『僕だけがいない街』

推理ゲーム。

公式サイト
僕だけがいない街 - Wikipedia
僕だけがいない街とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2016年。三部けい著の漫画『僕だけがいない街』のテレビアニメ化作品。全十二話。監督は伊藤智彦。アニメーション制作はA-1 Pictures。同じ時間を繰り返す「リバイバル」能力を使って過去の誘拐事件を解決しようと奮闘する主人公を描いた悲劇回避型のSFミステリー。CVに職業声優ではない俳優を起用しているが、聞くに堪えないレベルで下手である。

・タイムパラドックス


 SFの世界において長年繰り返されている議題の一つが、タイムパラドックスについてである。すなわち、タイムマシンで過去に行って、そこで何らかの歴史に係るような影響を与えた時、現代は一体どうなってしまうのかである。個人的には大きく三つに分けられると考える。一つ目は、過去を変えると現在まで全て変わってしまうという物。最も一般的な考え方で、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』がその代表作として挙げられる。この場合、作品の作り手は「親殺しのタイムパラドックス」などの多くの論理的矛盾と戦わなければならない。二つ目は、過去を変えても何らかの大きな力が働いて結局は同じ現在に辿り着いてしまうという物。映画『ターミネーター』がその代表で、絶望的な未来を救うために現在を改変しようと試みるが、紆余曲折を経て最終的には同じ絶望的な未来に繋がってしまう。つまり、「歴史を変えようとしたこと」それ自体が歴史の一部という考え方だ。この場合、「大きな力」の定義付けが一番困難な作業になるかもしれない。三つ目は、過去に行って歴史を変えた瞬間、パラレルワールドが発生するという物。漫画『ドラゴンボール』のトランクスが一番分かり易いだろう。歴史を変えるために過去へ行ったはいいが、結局、元の未来と新しい未来の二つの時間軸が生まれただけだった。この場合、タイムパラドックスを考慮しなくていいというメリットがあるが、時空の並列化という別のデメリットが生じてしまうため、一長一短である。
 さて、本作もそんなタイムトラベル物の一種であるが、そのスタンスは一つ目と二つ目の複合となっている。つまり、「基本的に歴史は変わらない。もし、大いなる力に逆らって歴史を変えようと思えば、多大な努力が必要になる」という物である。本作の主人公は、残酷な現実を変えるために自ら過去へ向かう。しかし、歴史はそう易々と変わらない。自分の思い通りの未来へ導くためには、複雑に絡まり合った糸をパズルのように一つずつ論理的に解いて行かなければならない。その一連の作業は極めてゲーム的である。ゲーム的というのは、要するにAというスイッチを押せば、Bというゲートが開いて、Cという乗り物が動き出すというように行動と結果が必ず結び付いていることだ。言い換えると、世界を単純化することで、能動的に歴史の改変に係れるようにしたのである。なるほど、本作が人気作品になった理由がよく分かる。

・リバイバル


 本作は殺人事件の犯人を推理するミステリーであるが、非常にSF色が強く、設定がそのままストーリーと直結しているため、簡潔に作品紹介を行うのはなかなか難しい。それゆえ、かなり回りくどい書き方になってしまうが容赦されたし。
 主人公は二十九歳の男性。北海道出身で、今は都内で一人暮らし。ヒーローになりたいという子供の頃からの夢を叶えるため、漫画家になったはいいが、自分の心と向き合うのが怖いという理由により傑作を生み出せず、今はピザ屋のバイトで生計を立てている。そんな彼はなぜか他にない一つの特殊能力を持っていた。それは人の生死に係るような大事件に遭遇すると、その記憶を持ったまま事件の発生地点まで時間が巻き戻るという物。かれはその力を「リバイバル」と呼んでいた。ある日、上京した主人公の母親が誘拐事件を目撃したことで犯人に殺されてしまう。発動するリバイバル能力。すると、主人公が辿り着いたのは十七年前の雪深い北海道だった。どうやら主人公の小学生時代と今回の事件が密接に関係しているらしい。そこで、主人公は事件の謎を解いて母親を助けるために、もう一度人生をやり直すのだった。
 何とも掴みどころのない不思議な能力である。まず、なぜ主人公だけがその能力を保持しているのかの説明が何もない。いつ頃に発現したのかも分からない。世界全体を作り直すほどの力なのだから、個人が後天的に手に入れるにはあまりにも強過ぎる。文字通り、神の如き能力であり、その時点で主人公は普通の人間ではない。確かに、ストーリー的には深く描写する必要のないことだが、「そういう物だから」と納得するしかないのはストレスが溜まる。また、リバイバル先で過去の改変に失敗すると、なぜか主人公は一度現在に戻される。その後、なぜか自分の意志で再びリバイバルを発生させる。その時、彼は何の根拠もなく「これが最後のリバイバルだ」と呟く。と、どう頑張っても論理的に説明しようのない都合の良さを発動させる。我々の大事な歴史をそう粗雑に扱ってもらっては堪らない。
 タイムパラドックス的に言うなら、リバイバルで助けられる人命は極めて主人公に近しい人物だけなのに、歴史自体を改変しても良いのかという問題が挙げられる。先に結論を書くと、リバイバルによって確かに主人公の母親は救われた。だが、その結果、歴史に様々な影響が発生している。もしかすると、生まれるはずの命が生まれなかったかもしれない。そうなると彼は間接的な「殺人」を犯したことになる。それは良いことなのか。いや、良いわけがない。どうやら、彼は神の申し子か、それとも聖人の生まれ変わりか、もしくは悪魔と取引したのだろう。それがSF的な解釈の仕方という奴である。

・欠点


 本作の最大の欠点、それはキャラクター造形が非常に「リアル」なことである。通常、この言い回しは褒め言葉として使われる。本ブログにおいても、キャラクターの言動に現実感が足りないと偉そうに批判することが多い。しかし、本作に限っては、そのリアルさが明らかにシナリオの足を引っ張るという逆転現象が発生している。
 何が問題かと言うと、神の如き能力を保持しているくせに、主人公が極めて「一般人」なのである。いや、同年代の人間と比べると、やや劣っていると言わざるを得ない。独身フリーターの売れない漫画家、いつまでも小さい頃の夢を追いかけているが、自分の心の闇を直視できないせいで、ろくな漫画が描けない。そのため、社会的にも精神的にも未熟で子供っぽい。彼の母親が非常に優秀な人間なので尚更そう見える。もちろん、それ自体は特に悪いことではない。別の作品ならリアルな心理描写だと絶賛されるだろう。しかし、本作の場合、主人公の言動が子供っぽいと、リバイバルして小学校時代へ戻った時に精神と肉体のギャップがほとんどないという致命的な欠陥が発生するのである。彼が誘拐事件を妨害するために取った行動は「孤立している子供と友達になって、誘拐を未然に防ぐ」だった。それが二十九歳の大人が選ぶ解決方法だろうか? そんな物は「経験豊富な大人」がやることではなく、「頭の良い子供」がやることだ。一時的に誘拐を阻止したところで、誘拐犯自体はその土地に残るのだから意味がないことぐらい分かる。もっと根本的な所にメスを入れないと事件は止まらないことも分かる。ちゃんとした大人なら、社会権力をフル活用して効率的に犯人を追い詰めるのではないだろうか。
 なぜ、このようなことになったのかと考えると、制作者が余計な色気を出してしまったせいだろう。何にかと言うと、「主人公の心の成長を描くこと」と「子供同士の友情を描くこと」に対してだ。この二つを本編と同時にやろうとして、一箇所に詰め込み過ぎた結果、ちぐはぐになってしまっている。分かり易く言うと、主人公が馬鹿過ぎてミステリーとしてはひどくつまらないのだ。ここはある程度のリアルさを犠牲にしてでも、もう少し主人公を賢くして、ヒーロー的な活躍をさせるべきではなかったか。それがエンターテインメントのあるべき形だろう。子供の物語を描くなら、わざわざタイムトラベル物にする必要は何もないのだから。

・解決


 第十話。ついに犯人が明らかになる。さすがに、ネタバレになるので詳細は明かさないが、劇中で最も怪しい人間が順当に犯人である。勘の良い人なら第二話か第三話辺りで気が付くはずだ。しかし、普通の一般人である主人公は、その正体に薄々と気付きながらも、当たり前のように犯人の返り討ちに遭う。計略にハマり、車ごと川に沈められる主人公。辛くも一命を取り留めたが、彼は意識不明の重体になり、再び目を覚ましたのは十五年後のことだった。何とも意表を突く展開だが、「子供の体に大人の心」という状態から「大人の体に子供の心」という状態へ逆転したと考えれば興味深い。ただ、アニメ版だとすぐに昔の記憶を取り戻してしまうが……。そして、覚醒したという話を聞きつけて見舞いへ訪れた犯人に、主人公がかつての仲間達と力を合わせて立ち向かうという流れになるのだが、正直、その方法が酷い。主人公が選んだのは、自ら屋上から飛び降りて犯人の目を覚ますというアクロバティックな物だった。もちろん、地面には仲間達が救助マットを敷いているのだが、そんな不確実で危険極まりない方法が本当に上手く行くのだろうか? 結局、犯人は別件の殺人未遂罪で逮捕されるのだが、殺人未遂程度なら実刑になるかは分からないため、このまま野放しになる可能性もある。かつての誘拐事件はすでに時効。これはちょっとお粗末な結末ではないだろうか。時代を超えた難事件の犯人を追い詰める方法としては力不足に思えるし、本作が最も訴えたい仲間との協力関係も弱い。ちなみに、この展開もアニメオリジナルである。
 もっとも、本作はミステリーの中でも、どちらかと言うとサイコサスペンス寄りなので、こういう結末でも許されるのかもしれない。トリックの奇抜さや予想を覆す深い謎よりも、登場人物の心理面の方に重点が置かれているからだ。犯人の目的、それは主人公と同じく自分自身の心の闇と向き合い、足りない何かを埋めることだった。そんな彼は、親子のような、魂の双子のような同質の心の持ち主である主人公と出会ったことで救われる。描写こそないが、きっと取り調べ中に全ての罪を自白したのだろう。一方、主人公も事件を通じて成長し、心理描写に定評のある売れっ子漫画家になる。こうやって並べて見るとよくできた成長物語に思えるが……やはり、どうしても全てにおいて優遇された主人公補正、もしくは主人公贔屓が気になる作品である。

・総論


 非常に優秀な推理ゲームをあまり優秀ではない人間が実況プレイして、その様子を画面越しに見ているかのような感覚。それを「リアリティがある」と判断するかどうかが評価の分かれ目になるのではないだろうか。

星:☆☆☆☆☆☆(6個)
関連記事
スポンサーサイト
テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 12:18 |  ☆☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
twitter
検索フォーム
最新記事

全記事一覧
評価別一覧
年代別一覧
掲示板
カテゴリ
リンク
カウンター
RSSリンクの表示



にほんブログ村
PR1
PR2