『世界でいちばん強くなりたい!』

リョナ。

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世界でいちばん強くなりたい! - Wikipedia
世界でいちばん強くなりたい!とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2013年。ESE原作・夏木きよひと作画の漫画『世界でいちばん強くなりたい!』のテレビアニメ化作品。全十二話。監督は久城りおん。アニメーション制作はアームス。女子プロレス界でトップを目指す元アイドルの活躍を描いたスポ根アニメ。モデルはやはりアイドルレスラーの元祖と言われるミミ萩原なのだろうか。

・リョナ


 本作は「リョナ」アニメである。リョナとは、スポーツや戦闘などで女性が肉体的苦痛を受けて苦しんでいる様子を見て性的興奮を覚えるフェティシズムの一種である。リョナのリョは猟奇的、ナは自慰行為を指す。読んで字の如く、自分より地位の低い人間を虐待することによって優越感を得たいというサディズムがベースになっている。リョナ好きの人間は、自分好みの女性が苦しんで悲鳴を挙げれば挙げるほど興奮し、さらなる苦痛を求める。これがエスカレートするとグロテスク嗜好になり、対象への肉体破壊願望が芽生える。もっとも、いざ破壊までしてしまうともう声を聞くことができなくなって困るというジレンマが面白い。壊さないように苦しめるという謎の労りの心が必要になるからだ。
 ただ、深夜アニメにおけるリョナにそこまで深い意味はないだろう。心の内なるサディズムの発露としてではなく、女性が苦痛を受けている時の表情や悲鳴が性行為のそれを想起させるからという単純な理由の方が強い。いくら規制の緩い深夜アニメでも、下着や裸はともかく、性行為をそのまま放送することはできない。だが、視聴率や放送後のメディアの売り上げを考えれば、扇情的なエロス要素は外せない。だから、それに類似した物でお茶を濁す。要するに「疑似ポルノ」である。むさ苦しい戦闘メンバーの中になぜか若い女性が一人いる。女戦士はどう考えても役に立たない露出度の高い鎧を着る。敵モンスターの腕には無駄に触手が付いている。そうやって、あの手この手で疑似ポルノ状態を作り上げようと努力する。今や手段と目的が逆転しているアニメも少なくない。
 そこで本作である。本作は女子プロレスという題材を十二分に生かし、グラマラスな美女がプロレス技をかけられて苦しむ様子を延々と垂れ流すことに心血を注いでいる。ヒロインは露出度の高いコスチュームを着て、あられもないポーズを取る。カメラは局部を大写しにする。その間、女性声優はずっと悲鳴を挙げ続ける。そういったシーンが五分・十分と繰り返される。最早、これは疑似でも何でもない。完全なる「ポルノ」である。こんな映像を平気で地上波に配信する風土、本番じゃないから大丈夫という空気……言いたくはないが、やはり異常だと言わざるを得ない。しかも、悲鳴という名の喘ぎ声を挙げているのは、当代きっての人気声優である竹達彩奈や阿澄佳奈なのである。業界トップの人材をこうも粗雑に扱うアニメ業界、それに異議を唱えない声優業界、視聴者にとってはありがたいことだが、そこに正義はあるのだろうか。

・ストーリー


 本作の主人公は、国民的アイドルグループのセンターポジションを務めるトップアイドル。ある日、仕事の一環として女子プロレス団体に体験入団した際、レスラーの一人にアイドル活動を馬鹿にされる。それに怒った主人公は、自らがプロレスラーになって彼女と対決することを決意する……って、んん? え、どういうこと? アイドルを馬鹿にされてプロレスで戦うの? 普通はアイドルで戦うと思うのだが、まぁ、ここで躓いていると話が進まないので設定をフォローすると、要するにその活動にどれだけ本気で取り組んでいるかという誠実さが争点になっている。示したいのはその気持ちの度合いだけなので、挑戦する対象がプロレスだろうと何でもいい。ただ、こういったストーリーを成立させたければ、「プロレスなんてどうせ八百長だろう」「アイドルなんてオタクに媚を売っているだけだろう」というお馴染みのやり取りがないと盛り上がらない。ベタは大事だ。もっとも、この八百長という単語は本作ではNGなので使えない。その理由は後述する。
 こうして、晴れて女子プロレスラーとなった主人公。トップアイドルだけあって、身体能力やメンタルの強さには非凡な物があったが、如何せん素人ゆえにデビュー以来六十五連敗という大記録を達成する。六十五連敗である。しかも、そのいずれも逆エビ固めを耐えきれずに秒殺でギブアップするという同じ展開で敗れている。ダメだろ。プロレス団体は一体彼女に何を教えているのか。さすがにこれでは不味いということで、主人公は団体のスターレスラーに弟子入りして、一から心身を鍛え直す。そこで「プロレスの本質は技の痛みに耐えて逆転すること」という教えを受け、さらに必殺技を取得し、アイドルを馬鹿にした先輩レスラーにリベンジマッチを挑む。そして、めでたく初勝利を収める。それが第六話までの話である。基本的に本作は展開が早い。もう少しストーリーに様々な仕掛けを加えても良かったのではないだろうか。残念ながら、視聴者の記憶に残っているのは、主人公が逆エビ固めで悲鳴を挙げている姿だけである。
 その後、目的を達したにも係わらず、プロレスを続けようとする主人公の前に新たな敵が現れる。この敵の正体を明かしてしまうと、実際に目の当たりにした時の衝撃が薄れてしまうので秘密にしておくが、かなりの超展開である。ある意味、プロレスらしいドラマチックなストーリーと言えなくもないが、お前らどれだけ拳で語り合いたいんだよ、野生生物かとツッコミを入れざるを得ない。

・本質


 以上、本作のストーリーを簡単に紹介したが、そこに一つ、非常に興味深いポイントがあったことにお気付きになっただろうか。それが、プロレス団体のスターレスラーが主人公に対して語った「プロレスの本質は技の痛みに耐えて逆転すること」という教えである。プロレスを、いや、スポーツを題材にしたアニメ作品は数多くあれど、ここまでその競技の本質を簡潔に断言した物は少ないのではないかと思われる。普通はもっと「チームワークが大切だ」「ボールは友達」みたいな漠然とした物になりがちだ。では、この考え方は正しいだろうか。少し考察してみよう。
 プロレスの魅力と言えば、やはり派手で華麗なプロレス技の数々にある。ブレーンバスター、バックドロップ、パイルドライバー、逆エビ固め。基本的に、プロレスに敵の攻撃を避けるという概念は存在せず、互いに何度も大技をかけ合って勝敗を決めるスポーツである。しかし、プロレスは採点競技ではない。どんなに複雑で難易度の高い技を披露したところで、技自体には技術点も芸術点もない。では、何を持って勝利とするのか。もちろん、ギブアップやスリーカウントで決めるのだが、そのためには相手の体力・スタミナをギリギリまで削る必要がある。つまり、プロレスとは体力の削り合いがメインのスポーツだということになる。そういう意味で言うと、プロレスの本質は技を「かけること」ではなく「耐えること」であるという指摘は言い得て妙である。敵の激しい攻撃を何度も何度も耐えては反撃する。プロレスラーがあれだけ苦しいトレーニングを積み重ねているのは、何にも屈しない頑強な肉体を作るためである。もし、素人がプロの技を食らってしまうと、その瞬間、彼は病院送りになるだろう。特に女子プロレスの場合は、技の完成度や力強さ、迫力という点ではどうしても男子に劣るため、耐えることの方が重視される傾向にある。実際、女子プロレスのスターは必ずしも最強とは限らず、それ以外の要素を売りにしている者、いわゆるアイドルレスラーも多い。そんな彼女達が巨漢の悪役レスラーにこっ酷く痛め付けられるのも、また女子プロレスの魅力の一つである。
 その観点で見るなら、本作独特の延々と続く非人道的なリョナ描写は、作品テーマとしては正しいということになる。プロレスの本質は耐えることであるという教えを身を持って実践するために、わざと主人公が技をかけられて悶絶する姿を放送しているのだ。よって、本作こそが世界一リアルなプロレスアニメなのである……という言い訳はやはり苦しいか。

・エンターテインメント


 さて、これで終わると綺麗にまとまるのだが、もう一つ、絶対に忘れてはならないことが残っているため、話はまだまだ続く。本作が意図的に避けていること、物語を成立させるためにあえて無視していること、それがプロレスのショー的な側面だ。本作におけるプロレスは、現実におけるプロレスとは大きく異なり、完全なるシュート(ガチンコ)である。リング上でプロレスラーが正々堂々と戦い、より強い者が勝利する。だが、現実のプロレスはそうではない。事前の打ち合わせによって定められたブック(台本)があり、それに沿って試合が行われる。勝者も最初から決まっていることが多い。それは八百長がどうということではなく、ショーを盛り上げるためには絶対に必要なことだ。例えば、敵をロープに投げて、跳ね返ってきたところをラリアットで倒す。プロレスでは当たり前の光景だが、物理学的にそんな運動が発生するわけがない。レスラーがわざわざ技を食らうために走って帰ってくるのは、両者の間にそういった約束事があるからだ。全てはプロレス技を美しく見せるために。そもそも、本当に強い者を決めたければ、プロレス技などかけずに直接拳で殴った方が早い。つまり、エンターテインメント性を重視するために、ある程度の競技性を犠牲にしているのがプロレスである。
 ところが、本作は違う。真剣勝負こそがエンターテインメントであると断言している。虚飾を排し、全身全霊をかけて戦うからこそ娯楽であり観客が感動すると論じている。もちろん、それはそれで間違っていないのだが、話がややこしくなっているのは、本作はそこにアイドル要素を絡めているからだ。プロレスもアイドルもショービジネスという括りでは全く同じベクトルにある。しかし、真剣勝負こそがエンターテインメントだとしてしまうと、その方向性が少しズレてしまう。アイドルがファンのために自分を偽ってキャラを演じることは邪道であり、それでは人を感動させることはできない。自分を全てさらけ出し、恋人の有無などもオープンにしなければならない。いや、それはおかしい。ファンはそんな物を望んでいない。エンターテインメントにはある程度の虚飾も必要だ。現に本作自体、視聴者を楽しませるためにポルノ紛いの露骨なエロスを加えているではないか。言っていることとやっていることが違う、それがこの作品の本質である。

・総論


 まぁ、これでもそこら辺の量産型ファンタジーアニメよりは余程面白い。こういったリング外でのストーリーをプロレス用語では「アングル」と呼ぶそうだが、エンターテインメント的にその重要性がよく分かる作品である。

星:★★★★(-4個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 11:05 |  ★★★★ |   |   |  page top ↑
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