『スケッチブック ~full color's~』

美術アニメ。

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スケッチブック (漫画) - Wikipedia
スケッチブック(漫画・アニメ)とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2007年。小箱とたん著の四コマ漫画『スケッチブック』のテレビアニメ化作品。全十三話。監督は平池芳正。アニメーション制作はハルフィルムメーカー。高校の美術部に所属する大人しい主人公が、キャラの濃い他の美術部員達に揉まれながら、何気ない日々の風景をスケッチしていく物語。同制作会社の社運を賭けたアニメ『ARIA The ORIGINATION』の前番組であり、その前座の役割を見事に務めた。

・絵


 本作は、高校の美術部に所属する登場人物達が織り成す一話完結型の物語である。部員は男女合わせて十三人。日常系の部活アニメとしては珍しく、三学年が全て揃った大所帯である。ただ、他の萌えアニメと違うのは、部員は皆、絵を描くことが大好きで、日々熱心に部活動をしている(あまり出てこない人もいるが)ということだ。そのため、作品テーマは当然「絵を描くこと」になり、その名に恥じぬよう、アニメーションの美術面にはとかく気を使った作品となっている。あらゆる小道具・大道具に手抜きがなく、細部までしっかりと描き込まれている。特に、背景は淡い水彩画のようなタッチで統一され、タイトル通り、スケッチブックに写生した絵のようになっている。それが、少し彩度を抑えたくすんだ色合いの人物画と組み合わさることで、美術的に非常にクォリティの高い物に仕上がっており、その一点だけでも評価に値するアニメと言えよう。第四話などはその典型で、ストーリーの大半を背景画と挿入歌だけで乗り切り、霧中の山から雨上がりの虹まで絵オンリーで魅せている。また、第十二話の画材店の商品棚は圧巻である。某アニメのように実写で逃げることなく、作品テーマをしっかりと絵で表現しようと試みているのは好感度が高い。

・雰囲気アニメ


 本作のカテゴリーは、一般的に「雰囲気アニメ」と称される物に属している。雰囲気アニメとは、ストーリーの面白さやキャラクターの可愛らしさよりも、アニメーション全体が醸し出す柔らかく暖かな空気感に重きを置き、見ていて気持ち良くなれる作品のことだ。その代表が、本作と同じスタッフが手がけている『ARIA』シリーズである。ただし、本作の原作は、『ARIA』とは違ってシュール系の四コマ漫画であり、雰囲気アニメの要素はあまり持っていない。そのため、原作ファンからは強引な路線変更に対して批判も挙がっている。また、制作初期の頃はまだ基本路線が定まっていなかったらしく、第一話に無駄なサービスシーンがあったりするのも微笑ましい。
 雰囲気アニメに最も重要な役割を果すのが音楽である。本作でも、村松健の手がける美しいBGMが実に心地良い雰囲気を作り出している。ピアノを中心としたノスタルジックな旋律は、とてもアニメ音楽を手がけるのが初めてとは思えないほど映像と親和しており、作品の品質を何倍にも高めている。それこそ、音楽だけを目当てに視聴する価値のある作品であり、本作のサウンドトラックは史上稀に見る名盤である。

・full color's


 原作はノンジャンルの四コマ漫画であるため、これと言うストーリーはないのだが、アニメ化するに当たって本筋となる物語を付け加えている。それが主人公の成長物語である。簡単に説明すると、自分の名前を紹介することも友達を大声で呼ぶこともできなかった内気な主人公が、友人達との交流を重ねるにつれて、段々と自分の気持ちを伝えられるようになるというオーソドックスな自己実現ストーリーだ。ただ、本作が他作品と決定的に異なる点は、それに「絵」が重要な役割を果しているということである。
 主人公は口下手である代わりに、特殊な感性の持ち主で、街の一風変わった風景をスケッチするのを趣味にしている。ただし、色を塗るのが苦手という致命的な短所があり、いつもスケッチブックはモノクロのままだった。だが、最終回で部員の集合絵を描いた際、思い切って色を付けてみたところ、その絵の出来栄えを美術部の顧問に褒められる。主人公は思わぬ賞賛に顔を真っ赤にしながらも、自分自身に自信を深める。お分かり頂けると思うが、その一連の流れが意味していることこそ、タイトルの『スケッチブック ~full color's~』である。背景が水彩画調なのも、本作は主人公の心のスケッチであるというメタ的な表現による物だ。それを理解できるかどうかで、本作の評価が大きく変わってくる。

・欠点


 本作の欠点は明白である。脚本がつまらないのだ。ストーリー自体は上記のようによくできているのだが、原作のネタとアニメの雰囲気が絶望的に噛み合っておらず、かなり厳しい物になっている。特に、第一話・第二話はギャグアニメとしても雰囲気アニメとしても中途半端で、ファンの目にも褒められる要素が少ない。そのため、多くの人はその時点で視聴を切ってしまうだろう。第三話のお祭り回から、ようやく美術と音楽を全面に出した雰囲気アニメとしての要素が濃くなり、第五話の猫回からギャグアニメとしても十分に見られる物になるので、そこまで耐え得る器量の広さが必要だ。なお、猫回に登場する猫は、金田朋子や中田譲治といった実力派声優が演じており、無駄にクォリティが高い。中でも、山本寛が演出を手がけた第十一話の猫回は普通に面白い。
 また、登場人物が多過ぎることも問題に上げられる。原作の量とアニメの話数が釣り合わないため、仕方ない側面もあるのだが、ほとんど出番のないキャラクターが何人かいるのは心苦しい。空閑先輩などは、もう少し出番があれば面白いキャラになっていただろうに。キャストが豪華なので、二期があれば間違いなく化ける作品だが、今のところそういった予定はない。

・総論


 面白いかどうかは別にして、予算の少ない四コマ漫画原作の深夜アニメでも、ここまでできるということを示してくれた貴重な作品。全てのアニメーションのスタンダードとなり得る格好の教材である。もし、名作アニメという評価を受けたいなら、最低でも本作を超えなければ話にならない。

星:☆☆☆☆☆☆☆☆(8個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 23:50 |  ☆☆☆☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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