『冴えない彼女の育てかた』

萌えとオタクとクリエイター。

公式サイト
冴えない彼女の育てかた - Wikipedia
冴えない彼女の育てかたとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2015年。丸戸史明著のライトノベル『冴えない彼女の育てかた』のテレビアニメ化作品。全十三話。監督は亀井幹太。アニメーション制作はA-1 Pictures。理想のヒロインを追い求めてギャルゲー制作に明け暮れる男子高校生を描いたハーレムラブコメ。「彼女」と書いて「ヒロイン」と読む。諸般の事情により、放送順を変えて話全体のエピローグを第0話として最初に放送している。よって、本項で第一話と書いている回は、放送では第二回に相当するので注意。

・設定


 ある春の日、オタクの男子高校生である主人公は、桜の舞う坂道で一人の見知らぬ少女と出会う。彼女はまさに理想的なギャルゲーのヒロインを具現化したような存在で、主人公は一目で心を奪われた。かつてないほどの創作意欲を掻き立てられた主人公は、早速、同人絵師の幼馴染みとライトノベル作家の先輩を強引に誘い、彼女をモデルにした自分の理想のギャルゲー作りを開始する。その日の放課後、情熱をたぎらせる主人公にクラスメイトの女子生徒が話しかける。容姿こそ整っているが、非常に地味で存在感が薄くて冴えない女の子、彼女こそが春の日に坂道で出会ったメインヒロインだったのだ。
 何だこれ。目茶苦茶面白いぞ。要するに、これは「萌えとは何か?」という深夜アニメが共通に抱えている問題を改めて世に問うた作品なのである。通常、萌えとは「男性が可愛いと感じる女性の性格や言動や仕草などの一部分だけを取り出して記号化した物」を言う。不純物を排して良い部分だけを濃縮しているため、高級な宝石のように万人を魅了する強い力を持っている。少なくとも、オタクの主人公はそう考えており、二次元はあらゆる面において三次元に勝るという信念を抱いていた。だからこそ、リアル世界で見知らぬ女性に萌えを感じた時、まるで二次元が扉を開けたかのような激しい衝撃を覚え、その感情を再現するためのゲーム作りを決意したわけである。ところが、何と彼女はクラスメイトの冴えない女の子だった。それは不純物を徹底的に取り除く萌えの定義からすると、あってはならないことだ。そこで、主人公は自らのアイデンティティーの危機に直面する。二次元至上主義は本当に正しいことなのかどうか、自分の感情を信じていいのかどうか。そんな彼がどうやって理想と現実に折り合いを付けてアイデンティティーを再構築するのかという話である。どう考えても、これがつまらないはずがない。
 この先、本作はどういった展開になるのだろうか。タイトル通り、冴えない彼女を育てて二次元側に引っ張り込むのか、それとも主人公自身が心を改めて二次元と三次元の両方の良さを認めるのか、はたまた全てを放り出して二次元に逃避するのか。まだ第一話が終わったところなのにいろいろと想像が膨らむ。良い作品とはそういう物だ。『はたらく魔王さま!』や『あさっての方向。』の項目でも書いたが、本当に優れた作品は初期設定の段階でそこら辺の量産型アニメとは格が違うのである。本作はそういった感覚が味わえる数少ない作品である。

・萌え


 それでは、続きを見て行こう。冴えない彼女を自分達の作るギャルゲーのメインヒロインに指名した主人公は、何とか彼女が理想のギャルゲーヒロインらしく振る舞えるように全力でオタク教育を施す。しかし、どこまでも地味で無個性でマイペースな彼女は、一向に彼の望むような行動を取ってくれない。主人公一押しのオタクコンテンツに対しても食い付きが悪く、肯定もしなければ否定もしない。それでいて付き合いは良く、ほいほいと男の家に上がり込むヒロインを見て、逆に主人公の方が萎えるという展開は面白い。もちろん、女性が自分の家へ遊びに来るのは嬉しいことなのだが、ギャルゲーのメインヒロインなら、そこは恥ずかしがって辞退してくれなければ困るのだ。そんな理想と現実の狭間で苦悩する主人公の姿は、理不尽な社会の中で自分探しをする思春期の少年と重なって見える。そのため、やっていることはおかしいが、汗と涙の青春ドラマとして本作は十分に成立している。
 一方、ゲーム作りを手伝うことになった幼馴染みと先輩は、絵に描いたようなツンデレキャラと妖艶キャラで、無個性なメインヒロインと対になっている。彼女達は記号的な萌えを武器にして、主人公に、いや、視聴者に媚びまくる。お色気要素も満載で、ほとんど風俗嬢である。確かに、これでもかと言わんばかりにキャラの立った彼女達は可愛い。だが、劇中でも指摘されている通り、現実には絶対にあり得ない存在だ。そんな全身を虚飾で固めたステレオタイプなサブヒロインより、萌えとは無縁でオンリーワンの冴えない彼女の方が余程可愛らしい。もちろん、最終的には好みの問題になるが、それでも彼女を悪く言う人はいないだろう。オタク=自分達に否定的な人間であるにも関わらずだ。
 さて、ここで一つの大きな疑問点に直面する。設定的に考えて、万人に好かれるメインヒロインになれない彼女は、他のキャラクターより可愛かったらダメなはずだ。個性的なサブヒロインが量産型で、無個性なメインヒロインがオンリーワン? おかしくないだろうか? そう、賢明な方はお気付きだと思うが、この「矛盾」こそが本作の訴えたいメインテーマなのである。萌えとは女性の良い部分だけを取り出して濃縮した物。しかし、所詮はただの記号、生身の人間には到底敵わないということだ。良い面と悪い面を同時に持ち合わせ、ちょっとやそっとでは理解できない奥深さこそが真の女性の可愛らしさ、その忘れられかけた事実を無個性で個性的な冴えない彼女が教えてくれる。

・オタク


 ところが、そんな崇高なテーマを掲げた本作も、第六話近辺を境に急激にパワーダウンする。当たり前だ。なぜなら、本作は全十三話の1クールアニメ。尺の都合上、メインヒロイン以外の女性にもスポットライトを当てなければ間が持たない。だが、他のサブヒロインは、上に書いたように典型的なギャルゲーヒロインなのである。彼女達を中心にしてしまうと、本作はどこにでもあるような普通のハーレムアニメと化してしまう。普通のハーレムアニメとは、複数の女性が明らかに主人公に対して好意を向けているのに、当の本人がなぜかそれに気付かないといういつものアレ。あまりにも不自然かつご都合主義で、特定の選ばれた人間しか楽しめない。
 物語の終盤、また新たなヒロインが登場する。彼女は主人公の従妹で、彼女もまた分かり易く主人公に対して好意を抱いており、彼を性的に誘惑する。幼馴染みと先輩の時点ですでにお腹いっぱいなのに、これ以上増やす必要がどこにあるのか。一応、物語的には重要な役どころで、彼女は作詞作曲をこなす有能なバンドマン。彼女の才能に惚れ込んだ主人公が、ゲームの音楽担当として仲間に誘い入れようとするも、彼女は完全に非オタクの人間だった。さて、主人公は彼女を説得してサークルに引き込むことができるだろうか、がストーリーのクライマックスである。非オタクのキャラクターとして出しているのに記号的なギャルゲーヒロインという設定的矛盾もさることながら、肝心のメインヒロインがチアガール的にしか話に絡まないのも痛い。ゲーム作りに対する真剣さの認識が、なぜ主人公側と従妹側でズレているのかも明確な解答がない。そして、ラストは主人公が熱い説教を解き放って無理やり納得させるといういつもの展開で締めくくる。
 このように、非常に特殊な設定で始まった本作だが、終わってみればどこにでもあるような普通の深夜アニメに成り果てる。結局は、エゴイスティックなオタクがさらに自己を肥大化させて現実を飲み込んだというだけのお話だ。しかも、後半に入ると加速度的に性的な描写が増え、女性はただ男性の欲望を満たすだけの置き物と化す。第一話・第二話で見られたようなリアルな女性を目の前にしたむず痒い感覚などどこにもない。そういう意味では非常に残念な作品だと言える。もう少し新たな男女の形を見せてくれると期待していたのだが……ただの独り相撲だったようだ。

・クリエイター


 主人公は典型的なオタクである。ただし、それはあくまでハーレムアニメにおける記号的なオタク像であり、サブヒロイン同様、現実にはあり得ない。高校生でありながら、グッズを購入するためにバイトを掛け持ちして自分で金を稼ぎ、ブログを運営しては多くのアクセス数を稼いで社会に大きな影響力を持つ。類まれなリーダーシップを有し、営業力や交渉術にも長けていると極めてハイスペックな人間である。少年漫画の主人公でも、ここまで完全無欠なヒーローはいないだろう。そんな彼が欲して止まない物、それが「クリエイター」になることだ。他人が作った物をただ享受するだけでは満足できず、自分が提供する側に回りたい。そうすることで初めてオタクとしてのプライドを充足できる。言い換えると、彼は「自分で物を作らない人間はオタクではない」と主張したいのである。実際、そういう人達はただ与えられたコンテンツを家畜のように消費するだけの「消費豚」であると劇中のキャラクターに言わせている。つまり、自分達の味方になってくれるはずの視聴者に対して、かなり挑戦的な態度を取っているのが、この『冴えない彼女の育てかた』という作品である。
 本作はジャンルの性質上、基本的にはオタクとオタク文化を肯定している。だが、上記のように否定している側面も持っている。そういう意味では非常にバランスがいい。ただ、最終的にはどちら側に傾くかを決定しなければならない。そして、それは主人公達の作るゲームの出来如何にかかっている。つまり、ゲームが面白ければオタク肯定、つまらなければオタク否定だ。では、実際はどうだろうか? 本作内では完成までに至らなかったが、現時点で上がっている情報を見る限り、残念ながらどう考えても「つまらない」。もちろん、原画はコミケ常連の同人絵師、シナリオは現役の人気ライトノベル作家、音楽は才能に溢れたバンドマンとスタッフは揃っているので、それなりの物は出来上がるだろう。しかし、結局はオタク文化だけを見て育った少年が、それらを参考にして自分の理想を実現しようとした物に過ぎない。それでは、どんなに努力しようと既存の作品の劣化コピーが関の山だ。クリエイターを名乗るからには、多くの経験を積んで幅広い知見を持ち、その上で誰も見たことのない新しい物を作り出さなければならないだろう。高校生の純粋な夢を壊すつもりはないが、正直、今の彼には全く期待できない。そもそも、本作自体がアニメ『N・H・Kにようこそ!』の焼き直しに過ぎないのだから。

・総論


 第六話までは間違いなく神アニメ。後はありがちなハーレムアニメなのでどうでもいい。繰り返すが、第六話までは間違いなく(略)。

星:☆☆☆☆☆(5個)
関連記事
スポンサーサイト
テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 10:03 |  ☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
twitter
検索フォーム
最新記事

全記事一覧
評価別一覧
年代別一覧
掲示板
カテゴリ
リンク
カウンター
RSSリンクの表示



にほんブログ村
PR1
PR2