『かなめも』

第三話。

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かなめも - Wikipedia
かなめもとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2009年。石見翔子著の四コマ漫画『かなめも』のテレビアニメ化作品。全十三話。監督は高柳滋仁。アニメーション制作はfeel.。祖母を亡くし天涯孤独になった主人公が、新聞販売店で住み込みアルバイトを続けながら、楽しい毎日を過ごして行く日常系コメディー。『らき☆すた』や『けいおん!』が切り開いた四コマ漫画原作アニメブームに乗ろうとして乗り切れなかったマイナー作品である。

・ひらがな四文字


 典型的なひらがな四文字の日常系萌えアニメである。登場人物は全員女性。これと言うストーリーもなく、テンプレ通りの萌えキャラがダラダラとゆるい日常を過ごすだけの物語。萌え四コマ漫画雑誌を斜め読みすれば、似たような漫画がゴロゴロと転がっているだろう。ただ、その一方で、本作には他の日常系アニメではなかなか見られないような独自要素も幾つか散見できる。
 まず、目に付くのが主人公設定である。本作の主人公は、純真で真面目だが少し天然ボケなところが玉に瑕という典型的なメインヒロイン系の女子中学生。しかし、ある日、たった一人の身内である祖母に先立たれたことで、天涯孤独の身の上になってしまう。路頭に迷った彼女が辿り着いたのは新聞販売店。そこで個性的な従業員と一緒に住み込みで働きながら、楽しい日常を過ごして行く……という昨今の萌えアニメにしては稀なハード設定になっている。祖母と死別して心に傷を負った主人公が、従業員達との心の交流を通じて徐々に笑顔を取り戻していくという一本の軸がピンと通ったメインストーリーは、最初に複雑な設定を詰め込んでおいて後は放置という低質な萌えアニメが昨今乱立している中で、非常に貴重である。『おしん』を例に出すまでもなく、不幸な境遇でも健気に頑張る少女というキャラ立ちの仕方は、実に日本人好み。第一話で布団代わりの古新聞をもらって喜ぶ主人公の姿は、面白くも哀しい名シーンである。

・百合


 もう一つの特徴として、学園ではなく新聞販売店という「職場」がメインの舞台であるため、登場人物の平均年齢が比較的高いことが挙げられる。主人公とライバルと所長代理の三人を除いて、全員が二十歳前後である。萌えのシンボルである女子高生が一人もいないというのは作品の性質上珍しい。ただし、小学生の所長代理やツンデレお嬢様ライバルといったアニメらしいキャラはいるものの、全体的に人物の個性が弱く、物語構成に必要不可欠なトラブルメーカーやツッコミ専門キャラもいないため、脚本のキレは悪い。この手の作品だと、所員が全員、所構わずボケまくって、それを所長代理が一括して諌めるという形式にしないとコメディーとしては厳しいだろう。
 そして、本作最大の問題点が百合要素である。従業員の中の一人は主人公に対して異常な愛情を示し、中の二人は実際に付き合っている。百合というより完全にレズである。それがギャグとして成立している訳でもなく、かと言って性的なセールスポイントになっている訳でもなく、百合に興味がない人間には敬遠され、興味がある人間にもスルーされるという誰も得しない酷い状態になっている。良かれと思って入れたポイントが、明らかに作品の質を低下させるとは皮肉な物だ。
 このように、良い点と悪い点をそれぞれ兼ね備えてはいるものの、どちらかと言うと悪い点ばかりが目立つ凡庸な萌えアニメである。十年後には誰も覚えていないであろう作品で、批評する価値もない。ただ、そんなアニメでも一つ、キラリと光る点を備えているのが面白い。それが第三話『はじめての、スマイル』である。

・第三話


 新聞販売店で住み込みアルバイトを続ける主人公は、ある日、所長代理に販売拡張(勧誘)の仕事を与えられる。しかし、祖母の死のトラウマが残る彼女は、上手く拡張スマイル(営業スマイル)を作ることができない。そこで、他新聞販売店のライバルキャラと一緒に拡張活動をしながら、笑顔の練習をすることにした。やがて、日が暮れ、販売店に帰宅した主人公は従業員達に特訓の成果を披露する。だが、彼女の見せた間抜けな拡張スマイルによって、食卓は笑いに包まれる。そんな彼女達の楽しそうな団欒を見て、主人公は心からにっこりと微笑む。
 初期設定を上手く生かした心温まるストーリーであるが、それ以上に注目すべきなのは、この回の演出はアニメーションでしか表現できないということだ。主人公の見せた拡張スマイルは、実に漫画チックであり、いわゆる記号的なデフォルメである。しかし、これは絶対に記号的でなければならないのだ。営業スマイルというマイナスの要素を成長の小道具として使いつつ、後に続く心からの本物の笑顔と対比させる、この難題をクリアする唯一の方法が笑顔を記号化させることである。これは実写では絶対に表現できない。動きの少ない漫画でも無理であろう。それゆえ、アニメーションだけができる特別な演出方法を取り入れた回として、この第三話は非常に高い価値がある。2009年のベストエピソードと断言しても良いぐらいだ。

・総論


 主人公に重い設定を背負わせているが、それを十分に生かしたとは言い難いストーリーと無駄な百合要素。上には書かなかったが、第四話・第五話は放送禁止レベルである。それでも、珠玉の第三話によって、何とか評価に値する作品に仕上がっているという非常に面白い作品である。

星:☆☆☆(3個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 22:11 |  ☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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