『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』

ザ・クソアニメ。

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もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら - Wikipedia
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだらとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2011年。岩崎夏海著の小説『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』のテレビアニメ化作品。全十話。監督は浜名孝行。アニメーション制作はProduction I.G。経営学者ピーター・ドラッカーの理論を高校野球のマネージメントに応用した青春ビジネスアニメ。通称「もしドラ」。原作小説は、なぜか巷で流行してベストセラーになった。どう考えても、表紙を飾る可愛い女の子のイラストのおかげだが、作者は頑としてそれを否定しているらしい。

・序


 本作を語る上において、やはり、どうしても看過できないのがビジュアル面である。特に、背景美術はお世辞にも商品レベルに達しているとは言えず、著しく作品のグレードを下げている。タッチが荒く、パースまで狂っており、正直な話、子供の絵画コンクールレベルである。また、それ以上に気になるのが稚拙なコンテとレイアウトだ。顔のアップを多用し、それ以外は常に棒立ち作画。ベッドの右側に座っていたはずの人物が、回想シーンが終わるとなぜか左側に移動しているという謎の現象まで発生している。試合中はカットすら繋がらないシーンも多く、アニメーションと名乗ることすらどうかと思うレベルだ。そして、時折、挿入される今時少年アニメでも見ないような幼稚な演出の数々。全体的に低クォリティーであり、予算も時間も不足していることがありありと感じられて哀しい。『電脳コイル』以降のNHKアニメの質の低下は甚だしいが、もう少し何とかならないのかと言わざるを得ない。
 さて、本編について述べる前に書いておかなければならないことがある。それは、明らかな「タイトル詐欺」であるということだ。具体的に言うと『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』ではなく、正しくは『もしドラッカーの『マネジメント』を読んだ女子高生が高校野球のマネージャーになったら』である。一見すると大差がないように見えるが、実体は公園と援交ぐらい違う。前者から想像されるストーリーは、弱小野球部のマネージャーが部を強くするために経営学のノウハウを日々の練習に取り入れるという物だが、実際のストーリーは、経営学の本を読んで感銘を受けた主人公が野球部のマネージャーになって部を改造するという物である。つまり、マネージャーになる前からすでにドラッカー主義に洗脳済みであり、経営学の理論を何とか高校野球に当てはめようと躍起になるという非常に本末転倒な物語になっている。良く言えば、ジャンヌ・ダルク。悪く言えば、ただのカルト宗教の信者だということだ。

・カルト宗教


 例を出そう。第二話、野球部のマネージャーとなった主人公は、部の強化プランを構築するため、ビジネス書を片手に「高校野球における顧客は何か?」を考察する。もう、その時点で意味が分からない。当然、高校野球は経済活動ではないため、顧客も従業員もいない。しいて言えば、部員は従業員である。そもそも、経営学をスポーツに応用すると良い結果が生まれるという前例は現時点では何もなく、主人公がそう信じているだけだ。ところが、本作の主人公は、何の根拠もないのに「部員は従業員であり顧客である」と勝手に定義付け、それを場面場面によって都合良く使い分けることで、無理やりドラッカー理論を野球にこじつけようとするのである。この辺りが実にカルト宗教的だ。ビジネス書を何らかの経典に置き換えたら、そのまま新興宗教の布教ビデオである。その証拠に、主人公は野球部のマネージメントに行き詰まると、「何か参考になりそうなこと書いてないかな?」と言って、ドラッカーの『マネージメント』を読み漁る。本当に野球部を強くしたいのなら、様々なジャンルの本を読んで多様な知識を練習に取り込めばいい。だが、なぜか、本作の主人公はドラッカーの経営学書一本に絞って、それに自分達の運命を託す。盲目的なまでに。
 そして、本作をよりカルト宗教に仕立て上げているのが、周りの人間の自発性の希薄さである。主人公がドラッカーかぶれになるのは、そういう物語なのだから仕方ない。だが、周囲の人間が誰もそのことに対して自分の意見を発しようとしないのはどういうことか。物語的には、反ドラッカー主義の人間を部内に配置し、両者の意見の対立によってテーマを深めるのがセオリーだが、そんな気の利いた人間はある一名(後述)を除いてどこにも存在しない。なぜなら、「高校野球に顧客などいない」という「常識」を口にする人間が部内に一人でもいたら、この無茶苦茶な物語は成立しなくなるからだ。最終的には、全ての登場人物が主人公の語る素人ドラッカー理論を当然のように受け入れ、それに追従する。野球部のマネージャー全員が、『マネージメント』をバイブルにして会議を開くシーンは不気味ですらある。まさか、天下のNHKがこんな宗教セミナーじみた光景を堂々と地上波で放送するとは、時代も変わった物である。

・ストーリー


 では、さっさとストーリーを紹介するとして、最初に結末を書くと、最終回で主人公の所属する野球部は夏の甲子園に出場する。超激戦区である東京代表を制して、だ。本作はフィクション、リアリティに関しては目を瞑ろう。しかし、経営学を練習に応用するだけで、それほどまで劇的にチームが強くなる物だろうか。答えは「否」である。なぜなら、スポーツに必要な四要素、フィジカル・メンタル・テクニカル・タクティカル、この内、経営学が関与できる点は「メンタル」だけだからだ。確かに、メンタルを整理することによってモチベーションを上げ、全体的な練習量を増やすことはできるだろうが、結局は個人の身体能力と技術、そして、チームの組織力が伴わなければどうしようもない。甲子園に出場するような強豪高校は、彼らとは比べ物にならないぐらい才能のある選手を一堂に集め、彼ら以上のモチベーションで日々鍛えているのだから。言ってみれば、どんなにマーケティングを駆使したところで、肝心の商品が粗悪では売れる物も売れないのである。
 もちろん、メンタルトレーニングだけで甲子園に出場できるとは、さすがの作者も考えていないので、切り札となるイノベーション(革新)的な秘密の新戦術が用意されている。それが「ノーボール・ノーバント」である。内容は読んで字の如く、ピッチャーはストライクしか投げない、バッターはスイングしかしない、という作戦と呼んでいいのかすら分からない作戦だ。何とも愚直で馬鹿正直な、要するに「勢い任せ」の戦術だが、一発勝負を制するには確かに勢いも大事なので、あながち完全に間違っているとは言い切れない。少なくとも、これぐらい思い切った戦術を用いない限り、強豪校との絶望的な差は埋まらないだろう。ただし、ずっとピッチャーがノーボールを続けていたら、すぐに相手側に対策されるだろうから、当然、試合は「乱打戦」になるはずだ。しかし、劇中の試合はほとんどが「投手戦」なのである。さらに、この戦法を取るには相当な守備力が必要になるはずなのに、それが他校より優れているという描写はない。つまり、作戦その物ではなく、それが「物語に昇華されていない」という致命的な欠陥を抱えているのである。これでは、野球好きの人間からの失笑は回避し得ない。

・精神論


 そして、ここまででもかなり胡散臭いのだが、ここにもう一つの胡散臭いサブストーリーが平行して繰り広げられるのが本作の特徴だ。それが、元野球部のマネージャーで現在は病気で入院している主人公の友人の話である。一応、主人公がマネージャーになるきっかけを作った人物であるが、それ以外は特にストーリーに絡むこともなく、決勝戦前日に呆気なく息を引き取るまで存在感もない。その死の描写にしても、演出が安過ぎて感動も何もない。人の死をストーリーに組み込めば、それだけでお涙頂戴の展開になると思ったら大間違いである。ちなみに、三流ドラマのセオリー通り、彼女の病気の詳細は最後まであやふやである。
 ただし、物語的にその「友人の死」が果した役割は極めて大きい。なぜなら、彼女は本作中で唯一、ドラッカー理論に対して反対意見を述べた人物だからである。病床にある彼女の思想は「結果よりも過程が大切」。つまり、甲子園に出場するという結果のためだけに畑違いのドラッカーを持ち出した主人公を全否定である。もしや、そのせいで殺されたのかと邪推してしまうが、そんな彼女の死が残した影響は甚大で、何とあのドラッカー教信者の主人公までもが急にドラッカー理論を否定し始める。まさかの大どんでん返し。何この展開。そして、ドラッカーを捨てた主人公が地区予選の決勝戦で取った最後の作戦は、ずばり「頑張れ!」。ただの応援、要するに「精神論」である。すると、彼女の声援に導かれるように不思議な力が湧き上がり、野球部員は死に物狂いに頑張って甲子園出場を獲得する。すごいぞ、ただの応援。結局、この物語が言いたいことは、「経営学の理論なんて土壇場では役に立たない。とにかく頑張れば、何とかなるさ」ということだったのだ。それまでの長い物語は一体何だったのか。そして、このアニメは一体何がやりたいのか。もっとも、決勝戦後のエピローグ(やたらと長い)では、再びドラッカー賞賛に回帰するので訳が分からない。

・総論


 安いストーリーに安い画という典型的なクソアニメである。さらに、そこへ宗教じみた安い思想まで加わっており、褒められる点が一切ないという惨状がかえって清々しい。ドラッカーに興味がなければ、馬鹿馬鹿しい超展開を鼻で笑い飛ばせるので、クソアニメの入門としては最適かもしれない。決して、これで経営学を勉強しようなどと思ってはいけない。

星:★★★★★★★★★★(-10個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 21:08 |  ★★★★★★★★★★ |   |   |  page top ↑
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