『ARIA The ORIGINATION』

終わりなきユートピア。

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ARIA (漫画) - Wikipedia
ARIA The ORIGINATIONとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2008年。テレビアニメ『ARIA The ANIMATION』『ARIA The NATURAL』、OVA『ARIA The OVA ~ARIETTA~』の続編。全十三話。監督は佐藤順一。アニメーション制作はハルフィルムメーカー。三部作の最終章に当たる。本作のテーマは『始まり』。

・美術と音楽


 本シリーズの最大の欠点であった美術面が、時代の進歩により、最大のセールスポイントになるとは誰が予想しただろうか。かつては、技術的にも予算的にも隠し切れない拙さが見られ、内容の良さに反して他人にオススメし難いという状態であったが、本作は前二作とは違って見た目にも多くのコストがかけられ、他社アニメにも決して引けをとらない作品に仕上がっている。その一点だけでも、本作に対する製作会社の期待値の高さが見て取れるだろう。もっとも、そんな無茶が祟って、制作のハルフィルムメーカーは放送数ヶ月後に身売りしてしまうのだが……。
 人物作画は良好。動画枚数も十分。背景美術も精緻になり、白フィルターに頼らずとも柔らかな雰囲気を醸成することに成功している。デジタル技術の発展が、アナログな水の表現を豊かにするという皮肉。ここまで来ると、ヒーリングアニメという自称もあながち誇大広告ではないだろう。特に、一人原画として名を馳せた第四話は、深夜アニメ全体の中でも屈指の良作画・良演出であり、この回だけでも十分に鑑賞する価値がある。もちろん、音楽面も申し分ないのだが、本作からED曲担当が新居昭乃に変更されており、よりアダルトなムードになっているのは賛否両論か。

・転換点


 本シリーズは、アクアという理想郷で主人公がゴンドラの修行をしながら、穏やかな日常を過ごす物語である。実際、第一話~第三話は、前作までののんびりゆるやかな雰囲気を踏襲したオリジナルストーリーを展開しており、特筆すべき要素はあまりない。だが、言ってみれば、そこまではプロローグであり、第四話以降は物語に新たな軸を加えて再構築している。それが「成長と自立」である。
 実質的なスタートラインである第四話は、一般的に「トラゲット回」と呼ばれている。先輩の薦めでトラゲット(渡し舟)業を行うことになった主人公は、そこで他社のシングル(半人前)ウンディーネと出会う。彼女達もまた明日のプリマ(一人前)ウンディーネを夢見て努力を続けている仲間だった。そんな彼女達と将来の夢を語り合ったことで、主人公は自分の立ち位置を再確認し、新たなスタートを切る決意を固める。つまり、これまでのあやふやだった自分と決別する重要なターニングポイントの回である。輝く未来へ向かって真っ直ぐに。もう過去に戻ることはできない。
 ちなみに、この回で主人公が他のシングル達に操舵術を褒められるというシーンがある。自分でも気付かぬ内に、彼女はぐんと技量を上げていたのだ。一期一話の新米だった頃を思い出し、それまで主人公達と過ごしてきた長い時間が無駄ではなかったと分かって、視聴者にも嬉しい演出である。

・切なさ


 まず、初めに変革の時を迎えるのが主人公の後輩である。かつて、彼女は操舵術こそは完璧だったが、接客や観光案内に問題を抱えていた。だが、昇格試験で見事なカンツォーネを披露し、確かな成長振りを示したことで彼女は試験に合格する。しかも、それは長いウンディーネの歴史の中でも初の事例となる飛び級昇格であった。
 しかし、プリマになるということは、仕事に時間を取られるということだ。忙しない日々が続く中、後輩は主人公達と会えずに寂しい想いを募らせる。会いたいけれど、会う理由がない。居心地の良い場所から巣立つ時に感じる不安。新しい場所で味わう充実感。そして、もう二度と過去に戻ることができないと知る寂寞感。そんな自己矛盾に葛藤する切なさこそが、本作全体を通した演出の重要な鍵になっている。そのため、BGMや挿入歌も前作に比べて、しっとりとした大人っぽい楽曲が多くなっている。
 第十一話では、そんな後輩に主人公達がサプライズで会いに来る。驚く後輩に対して、主人公は「会うことに理由などいらない」と言う。胸のつかえが取れた後輩は、二人に向かって極上の笑顔を見せる。

・自立


 続く第十二話で友人が昇格し、最後に一人残った主人公も昇格試験を受ける。見事な接客と操舵術と観光案内で主人公は一発合格を果す。だが、それは同時に優しかった先輩との別れの時であった。彼女の引退式を済まし、水先案内店の実質的な一人経営者になった主人公。ずっと憧れていたプリマウンディーネ、しかし、それは夢溢れる理想郷との決別を意味した。つまり、モラトリアムからの卒業である。数日後の朝、主人公は窓のシャッターの前で思い悩む。これを開けてしまったら、昔の楽しい思い出が消えてしまいそうで……。
 原作では、ここで一期十一話の「あの頃は楽しかったじゃなくて、あの頃も楽しかった」がフィードバックされるのだが、尺の都合上、アニメ版ではカットされており、かなりあっさりと主人公はシャッターを開ける。その理由の一つに、三期では二期で見られたような不思議話が一つもないということが上げられる。アニメ版は原作よりも一周り大人なのだ。そして、主人公は本当の意味で自立する。
 エピローグは数年後、水先案内店に新入社員が入社し、歴史はまた巡って行く。

・総論


 元々、世界観は素晴らしいものがあった。本作はそれをベースにして、しっかりとした成長物語を描き切っている。そして、それらを彩る良質の美術と音楽。もう、何も批判するところがない文句なしの傑作である。

星:☆☆☆☆☆☆☆☆☆(9個)

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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 21:45 |  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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