『ゼロの使い魔』

極上のエンタメ。

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ゼロの使い魔 - Wikipedia
ゼロの使い魔とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2006年。ヤマグチノボル著のライトノベル『ゼロの使い魔』のテレビアニメ化作品。全十三話。監督は岩崎良明。アニメーション制作はJ.C.STAFF。中世ヨーロッパ風のファンタジー世界を舞台に、成功率ゼロの魔法使いのヒロインと彼女に使い魔として召喚された日本人の主人公が繰り広げるファンタジーラブコメ。ヒロインのルイズは今やツンデレキャラの代名詞になるほど、主にキャラクター面で人気を博した。

・設定


 本作を視聴した際、まず何より目に付くのが、安直にも程がある適当過ぎる設定の数々である。物語の舞台となる異世界ハルケギニアは、原作者自らが「元ネタは『三銃士』」と語る通り、実際の近世ヨーロッパの地図をそのまま移植したような形になっている。地名や国名も実在の物と酷似しており、それらの国々が如何にも現代的な理由でいがみ合っているため、異世界感はほとんどない。世界観は近世なのに文化は中世で、その歴史的ギャップを埋めるような作業を一切行っていない。ファンタジーの花形である魔法も、火・水・風・土の単純な四系統+無属性で、呪文名もなぜか英語直訳、世界を構成する元素がどうこうという話は全く出てこない。ヒロイン達の通う全寮制の魔法学校は、その形式から服装、教師の容姿、授業風景までも『ハリー・ポッター』と瓜二つ。最早、パクリと呼ぶのもおこがましい空っぽな何かである。つまり、本作は異世界ファンタジーを描く時に作者が必ず考慮しなければならない「新世界の創造」という作業を完全に放棄し、余所からの借り物だけで全てを間に合わせているのである。言いたくはないが、設定だけなら数あるファンタジー物の中でも間違いなく最低ランクに位置する。
 設定の時点でそれだから、予算の限られたアニメ版のビジュアルは、目も当てられない有り様になっている。独自の歴史を経て独自の文化を育んできた異世界のはずなのに、建物や衣装や小道具が現実社会と何も変わらず、農業・工業・商業といった経済システムがどうなっているのかも分からない。魔法学校はだだっ広い草原の真ん中にポツンと建っているだけ。パクリ元の『ハリー・ポッター』に見られるような超自然的な力に支配されたおどろおどろしい世界観など望むべくもない。他にも、ゲームですらお目にかかれないようなベタなモンスター群や格式も何もない使い魔召喚の儀など、本当に大の大人が何人も集まって企画会議で決めたのかと疑いたくなるような安直さがそこかしこに溢れている。特に、戦争シーンの迫力の無さや小粒感は筆舌尽くし難いレベルで、日常系アニメばかり作っている日本のアニメ業界の技術的な偏りを自ら露呈してしまっている。

・主人公


 そんな世界設定よりも、さらに安直なのが主人公設定である。恐ろしいことに、彼は平賀才人という名前以外、一切が謎に包まれているのである。家族構成や友人関係はおろか、性格や職業、趣味、特技、身体的特徴といった基本的なプロフィールさえ分からない。なぜなら、アニメ版では、異世界に召喚される前の現実社会での主人公の生活が、劇中で何一つ描かれないからだ。こんな作品は前代未聞である。ロールプレイングゲームや美少女ゲームでは、主人公をわざと無個性にしてプレイヤーとの同一性を高めるということを行うが、それでも基本的な人格や社会的立場ぐらいはあらかじめ決まっている物だ。本作のように完全なる「ゼロ」からのスタートでは断じてない。冴えない服装と召喚時は秋葉原にいたという点から、アニメやPCに通じたオタク系の人間ではないかと類推できるが、その割りには女好きのお調子者の熱血漢といった趣で、キャラクターに一貫性がない。何の欠点もない熱血漢がオタクにはならないだろう。言い換えると、その人物が心の奥に持っているであろうコンプレックスやら闇の部分やらが全く見えてこないということであり、極めて薄っぺらな人物描写になる。そのため、彼がどんなに正義に燃えた熱い啖呵を切っても全く心に響かず、元の世界に帰りたいという切実な想いもいまいち伝わって来ないのである。
 そんな空虚な主人公だが、物語が進むにつれ、実は「ガンダールヴ」という伝説の使い魔の力を受け継いでいることが明らかになる。それはいい。しかし、その力は、一切の修練を行わずに世界中のあらゆる武器を使いこなせるようになるという、俗に言う「チート能力」である。ガンダールヴの力が発揮されれば、どのような手練れの剣士にも凶悪なモンスターにも打ち勝つことができる。「最初から最強」なので、当然、物語に成長という要素は含まれない。主人公は最後の最後まで剣術の修行は行わず、天から与えられた能力のみでヒロインを助け、彼女達のハートを掴む。いや、これはどうなのか。経歴不明の謎の主人公が謎の力を振りかざして謎の異世界で無双する、最早、それは物語とは呼べない何かだろう。ご都合主義もここまでくるかというレベルである。もちろん、彼の勇気ある行動自体は賞賛されるべきなのだが、それを支えているのがチート能力というのは少々興醒めだ。本当の勇者とは、力があろうとなかろうと自分の主張を貫き通せる者を言うのではないだろうか。

・ゼロの使い魔


 安直な世界設定に安直な主人公、となると、アニメ自体もどれほど安直かと思いきや、意外や意外、中身はなかなか面白い。それもこれも全て人物配置の巧みさに起因する。本作のヒロインは魔法学校の二年生。由緒正しい貴族の娘であり、非常に気位が高い。ただ、この世界では魔法の使える者が貴族、使えない者が平民になるのだが、彼女は今まで一度も高度な魔法に成功したことのない正真正銘の落ちこぼれであり、周囲からは「ゼロのルイズ」と揶揄されていた。そんなある日、授業の一環として使い魔召喚の儀を行った際、いつも通り魔法を失敗した彼女は、何と異世界の人間である主人公を呼び出してしまう。人間を使い魔にした例は過去にないが、呼び出してしまった物は仕方ない。こうして、主人である魔法使いのヒロインと彼女に犬呼ばわりされる使い魔の主人公という奇妙な同棲生活が始まるのだった。
 以上、誰もが思い付きそうで思い付かない斬新な設定である。人間を使い魔にするという発想自体は誰でもできるだろうが、高圧的な魔法少女とお調子者の男性使い魔という組み合わせの妙はなかなかできる物ではない。しかも、ヒロインは平民にかしずかれるのが当たり前の中世の貴族で、主人公は身分制度に全く馴染みのない現代の日本人、その両者の感覚の差から生まれる文化的ギャップが物語前半最大のギミックになっており、それが設定の不備を忘れさせるほど楽しいのである。ヒロインは貴族であるがゆえに当然の如く使用人を扱き使う。その上、使い魔は主人に絶対服従が魔法世界の常識。よって、ヒロインは主人公を徹底的に家畜扱いし、異性である彼の前でも平気で着替え、平気で醜態を晒す。一方、主人公は普通の日本人なので貴族や平民といった身分の違いが分からない。頭では理解できても、身分制度に逆らうことの恐ろしさが皮膚感覚として身に付いていない。すると、当然、人間としての尊厳を踏みにじった相手には誰であろうと食って掛かるし、ヒロインを放っておいて同じ平民のメイドと仲良くなったりもする。さぁ、それを見て使い魔の主人であるヒロインがどう感じるか、という話である。身分という社会的な価値観と主人公に対する特別な想いという個人的な価値観のズレ、それはヒロインの感情的な行動となって現れる。そして、それが極上のエンターテインメントを生む。
 結局、物語の面白さは世界観やストーリーにあるのではなく、「人間関係の機微にある」ということがよく分かるエピソードである。もちろん、設定の整合性は大事だが、あくまでそれは傍論であって本論ではないということを本作が教えてくれる。

・ストーリー


 本作のヒロインのルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと言えば、今日では「ツンデレキャラ」の代名詞的な扱いを受けているが、それは性格上の物だけではなく、上記の初期設定からも来ている。貴族が目下の人間を使役するのはこの世界では極普通のことなので、ヒロインは出会った直後は当然のように主人公に対して厳しく接するが、徐々に主人公の人間的な部分に惹かれて態度を軟化させていく。それでも、貴族のプライドと彼女自身の魔法の素養のなさ、そして、魔法使いと使い魔という立場が邪魔をして、なかなか本心を表に出すことができない。その結果、図らずもツンデレ的な言動をしてしまう。つまり、彼女は人として当たり前の感情変化をしているだけであって、決して意図して作られたツンデレキャラではないのである。だからこそ、視聴者はヒロインに深く感情移入することができ、より一層魅力的に感じるのだ。そこが後に大量発生した本作の劣化フォロワー群との大きな違いである。
 ただし、上記のような本来の意味のツンデレ、ツンツンしていた人がデレデレになる態度の変遷は、ヒロインがはっきりと自分の感情を自覚した第六話の時点で終了する。その後は、感情と行動が一致しないいわゆる「素直になれない系」なので、厳密な意味ではツンデレではない。お間違えのなきよう。最終的に、ヒロインは主人公に命を救われたことで本当の恋愛感情を持つに至り、主人と召使いのある意味「禁断の恋」へと足を踏み入れるわけだが、本作はツンデレストーリーであることにこだわったばかりに、上手く処理できていない。その辺りをもう少し強調していれば、もっと話が面白くなっただけにもったいない。
 さて、そんな魅力的なキャラクター達による人情劇に比べると、全体的なストーリーはあってないような物で、原作のダイジェストとでも言うべきまとまりのなさである。それでも、一応、二つのストーリーが同時進行で語られる。一つは「レコン・キスタ」という謎の集団による侵略物語、もう一つは主人公が元の世界へ帰還する物語である。その際、旧日本軍の「ゼロ戦」が重要アイテムになっており、そのタイトルに掛けたネーミングや空を舞うビジュアルが最終回を大いに盛り上げてくれる。結局、主人公はヒロインを守るためにレコン・キスタ軍と戦うことを選択し、元の世界へ帰れなくなってしまうのだが、異世界ファンタジーの王道エンディングとして、十分過ぎる爽やかな感動を呼ぶ。

・総論


 世界設定と主人公設定はどうしようもないレベルだが、エンターテインメントとしては抜群の面白さを誇っている。人を選ぶが、ハマる人はとことんハマるはずだ。とりあえず、第一話・第二話を見てみて、薄っぺらな主人公に嫌悪感を抱かなければ、継続視聴してみるのも良いだろう。

星:☆☆☆☆☆☆☆(7個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 21:39 |  ☆☆☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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