『残響のテロル』

創作の基本。

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残響のテロル - Wikipedia
残響のテロルとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2014年。オリジナルテレビアニメ作品。全十一話。監督は渡辺信一郎。アニメーション制作はMAPPA。特殊な教育施設で育てられた少年二人が社会に復讐するためにテロを起こすSFアクション。中国では『BLOOD-C』『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』と並んで暴力アニメとして規制されているらしい。否定はできない。

・犯罪アニメ


 本作はいわゆる「クライムムービー」というジャンルに該当する。主人公は十代の少年二人。だが、その正体は日本を混乱に陥れようと企む爆弾テロリストである。本作は彼らの視点に立って、準備から決行に至るまでテロを行う様を克明に描いている。こういった作品の場合、制作者は企画立案に当たって非常にデリケートな作業を要求される。取り扱っている題材が題材だけに、犯罪を擁護したり助長するような内容になってはならないからだ。そのため、あらゆる要素が基本に忠実に極めてロジカルに作られる必要がある。決して、その場その場の感覚だけで作ってはならない。
 まず、主人公がテロリズムに走った動機を詳細に描かなければならない。なぜ彼らがテロに手を染めたのか、なぜ合法的な活動ではダメだったのか、その理由を視聴者が十分に納得し、その想いに共感できるようにしなければ、主人公がただの憎むべき凶悪犯罪者になってしまう。その際、テロの対象となる社会や組織が如何に卑劣で悪辣であるかを明示し、動機の裏付けとすることも重要だ。テロリズムはもちろん悪だが、悪の反対が正義とは限らないと示す必要がある。また、彼らはどんな権力にも屈せず、頑強な肉体と優れた知性を持つ憧れのダークヒーローであると同時に、ふとしたことで心の弱さを見せ、くだらないことに悩み苦しむ人間的な魅力も持つ。完全無欠な人間が上から目線を行う世直しほどつまらない物はない。
 人が理不尽で冷酷な現実社会で生活せざるを得ない動物である以上、それを根底から破壊して滅茶苦茶にしたいという逃避願望は誰しもが持っている物だ。だが、皆、その感情を抑圧して毎日一生懸命頑張っているわけで、個人的なわがままで好き勝手やられても困るという感覚も持ち合わせている。テロが発生して一番の被害を被るのは、権力者側ではなく一般庶民である。そのため、テロに対抗する体制側の視点も絶対に必要になる。具体的に言うと、現場で体を張ってテロリストと戦う警察や軍隊の一員がもう一人の主人公になる。ただし、上記の体制批判と矛盾しないよう、組織からあぶれた一匹狼とするのがセオリーだ。組織の持つ悪癖を十分認識しつつ粛々と任務を全うする姿は、特に大人の視聴者の共感を呼ぶだろう。
 最後に、これは非常に重要なことだが、物語のラストで主人公は必ず死亡する、もしくは社会から迫害されて世捨て人になる。どんなに理由があろうと、どんなに社会が腐敗していようと、暴力に訴えた時点でその人は悪である。物語としての整合性を保とうと思ったら、最後に主人公は死ぬしかない。それがクライムムービーの鉄則である。もちろん、中には『機動戦士ガンダム00セカンドシーズン』のようにテロリストの主人公が生き延びて神様気取りで世界を支配する作品も存在するが、例外なく駄作である。

・主人公


 主人公は十代の少年二人組。彼らは日本政府が極秘裏に設立したある施設で育った。そこは全国の養護施設より才能ある子供を集め、投薬を中心とした能力開発プログラムを施し、国の将来を担う優秀な人材を育てようという非合法の特殊教育機関だった。だが、無謀な計画により子供達は次々と倒れ、生き残った者も寿命は長くないとされた。そこで主人公達は命を懸けて施設を脱走する。数年後、成長した彼らは、与えられた優秀な頭脳を活かして、自分達の人生を狂わせた人間に対して復讐を開始する。日本政府が行った犯罪行為を世に知らしめて、二度と同じ悲劇を繰り返させないために。そして、自分達の生きた証を残すために。
 これが主人公達をテロに走らせた「動機」である。なるほど、彼らの気持ちは十分に理解できる。彼らは親の顔を知らない。愛情も知らない。学校も遊びも知らない。名前もない。人としての当たり前の幸せを知らない。これは社会を恨む十分な理由になり得る。彼らは決して悪人ではない。ストーリー開始直後は残忍で快楽的な無差別テロリストかと思われた彼らも、話が進むにつれて明確に目標を定めてテロを行っていることを知る。綿密な計画により被害は最低限に抑えられ、死者は一人も出ていない。体制側の陰謀で民間人が巻き込まれそうになった時は、自ら救出へ向かうほど。彼らはまさに弱きを助け強きを挫くダークヒーローである。
 ただ、善良な一般市民である我々視聴者が主人公達に「同情」することはできても、「共感」することは難しいだろう。なぜなら、彼らの成育歴はあまりにも特殊過ぎる。フィクションの中では成立しても、実際にこのような特殊教育機関は存在し難いのだから、リアリティという意味において真に同じ視点を持つことは不可能だ。また、施設内の描写も少なく、そこでどれほどおぞましい実験がされていたのかいまいち伝わらない。そこで、本作は主人公と視聴者のリンク役を担う人物を一人用意している。それが高校生のヒロインである。彼女は学校では同級生にいじめられ、家庭ではノイローゼ気味の母親から束縛されおり、どこにも自分の居場所がないと思っている。そのため、世界破滅願望を持っている。いじめや過保護はともかく、自分の居場所の問題は全人類に共通する悩みであろう。そんな彼女が主人公達に助けられる形でテロリストグループに加わることにより、話に説得力を持たせている。
 このように、本作はキャラクター配置に関して非常に抜かりがなく、創作活動のお手本にしても良いぐらいの作品である。クライムムービーとしてやるべきことを全てやっており、企画段階で十分に練り込まれているのがよく分かる。ただし、基本に忠実過ぎて個性という面でやや物足りなさを覚えるのもまた事実である。

・敵


 では、彼らの仇敵となる体制側のキャラクターはどうなっているだろう。当然、その辺りも本作は抜かりがない。本作が用意したのは、警視庁文書課に勤務する一人の刑事である。彼は警視庁きっての敏腕刑事であったが、某大物国会議員の不正を暴こうとしたため、閑職へと左遷されていた。しかし、連続爆弾テロが発生したことにより現場に復帰する。物語の前半は、彼と主人公達との極限状況下での知恵比べがメインとなる。主人公達が出す犯行予告のクイズを次々と解き明かし、事前に犯行を食い止める刑事。見た目は小汚い中年男性だが、人為的な天才であるテロリストと互角に渡り合う彼は紛れもなくヒーローである。やがて、主人公と刑事の間には奇妙な絆が生まれてくる。それは友情にも似た厚い信頼感。親の愛情を知らずに育った主人公達にとって、それは生まれて初めて味わう感覚だった。
 第五話。一人の女性が登場人物の列に加わる。彼女はかつて主人公達と同じ施設で育てられ、唯一生き残った人物。今はアメリカの特殊機関に属しており、アメリカ政府の連続テロ事件に対する介入という形で、日本の警察の指揮を執ることになる。彼女はそのずば抜けた知性と一般人の犠牲を厭わない残忍性を持って主人公達に戦いを挑む。しかし、それは爆弾テロを自作自演して彼らを炙り出すという、どちらがテロリストか分からない過激な方法だったので、警察からも反発を受ける。この異様な状況に疑問を抱いた刑事は、彼女に逆らって謹慎処分を受けたのを機に独自調査で事件の裏を洗い、かつて日本で行われた恐ろしい陰謀の確信に迫る。
 要するに「共通の敵」である。敵と味方、どちらの言い分も正しく、一方だけに肩入れできない時、両者にとっての共通の敵を出すことで強引に話をまとめるストーリー構成上の基本テクニック。ただ、それが第五話という非常に早いタイミングで出てくるのは珍しい。普通は物語の後半以降で初登場し、実際に活躍するのは終盤だけというパターンが多いのだが。もう少し、主人公達と刑事の熱いバトルを見たかった。それはともかく、登場が早過ぎたせいか、彼女は最終回まで舞台上に残ることなく、体調不良からの自殺という形で途中退場する。なぜなら、日本政府とアメリカ政府という本当の意味での共通の敵が現れたから。つまり、彼女は設定的にも物語的にも完全なる「咬ませ犬」である。主人公達に対して愛憎入り混じった複雑な感情を抱き、短い生涯を必死に生き抜いた容姿・性格共に優れたなかなかの好キャラクターだっただけに、何とももったいない話である。

・ストーリー


 さて、役者は揃った。では、実際のストーリーを見て行こう。主人公達はまず核燃料再処理施設を襲撃して、日本政府が密かに開発していた小型の原子爆弾を盗み出し、それを戦いの切り札とする。この原子爆弾に関する一連のエピソードは、いくらフィクションとは言えやはり苦しい。日本にそのような科学技術力があるとは思えないし、それを許す闇の権力が存在するとも思えない。秘密工場のくせに警備も甘過ぎる。もっとも、これは物語を成立させるための「大きな嘘」という奴で、リアリティが低下することは承知の上であえて導入されている。それ以外の細かな点の精度を上げていけば、相対的にこういった大きな嘘は目立たなくなるからだ。これもまた創作の基本技術である。
 当初は無差別な愉快犯かと思われた主人公達の連続爆弾テロも、刑事の活躍により特定の施設を狙った政治的なテロであることが明らかになる。それは、主人公達の人生を狂わせた「アテネ計画」の推進団体である某政治塾の関連施設。かつて刑事を左遷した大物政治家が中心となって作られたその団体は、日本がアメリカから軍事的に独立することを最終目標にしていた。その一件を察知したアメリカ政府も、当然のように事件に介入する。結果的に日米間の代理戦争に巻き込まれるような形になった主人公達と刑事。ここに来て、本作のテーマが反戦反米であることが明らかになる。
 ラスト、追い詰められた主人公達はついに原子爆弾を解き放つ。彼らが行ったのは高高度核爆発。放射能は宇宙に拡散するので人体に影響はないが、降り注ぐ電磁波が電子機器を破壊し、日本中の都市機能がストップする。この手の作品で大規模テロが実際に成功するのは珍しい。インフラが破壊されたら、それだけで万単位の死者が出ると思うのだが……。その後、教育施設跡地でヒロインと楽しく過ごしていた主人公達だったが、突如出現したアメリカ軍のヘリコプターにより銃殺される。最後に主人公が死ぬのはセオリー通りなので驚きはないが、同時にあまり感動もない。その理由は彼らがベラベラと心情を吐露し過ぎなせいだろう。例えば、映画『俺たちに明日はない』のラストでは、主人公が警察の銃撃を受けて蜂の巣になり、何の余韻もなく終了する。それがかえって暴力の行く末や青春の無残さを浮き立たせる。一方、本作は刑事との邂逅があったり、原発を用いた脅迫があったり、マスコミに政府の悪事が追及されたりとどうにもスマートではない。はっきり言って、アイスランドの件は完全に蛇足だ。「アテネ計画」だけで反戦の想いは十分伝わる。本作は基本に徹することでクオリティを高めていた作品だったのに、最後の最後で少し欲を出してしまったのが何とももったいない。

・総論


 共通の敵が登場して以降の質の低下は否めないが、それでも基本に忠実で、やるべきことを全てやっている好感度の高い作品。確かに、もう少し何らかの独自性は欲しかったところだが、では、このレベルにまで達している日本映画・ドラマがどれだけあるのかと問われると、答えられる人はいないだろう。

星:☆☆☆☆☆☆☆(7個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 17:37 |  ☆☆☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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