『オーバーロード』

むなしさ。

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オーバーロード (小説) - Wikipedia
オーバーロード(小説)とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2015年。丸山くがね著のライトノベル『オーバーロード』のテレビアニメ化作品。監督は伊藤尚往。アニメーション制作はマッドハウス。ネトゲのサービス終了と同時に異世界に飛ばされた主人公が、仲間を探して戦うダークファンタジー。ヒロイックファンタジーでありながら、主人公が骸骨のアンデットという非常に珍しい作品。いわゆる「なろう系小説」の一つである。

・俺TUEEEE系異世界転生物


 本ブログが初めて取り上げる「俺TUEEEE系異世界転生物」である。それは何か? 身も蓋もない言い方をすれば、現実世界でうだつの上がらない人生を送っている人間の「異世界ならば一発逆転できるかもしれない」という希望的観測に満ちた妄想を形にした物である。子供向け漫画の『ドラえもん』で、ダメ人間ののび太が文化の異なる星や時代に行って大活躍する話が幾つかあるが、それと似たようなメンタリティである。現実世界でダメな人間は、どこに行ってもダメに決まっているのだが、それは言ってはいけないお約束。異世界に行った途端、これまでの惨めな人生が全てなかったことになり、人が変わったようにヒーロー的活躍をするのがセオリーだ。
 俺TUEEEE系異世界転生物の最大の問題点は何かと言うと、それは「主人公を上げるために転生先の異世界を無理やり下げる」ことである。詳しくは、当該作品のレビューに書くことになるだろうが、異世界の文明レベルを極度に落としたり、異世界人をやたらと虚弱にしたりして、あくまで「普通の人間」である主人公でも難なく活躍できるように工夫している。『ドラえもん』でも、重力の低い星に行ったのび太が筋力の弱い異星人を叩きのめしてスーパーマンになる話があるが、これの何が悪いかと言うと、一歩間違えると相手を見下すことで自己承認欲求を満たす「レイシズム」に繋がる危険性があるからだ。スーパーマンになりたければ体を鍛えたらいい。その努力を怠り、弱き者をいたぶることで力を誇示しようというのなら、それはただの卑怯者の所業である。
 さて、本作がそんな他の異世界物と異なるのは、異世界と現実世界の間にクッションとして大規模オンラインRPG(以下、ネトゲ)を挟んでいることである。主人公は一度、ネトゲのキャラクターに転生し、そこからさらに異世界に転生するという複雑な形態を取っている。それもただのネトゲではなく、サービスが開始して十二年が経過し、課金アイテムも充実して、おそらくバトルバランスが崩壊しているであろう末期のネトゲだ。そんなゲームの廃プレイヤーなら、異世界の一般人を凌駕できるほど強くて当たり前だろう。そこへ至るまでにとんでもない量の時間と金を費やしているのだから。言い換えると、本作は「正統派ファンタジーにネトゲの論理を持ち込んだらどうなるか」を実験した作品なのである。こう考えれば、なかなか面白い試みだと言えよう。

・設定


 仮想空間で現実と同じ体験ができる「DMMO-RPG」の一つ「ユグドラシル」、かつては広大なマップと自由度の高さで人気を集めていたが、時代の移り変わりと共に凋落し、運営開始十二年にして最後の時を迎えようとしていた。主人公は社会人専用ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のリーダーを務めるベテランプレイヤー。誰もいないギルドでただ一人、サービス終了の瞬間を待っていた彼は、ふと周囲で不思議な現象が起こっていることに気付く。ゲームのコンソールが消え失せ、NPCがまるで生きた人間のように動き、自分の意志で魔法も使える。どうやら、ギルドごと異世界に転移してしまったらしい。その世界がどうなっているのかを確かめるため、主人公はギルドのNPCと共に戦いを始める。
 やりたいことは分かるのだが、いまいち現場で何を起こっているのか分かりづらい。その最たる理由は、本作の舞台の一つであるDMMO-RPGの説明が決定的に不足しているからであろう。公式サイトにすら解説がないのだが、どうやら現代で言うところのVRをさらに発展させた意識と機械を直接繋ぐタイプのゲームのようだ。その証拠に、異世界へ転生したことに本人自身が実感を持てていない。つまり、現実とゲームと異世界が完全に同等だということである。だが、キャラクターが確信を得られていないのに、それを遠くから眺めている視聴者が十分に理解できるはずがない。ならば、DMMO-RPGがどのような物であるかを事前にしっかりと説明するべきではないだろうか。
 状況が分かり難いもう一つの理由は、異世界に転生した主人公が全く現実世界へ帰ろうとしないことである。どのような人間でも、まずは自分の身の安全を図るために、ゲームからログアウトすることを試みるだろう。状況を確認するのはその後だ。ところが、主人公はなぜか異世界の方に心を奪われており、一向に現実世界を振り返らない。何らかの理由でログアウトできないというわけでもなさそうだ。原作によると、主人公は天涯孤独で現実世界にあまり未練がなく、仕事にも辟易していたためネトゲにハマり込んでいたということらしいが、それは絶対に劇中で描かないといけない情報だろう。主人公の思想の根幹を成す物なのだから。もちろん、誰でも日々の生活に苦労しており、現実逃避したいという願望は持っているだろうが、それを当たり前のこととして省略するのは違う。『ドラえもん』でも、必ず冒頭でのび太がジャイアンとスネ夫にいじめられるシーンがあるように、作劇の原則として必ず描かなければならない物があるということを理解する必要がある。

・ストーリー


 異世界に転生した主人公がまず初めに取った行動は、一緒に異世界へとやってきたギルドを掌握することだった。理由は分からないが、なぜか自分達の作ったNPCが各々の人格を得て自律行動している。足元を固めなければ動こうにも動けない。もっとも、彼らは自分達の設定した通りにしか行動しないので、最初から主人公を主として付き従う。そこで、彼はあえて王として威厳のある振る舞いをすることによって、ギルドを手中に収めることに成功する。
 続けて、彼は今後の目標と方針を打ち立てる。目標は自分と同じように異世界に転生しているかもしれない仲間を探すこと。そのために、自分とギルドの名前を世界中に知らしめること。仲間がいる可能性は0ではないし、探す方法も間違っていないが、それが目標として正しいとはとてもじゃないが言い難い。上述した通り、一番初めにしなければならないのは元の世界へ帰る方法を探すことだ。しかし、彼は全くそれをしようとしない。そもそも、ギルドのメンバーは主人公を残してとっくの昔にネトゲを引退しているはずだ。結局のところ、全ては言い訳なのだろう。現実世界に帰りたくないがゆえの。仲間が見つかれば、また昔みたいに一緒に楽しく遊べるかもしれない。過ぎ去りし時を求めて、主人公はあてもない冒険の旅に出る。
 そうこうしていると、NPCの一人がネトゲのアイテムにより洗脳されて反旗を翻す。やはり、自分と同じように異世界に転生した人間がいるようだ。そこで、主人公は誰の力も借りず自分一人でNPCに立ち向かうことを決意する。今まで実務ばかりしていて、ギルドマスターらしいことを何もしてこなかったからだとその理由を語るが、あまりしっくりこない。なぜなら、その贖罪を果たすべき相手は、もうそこにはいないのだから。本人が言う通り、完全に自己満足の世界である。それはさておき、主人公とNPCは、ファンタジー世界においてネトゲ丸出しのシステマチックな戦闘を行う。そのギャップは面白い。また、NPCは主人公に対して有利な条件を持っており、単純な力押しでは勝てないため、制限下での頭脳バトルになる。これも悪くない。そして、主人公はかつてチームメンバーが使っていた武器を次々に召喚してNPCを倒す。そういう展開にするなら、チームが機能していた頃の思い出や回想シーンを戦闘中に挿入したら、もっと話が盛り上がるだろうに……。結局のところ、ファンタジーバトルとしてはよくできているが、青春物・人情物としての演出はいまいちというのが本作の印象である。

・現実逃避


 深夜アニメはオープンエンターテインメントであるがゆえに、多種多様な層の人々が同時に視聴する。当然、その感想も十人十色だ。ただ、本作に限れば、かなり多くの人々が一つの共通した感情を胸に抱くのではないだろうか。それは「むなしさ」である。
 誰もいないギルドに一人でいること。ギルドのNPCに崇め奉られること。彼らに対して王様のように振る舞うこと。ネトゲの能力を使って敵を殲滅すること。救世主のように異世界の人々を助けること。彼らに上から目線で説教をすること。ギルドマスターとしての責任感を抱くこと。昔のギルド仲間に想いを馳せること。高価な課金アイテムを使って状況を打破すること。そして、何より現実世界に帰らず異世界に居続けること。いずれも言葉では言い尽くせぬ「むなしさ」に満ち溢れている。見ているだけで居た堪れなくなるような恥ずかしい感情。特にNPCが主人公を称賛するのは、ただ自らが定めた設定に従っているだけだ。裸の王様も裸足で逃げ出すレベルの自慰行為。ちょっと知り合いにその姿は見せられない。
 要するに、本作の特徴を一文で表すと「残酷な現実に向き合えないネトゲ廃人が、過去の楽しかった日々が忘れられず、サービス終了したネトゲにいつまでもしがみ付いている話」である。究極の現実逃避と言ってもいい。いい歳した独身男性が、一介のサラリーマンに過ぎない現実世界には帰らず、かっこいいダークヒーローになれる異世界に様々な理由を付けて閉じ籠もる様は、社交ダンスにハマる中年男性のような哀愁に満ちている。言ってみれば、本作自体が世の俺TUEEEE系異世界転生物を皮肉ったパロディーになっているのである。はてさて、制作者はどこまで意図してこれを作ったのだろうか。所々で主人公が自らの面映い境遇に苦笑するシーンを挿入しているので、ある程度は織り込み済みなのだろうが、その一方で現実世界にまつわる部分を全カットしたのは、皮肉を受け手に気付かせ難くした意図もあるのだろう。それゆえ、大事なのは視聴者側がどう受け取るかである。こう言っては何だが、本作を単純な異世界転生物だと受け止められる人は幸せ者だ。今を何も後悔せずに生きているのだから。だが、多くの人は主人公に自分を重ね合わせ、失くした物を探し続ける彼の姿に心を寄せるだろう。そのため、本作は簡単には否定できない魅力を有した作品だと言うことができる。

・総論


 俺TUEEEE系アニメと見せかけて、実は俺YOEEEEを描いているという不思議な作品。内容云々とは関係なく、この先、彼が異世界でどのような時間を過ごすのか非常に気になる。

星:☆☆☆☆(4個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 09:27 |  ☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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