その存在を現代の何かに置き換えることが実質不可能なのである。すると、それにまつわる物、本作で言うなら「勇者制度」が実におもちゃっぽくなる。勇者の資格って何やねん。なぜ、軍隊ではなく個人を鍛えようとしているのか。魔力蓄積型のマジックアイテムがあるなら、真っ先に兵器が作られるだろう。その辺りの疑問点に劇中で回答を出さなければ、ダメなアニメの誹りを免れられない。

・ストーリー


 本作のタイトルは『勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。』である。そして、ストーリーは「勇者になる夢を挫折した主人公が、就職難の折りに全く興味のなかった中小マジックショップ(魔法家電量販店)に就職し、嫌々ながら毎日あくせく働く話」である。そのままである。世の青春物における標準的テンプレートにファンタジーの皮を被せただけで、何の工夫もない。その後の展開もまさにベタ中のベタで、渋々働いていた主人公に新しく部下ができ、彼女の教育をしている内に徐々に仕事の面白さに気付いて行く。すると、そこへライバルの大型チェーン店が現れ、様々な妨害活動を行う。その結果、愛社精神に目覚めた主人公がライバル店に対して宣戦布告をするというどこかで見たような物語だ。もちろん、ベタは悪くない。設定が奇抜な場合は、ストーリーを奇抜にしない方が良いことが多々ある。ただ、ここまでテンプレ通りだと、本当に考えて作っているのかと疑いたくなる。キャラクターもどこかで見た人物のコピーばかり。ちなみに、勇者が就職面接で必殺技の名前を出し、面接官に笑われるというシチュエーションは、ネット上の定番ネタである。
 もっとも、ここまでやってもベタにもなり切れないのが本作の悪いところだ。本ブログでこれを書くのはもう三・四回目になると思うが、ライバルが登場する前にやっておかなければならないことは、主人公達の優位性をこれでもかと十分に示すことである。そうすることによって、いざライバルが登場した時に「やっぱり主人公達の方がいい」と再確認することができる。だが、本作の場合、主人公の勤めている店はと言うと、客によるセクハラが横行し、新人バイトはまともな接客もできず、常に人手不足で品揃えも悪いと良い点が全く見当たらない。一応、ライバル店登場後に主人公の店はアットホームでサービスが良いというフォローが入るのだが、そんな後出しジャンケンでは何の意味もない。こういった場合、下手な作家がやりがちなのが、自分達を上げるのではなく相手側を下げることである。ライバル店はサービスが悪く、従業員の待遇が悪く、安価なのはモンスターに製品を作らせているから(それの何が悪いのか分からないが)などなど。しっかりとした作品なら、どちらの価値も認めつつ、主人公達の方がより良いと示すはずだ。この辺りの詰めの甘さが、まだまだライトノベルレベルなのだと感じさせる。
 ちなみに、ライバル店の名前はアマダ。モデルは、もちろんかのヤマダ電機である。名誉棄損甚だしいと思ったら、正式な協賛企業になっていた。こんなエロアニメに協賛する方が企業イメージを下げると思うのだが。

・魔王の娘


 ギャルゲー及びラノベにおけるストーリーテリングの特徴の一つは、ドラマの中心になるのが主人公ではなくヒロインであることだ。主人公はあくまで傍観者であり、実際に悩み傷付き成長するのはヒロインの方である。本作も、ストーリーを動かすのは新人アルバイト店員としてマジックショップで働くことになった「魔王の娘」である。さらりと「魔王の娘」と書いたが、冷静に考えるととんでもないことだ。世界を絶望の淵に叩き落とそうとした独裁者の娘が、身分を隠してバイトの面接に来た。本来ならそれだけで大きなドラマが起きそうな物だが、本作ではその辺はあっさりと流される。もう少し、元勇者候補生の主人公の深い苦しみや葛藤を描けてもいいはずだ。また、本作のギャグシーンのほとんどは、魔王の娘が魔界の住民らしいグロテスクな発想をして、その日常離れしたギャップを楽しむという物である。正直、あまりキレは良くないし、何度も似たようなネタを繰り返すためすぐに飽きる。主人公だって勇者を目指していたという人並み外れた過去があるのだから、ただのツッコミキャラになどせず、もっとボケ側に回っても良かったのではないだろうか。
 物語後半の展開も魔王の娘が中心になる。魔人の生き残りが魔界復権のため、娘を魔王に仕立て上げようとする。それに協力するのが勇者予備校で主人公と同期だった候補生達。目的は、魔王を復活させることによって勇者制度をも復活させ、自分達が念願の勇者になること。その時、彼らは気になることを口走る。実は長らく人間側と魔王側との間で裏協定が交わされており、ここ百年で急速に発達したマジックアイテムを使えば魔王など簡単に倒せるが、古き良き伝統の勇者制度を守るため、わざと魔王を倒さないようにしていたのだと。何とも無茶苦茶な話だが、思わず「なるほど」と納得してしまう説得力がある。マジックアイテムの発展の歴史と実際の歴史が噛み合わないと思っていたが、そういう背景があるなら納得できる。わざと矛盾した世界を作っておき、その誤りを訂正することで、一種の文明批判を行う、どこまで意図的だったか分からないが、この構図はよくできている。そして、最後は主人公がマジックショップの店員達と協力して、魔王の娘を救出するという話だが、これも悪くない。いつまでも夢を追いかけて現実を見られない候補生達と、現実の中に夢を見つけ出そうとしている主人公達という対比も良い。何だかんだ言って、メインストーリーだけはちゃんとまとまっているのが本作である。それは青春物のテンプレが如何に優れているかの証明でもある。
 ところで、アマダとの対立はどうなったかと言うと、それがどうにもなっていないのでさっぱり分からない。あれだけベタな展開に徹しておいて、まさか解決せずに放置するとは誰にも予想できない。原作ではちゃんと描かれているそうだが、二つの事象を同時並列に作業できないのも、またダメなアニメの特徴である。

・総論


 設定は奇抜だが、内容はベタ。その分、ちゃんとまとまっている。だからこそ、一部特定の視聴者に媚びまくった下劣な演出が残念でならない。こんな物に貴重な人的リソースが割かれていると思うと心底腹立たしい。

星:★★(-2個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 20:21 |  ★★ |   |   |  page top ↑
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