『ご注文はうさぎですか?』

文化祭の模擬店。

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ご注文はうさぎですか? - Wikipedia
ご注文はうさぎですか?とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2014年。Koi著の四コマ漫画『ご注文はうさぎですか?』のテレビアニメ化作品。全十二話。監督は橋本裕之。アニメーション制作はWHITE FOX。ヨーロッパ風の街の喫茶店を舞台にした日常系アニメ。略称は「ごちうさ」。キャッチフレーズは「すべてが、かわいい。」で、明らかに特定の作品を意識している。

・喫茶店


 日本のどこかにある、なぜか中世ヨーロッパ風の外観を持った小さな街。本作のストーリーは、この春、高校に進学した主人公がその街へやってきたところから始まる。彼女が学校に通いながら住み込みで働くことになったのは、人語をしゃべるうさぎと中学生の一人娘が切り盛りする喫茶店「ラビットハウス」。そこで、主人公はバイト仲間やライバル店の店員達と共に穏やかながらも楽しい日常を過ごすのだった。
 本作の抱える最大の欠点、それは街の喫茶店を舞台にしている意味が何もないことである。主人公達が勤務している喫茶店は、ボランティア施設でも地域集会所でもない。商品とサービスを提供し、その対価として料金を徴収する立派な営利団体である。すると、当然、店の主体は「客」になるはずだ。すなわち、喫茶店とは「客がコーヒーを飲みに来る場所」である。だが、本作は店員である主人公達と店に客として訪れた人物との間で特別な交流が発生することは一切ない。第一話の来店客は一人だけ、その後も時折思い出したように現れるだけで、基本的にはただの背景と同じ扱いである。それ以外の時間は、店員同士の遊びや雑談が延々と描かれる。実店舗を舞台にした他のアニメ、例えば『ARIA The ANIMATION』や『ココロ図書館』や『はたらく魔王さま!』や『WORKING!!』や『勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。』だと、必ず客が主体のエピソードが存在し、彼らとのコミュニケーションが物語の発生を手助けする。なぜなら、客が幸福になることが店の売り上げに繋がり、それが店員の満足を生むからだ。そんな客商売における当たり前の哲学が本作では全く考慮されていない。
 客ではなく、店員が主体。サービスは二の次。売り上げはどうでもいい。店員が楽しければそれでいい。このシチュエーションを聞いて、何かを思い出さないだろうか? そう、それこそ「文化祭の模擬店」である。本作の喫茶店は、学生が余興でやっているそれと完全に同レベルである。実際、本作の舞台を街の喫茶店ではなく、深夜アニメにありがちな謎の高校の部活に変換しても何の問題もない。毎日、狭い部室で利きコーヒーを研究したり、ラテアートを練習したり、パンを焼いたりして喫茶店ごっこを思う存分楽しめばいい。それなら誰にも迷惑をかけないし、より楽しい日常を描くことができるだろう。
 もっとも、第十一話ではクリスマスで店に大勢押し寄せた客が、次々とパンケーキやラテアートを絶賛するというふざけた展開になる。例の如く、主人公達は大して努力もしていないのに、第三者が勝手に褒めてくれるイージーな世界だ。また、最終回では主人公が「喫茶店のやりがいはお客さんの笑顔」と心にもないことを平然と口にする。今までそのようなエピソードが一つでもあったか? 毎日、真面目に商売をやっている人が不快になるような作品作りはそろそろ止めにして頂きたい物だ。

・物語


 こんな作品であるが、一応、メインストーリーらしき物は存在する。それが喫茶店の跡取り娘である中学生の少女の成長物語である。彼女は内気で自分の気持ちを素直に打ち明けられない人見知りな性格がコンプレックスだった。だが、ある日、陽気で屈託のないキャラクターの主人公が喫茶店に住み込んだことで、彼女の人生に転機が訪れる。勝手に姉を自称する押しの強い主人公を最初は嫌がっていたが、徐々に打ち解けて心を開いて行く。そして、彼女自身も前を向いて歩き始めるのだった、といった感じの爽やかな感動物語だ。ただし、こうやって結論だけを並べてみると確かにそう見えるが、実際の映像は正直かなり厳しい。なぜなら、その結論に辿り着くまでの過程がほとんどないからである。
 設定上では大人しい性格の彼女だが、主人公が街に来た時にはすでに喫茶店の店員としてバリバリと働いていた。学校にも仲の良い友人が二人いる。学内での彼女の様子はよく分からない。大好きだった祖父と母親を早くに亡くし、兄弟もいない一人っ子の彼女は寂しそうであるが、それを明確に描写したシーンはない。一方、勝手に姉を自称する主人公も、兄弟という物にどういう信念を抱いているのかいまいち判断できない。そもそも、この街に引っ越す前の生活が全く描かれないため、何を持って良い悪いと言っているのか分からない。このような感じで、言わんとしていることは十分理解できるが、それを物語に落とし込むための要素がいろいろと足りないのである。本当に成長物語をやりたいなら、開始時にもっとマイナス面を強調しなければ話にならない。アニメ『のんのんびより』で小学一年生の宮内れんげの物悲しさをはっきりと描いていたのとは対称的だ。
 本作は一事が万事その調子である。あらかじめ複雑な物語が発生しそうな個所全てをかなり意図的に潰している。例えば、劇中に商売敵となる同業種の喫茶店が複数登場するが、ラビットハウスがそれらの店と売り上げを競い合うというようなことは一切ない。それどころか、最初から「昔はライバル同士だったけど、今はそうじゃない」と釘を刺される。ライバルとの競争は物語を面白くする一番のファクターであるはずだが、ゆるさ至上主義の本作ではそういった蛮行は許されないのだ。また、祖父と古い親交のあった小説家が登場しても、彼女はこれと言ってメインストーリーに絡むことなく退場し、しゃべるうさぎの謎も最後まで分からない。つまり、本作は「何も起こらない」作品ではなく「何も起こさない!」という強い意志を持った作品なのである。確かに、余計なストーリーを入れて穏やかな雰囲気が崩れるよりはましなのだろうが、何も自ら名作となる糸口を絶つ必要はあるのだろうか。ちょっと理解できない。

・違和感


 以上、主だった批判ポイントを連ねてきたが、これらを抜きにしても、本作は全般的に作りが甘い作品である。上記の通り、ストーリーの組み立てが弱いため、最初から最後まで話が盛り上がらない。劇中のギャグはびっくりするぐらい笑えないし、ラストのオチが積み上げてきた物を全部覆してしまうことも多々ある。登場人物はどこかで見たテンプレキャラのオンパレードで新鮮味がない。穏やかな作風に反して、水着や下着のシーンが過剰。ミリタリーオタクのキャラクターが完全に浮いている。美術と音楽こそは中世ヨーロッパ風の雰囲気を出そうと頑張っているが、そもそも、ここがどこかも分からない。特別な舞台を用意するための設定的背景が何もないため、張りぼて感が満載である。と、ここまで書いて来て一つの大きな壁に突き当たる。なぜなら、これらはあくまで本作を普通のストーリーアニメとして見た場合の批判であり、日常系アニメという特殊なジャンルの一作として見た場合、どこまでその批判を当てはめていいのかという疑問に辿り着くからだ。実際、本作は日常系アニメの中では名作の一つとして数えられている。一方から決め付けるのはフェアじゃない。
 では、日常系アニメとして見た場合、本作はどういった評価になるだろうか。例えば、「何も起こらない」作品の代表である『ゆるゆり』や『ゆゆ式』と比べてみると、馬鹿の一つ覚えのように高校の部活を舞台にするのではなく、ちゃんと特殊な世界観を作り込んでいる点に好感を覚える。接客を伴った実店舗を舞台にしているため、狭い空間に引き篭もらず雰囲気がオープンである。百合やお色気シーンも多くてサービス精神に溢れている。そして、何より中学生の成長物語という明確なストーリーがあって感動できる。と、このように全く正反対の評価になるのである。この不思議な現象をどう説明付けたらいいのだろうか。そのためには、日常系アニメと普通のアニメの違いを改めて定義付けしなければならないのではないだろうか。
 日常系アニメとは何ぞや。日常系アニメと普通のアニメはロックとクラシックぐらい解離しているのか。残念ながら、その問いに答えるのは非常に困難である。確かに、本ブログではこれまで幾つもの日常系アニメを論じてきた。中には『苺ましまろ』や『スケッチブック ~full color's~』のように高評価の作品もあれば、『けいおん!』や『あっちこっち』のように低評価の作品もある。ただし、それらは作品に付加された+αを評価しているのであって、日常系アニメ自体を評価しているわけではない。よって、両者を明確に区分することは現時点では不可能である。ただ一つ言えるのは、本作が非常に大きな「違和感」を覚える作品であって、その理由は日常系アニメと普通のアニメ、どっち付かずの中途半端さにあるということだ。そして、そうなっている原因は、間違いなく本作の中身の薄さにある。全体的に作り込みが浅く、作り手の楽しさが優先され、「~げ」「~ぽさ」といった表層の感覚で全てを済ましてしまう。ロックミュージシャンがクラシックっぽい音楽を作って絶賛される感覚。それこそまさに……いや、皆までは言うまい。

・総論


 日常系アニメを評論することに限界を覚える一作。真面目に作ればもっと良い作品になっていたはずだが、それが許されない風潮は本当につまらない。その事実が確認できただけでも本作には意味がある。

星:☆☆(2個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 10:23 |  ☆☆ |   |   |  page top ↑
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