『のうりん』

公害。

公式サイト
のうりん - Wikipedia
のうりんとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2014年。白鳥士郎著のライトノベル『のうりん』のテレビアニメ化作品。全十二話。監督は大沼心。アニメーション制作はSILVER LINK.。地方の農業高校を舞台にした日常系ギャグアニメ。モデルは岐阜県美濃加茂市にある実在の高校。その縁から様々な面で地元企業・行政とタイアップし、放送前には市長直々に応援メッセージを動画サイトで配信した。

・コメディー


 おそらく、番組開始五分で目の肥えた視聴者の大半が気付くだろう。「このアニメはつまらない」と。そして、その予想は見事なまでに的中する。はっきり言って、この作品は死ぬほどつまらない。それも人を選ぶとか、オタクじゃなければ理解できないとかではなく、誰が見ても明らかにつまらない。よくこんな物を平気で地上波に配信できるなと、見ている方が恥ずかしくなるレベルである。
 単純にネタがスベっているだけならまだいい。だが、本作の場合はデフォルメや誇張演出を多用し、キャラクターがハイテンションでわめき散らし、良識を疑うような下ネタや他作品のパロディーをこれでもかと詰め込んで、その上でスベっているのである。もう目も当てられない。しかも、そのつまらないネタを延々と引っ張るという悪しき特徴がある。第二話では下品なパンツネタを十分以上も続けるなど、完全にコメディーの基本ができていない。ちなみに、劇中で使われているパロディーネタのほとんどが、二十年以上前の少年漫画・アニメである。作者の実年齢と狭い知見が伺い知れて哀しくなる。
 なぜ、つまらないのかも明白だ。それは独自性がまるでないからである。キャラクター一つ取っても、アイドルオタクの痛々しい朴念仁の主人公、天才イケメンだが変態露出狂の親友、主人公のことが大好きなツンデレ幼馴染み、無口な元アイドルのヒロイン、アラフォーの行き遅れ教師と皆、深夜アニメファンなら必ずどこかで見たことのある人達ばかりだ。そんなテンプレート丸出しの登場人物では、どんなに舞台を変えたところで目新しさは何もない。本作の特徴と言えば、岐阜県という地方都市にある農業高校を舞台にしているところである。それなら、キャラクターも設定を活かした人々にするべきではないのか。例えば、野菜マニアで都会に憧れる田舎者の主人公と都会から転校してきてカルチャーギャップに苦しむ元アイドルのヒロインの組み合わせにしておけば、設定に沿った物語作りをするだけで幾らでも面白いシチュエーションが発生するだろう。
 結局、笑いとはロジックの産物なのである。綿密な計算に基づいてシナリオを構築し、初めて良質な笑いが生まれるのである。決して、感覚だけでできる物ではないし、感覚だけで作ったら本作のようになるという良い見本である。

・アイドル


 主人公達は岐阜県にある架空の農業高校に通う高校生。そこへ、つい最近までトップアイドルだったヒロインが転校してきたところから物語が始まる。主人公はそのアイドルの大ファンだった。そのため、憧れの女性が目の前に現れて、大パニック!……になるのが普通のアニメである。だが、本作は普通のアニメではないので、なぜか主人公は極めて冷静である。慌てふためくこともなく、最初から一人の女性として彼女に接する。それどころか、まるで十年来の友人のように彼女を煽ったり、セクハラしたりする。もう、その時点で本作は一切批評する価値のない本物のゴミである。自分で作った設定だろう。なのに、その設定を十分に活かした作品作りをしなくてどうしようと言うのか。雲の上の存在だったヒロインを目の当たりにして、主人公が常人ではあり得ない突飛な行動をすれば、ギャグ的にも物語的にも面白くなるではないか。何を思ってこのようなことをしているのか全く理解できない。まさか、アラフォーのプロのクリエイターが、こんな作劇の基礎中の基礎もできないとは思いたくない。
 一方、農業高校で主人公達と学ぶことになった元アイドルだが、なぜか、その特異なプロフィールを全く感じさせない。どこまでも普通の人間であり、周囲の人間も一人の転校生として粗雑に扱っている。もちろん、素の彼女はアイドル時代と違って無口・無表情であるというのが設定的な面白さなのだが、あまりにも一般人臭が強過ぎて、元アイドルという肩書きまでもが嘘のようである。もしや、双子設定なのではと身構えてしまうほどに。はっきり言って、これも意味が分からない。トップアイドルが地方の農業高校に転校してきたら当然、様々なトラブルが発生するだろうし、彼女自身、アイドル時代とのギャップからアイデンティティーの確立に苦心するだろう。このままでは、元アイドルなどという特殊設定を用いず、ありがちなトラウマを抱えた薄幸の美少女で何の問題もない。
 一応、物語のクライマックスシーンでは、忘れた頃にアイドル設定が復活し、農業問題と絡めて「なぜ、この高校に転校したのか」が語られる。それは「主人公の送ってくれた野菜が、ファンに媚を売ることに疲れたヒロインの心を癒してくれたから」だ。かなり苦しいが、何とか気持ちを理解できないこともない。ただ一点、絶対に忘れてはならないことがある。それは「なぜ、ヒロインはアイドルになりたかったのか」という視点である。そこを完全に否定してしまうと、ヒロインはただの自己顕示欲に塗れた性悪女になる。アイドルと農業に共通するのは「人を笑顔にしたい」という優しい気持ち、そこを強調して描くべきなのだが、残念ながら本作にそのような高度なことを望むのは無茶である。

・農業


 本作唯一のオリジナリティーは、農業高校を舞台にしている点である。そのため、様々な農業知識が劇中に登場する。その知識自体は間違っていない。だが、それらのほとんどは物語になっておらず、ただ知識を羅列しているだけである。なぜ、そうなっているかと言うと、主人公達が農業高校在籍中の学生にも係らず、すでに知識を十分に蓄えており、それを無知なヒロインに伝授するという話になっているからだ。もし、主人公達が学生生活を通じて農業について学んでいくストーリーならば、本作のような資料の垂れ流しにはならなかっただろう。また、ライトノベルにありがちな「最初から最強」状態であるがゆえに、あらゆる農業上のトラブルを学生達だけで解決しようとする。何と自主性に溢れた高校であろうか。ただ、猿害や台風被害などは全国的に問題になっているのだから、これを生徒達の自己管理に任せるのは軽率過ぎる。それではただの放任と取られても否定できまい。
 本作は基本的に能天気なギャグアニメだが、物語の節々で急にシリアスになる。急過ぎて、突然違う作品が始まったかのようである。つい先程まで馬鹿騒ぎしていた連中がそういうことをやっても、同じキャラクターを用いたスピンオフ作品にしかならない。コメディーパートでもちゃんと基本に則ったストーリーを構築していれば、シリアスなシーンだけが宙に浮くこともないのだが……。それはともかく、そのシリアスパートでは日本の農業の将来について語られる。農業は大変で実りも少ない職業だが、真面目にコツコツと作った野菜はどんな高級品よりも美味しいという結論だ。それは間違いなく正しい。主人公達も野菜作りに対してだけは真摯である。ただ、真面目にコツコツと万人が楽しめるコメディー作りに励まず、下ネタとパロディーという最も安易な手段に逃げた人間が何を偉そうに語っているのかということだ。言行不一致な人間に心配されるほど日本の農業は落ちぶれていないだろう。
 このようにあらゆる面でダメなアニメだが、良いところが全くないわけではない。特に、第六話の萌えビジネス回はなかなかよくできており、後味も爽やかである。また、第十話の親子対立回も『美味しんぼ』のパロディーとは言え、訴えようとしているテーマ自体は悪くない。ただ、そのテーマとストーリーが全く噛み合っていない。固定種の野菜の美味しさをアピールしなければならないのに、なぜかマーケティングの話になっている。結局、ダメである。

・タイアップ


 以上、本作は誰が見ても非常に分かり易いクソアニメである。ここまで酷いと逆に「酷さを楽しむ」という状態になって、ネット掲示板や動画サイトなどでは文字実況が盛り上がったりする。おそらく、制作側もそれを十分に認識して開き直っているであろう。最初から良質の作品を作る気などさらさらなく、適当に小遣い稼ぎできればいいと思っているに違いない。それは別にいい。どうせ、半年後には誰も覚えていない作品だ。ただ、一つ問題がある。それは、本作が数多くの地元企業・行政とコラボレーションしていることである。
 この手のコラボの発端は、やはりアニメ『らき☆すた』になるだろうか。放送中からモデルとなった埼玉県久喜市の鷲宮神社には多くのアニメファンが訪れ、とんでもない経済効果をもたらした。それがきっかけとなり、二匹目のドジョウを狙って幾つものコラボが行われたのだが、それが上手く行った例は少ないようだ。明確に成功と言えるのは『ガールズ&パンツァー』の茨城県東茨城郡大洗町ぐらいな物だろう。大規模なイベントを行ったにも係らず、思ったよりファンが足を運ばなかったり、逆にアニメファンがトラブルを起こしたこともあった。結局、上手く行かない理由は、企業・行政側がアニメの内容をよく理解していないからだろう。経済効果にだけ目を奪われ、中身を精査せずに行うから、ニーズがズレるのである。中には『ヨスガノソラ』のように町興しに使うにはどう考えても相応しくない作品も存在するのだから、まずは深夜アニメの現実に目を向けるべきである。
 さて、本作も地元企業と多くのコラボを行っている。そのタイアップをどちら側が仕掛けたのかは知る由もないが、どちらにしても本作はそんな価値のない作品である。ならば、アニメ側が自粛すべきなのだ。低俗な物を作っていると自覚しておきながら、それを隠してタイアップするのは詐欺にも近い行為である。しかも、本作は農業を取り扱っているのである。真面目にコツコツと作物を育てている地元農家の人々に対して、十分以上もパンツネタが続く下品なアニメを胸を張って見せられるのかと問いたい。

・総論


 下ネタやパロディーが悪いというのではなく、コメディーとしての基本が何もできていないのが致命的。日本の農業を心配する前に自分の国語力を心配すべきだ。後、田村ゆかりファンは本気で怒っていい。

星:★★★★★★★(-7個)
関連記事
スポンサーサイト
テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 11:43 |  ★★★★★★★ |   |   |  page top ↑
twitter
検索フォーム
最新記事

全記事一覧
評価別一覧
年代別一覧
掲示板
カテゴリ
リンク
カウンター
RSSリンクの表示



にほんブログ村
PR1
PR2