『ハクメイとミコチ』

スローライフ。

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ハクメイとミコチ - Wikipedia
ハクメイとミコチとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2018年冬樫木祐人著の漫画『ハクメイとミコチ』のテレビアニメ化作品。全十二話。監督は安藤正臣。アニメーション制作はLerche。森の中で暮らす小人達の生活を描いた日常系ファンタジー。「小人」という表現は様々な誤解を生むので、「こびと」と表記した方が良いらしいのだが……誤解を生んだからどうなんだ。

ハクメイとミコチ


 本作は、ハクメイとミコチという二人の小人達の慎ましくも穏やかな日々の暮らしを丹念に描いた日常系ファンタジーアニメである。彼らの身長は九センチ前後。男女の性別があり、二人共に女性である。大きな木の根元に作られた家で共同生活をしている。彼らが日常を過ごしている土地がどこにあるかは、劇中では全く明言されない。小人達の文化は日本に近く、言語も日本語で、市場に日本円が流通しているので、おそらくここは日本なのだろうが、人間の文化は一切出てこないので詳細は不明。おそらく、意図的にこの世のどこでもないアナザーワールドを舞台にしているのだろう。ただ、作画・美術は非常に丁寧で、自然と調和して生きる小人達の生活を事細やかに描写している。美しい民族音楽風のBGMや主題歌もそれを後押ししている。何も考えず、見ているだけで気持ち良くなってくる癒し系アニメである。

 ハクメイは本業が修繕屋で、サバサバとした男性的な性格の持ち主。好奇心が旺盛で何事に対しても積極的、釣りが趣味というアクティブなアウトドア派である。一方、ミコチは料理と裁縫が好きという家庭的な女性で、本職は保存食や石鹸などの生産。ハクメイと違って少し奥手なインドア派である。ただ、人当たりは良く、町の人々に人気がある。本作は、ずっと一人で旅をしていたハクメイが、とある事情で「マキナタの町」の郊外にあるミコチの家で居候することになったところから始まる(その経緯自体は描かれない)。性格が正反対な二人は、お互いのダメなところを補い合って暮らしており、その関係は友達と言うより完全に夫婦である。お互いに酒好きで、毎晩のように一緒に晩酌をしている。基本的にはアクティブなハクメイにミコチが振り回されて新たな発見を得るというパターンが多いが、世間知らずのハクメイがミコチの処世術に助けられて感心するというパターンも少なくない。二人を女性同士にしたのは賛否両論あるだろうが、二人の友情は間違いなく我々が理想とする人間関係の一つであり、本作が視聴者に心地良さをもたらす要因の一つである。

 ちなみに、ハクメイが女性だと判明するのは第五話である。それは同時に小人に男女の区別があることが判明する回でもある。ファンタジーなのだから、別に無性別でも構わないと思うのだが、やはり女性の方がいいのだろうか。

・問題点


 このように、本作は非常に丁寧に作られた質の高いファンタジーアニメである。が、そのことで、すなわち先人に肩を並べるような不朽の名作になっているかと問われると、残念ながら首を捻らざるを得ない。やはり、ジブリ映画や世界名作劇場のような作品と比べると、あるゆるポイントで大きな隔たりがある。まず、単純にアニメーション面の問題点を挙げると、レイアウト的な面白さが圧倒的に不足している。身長九センチの小人を効果的に描こうと思えば、常に比較対象物を画面に置いておかなくてはならないはずだが、本作にはそれらがあまりなく(大きな野菜や大きな虫程度)、スケール感の妙を味わえない。本作においてハクメイ達の小人らしさを初めて実感できるのは、第十話の竹でお風呂を作る回である。また、おそらく絵本や紙芝居を意識しているのであろうカットイン演出を最初から最後まで多用しており、それはそれで良い雰囲気を作り出しているのだが、同じぐらい頻出するギャグシーンの演出と致命的に合っていない。結果、画面にまとまりがなく、ただ小手先の技術に傾倒しているように見えてしまう。後、個人的な感想だが、声優のレベルも全体的に低い。

 ストーリー面だが、これと言って特筆すべき点はない。日常系雰囲気アニメのセオリー通り、何気ない普通の日々を過ごしながら「良かった探し」をする物語だ。ただ、二人は見た目こそ幼いが、歴とした成人女性であり、それぞれ手に職を持って自立している。そのため、良かった探しも全て日々の生活に直結している。そういう意味で言うと、本作は非常にリアリスティックな作風だと言えるのだが、その一方で彼女達の命を脅かすような危険はほとんど出てこない。町には盗賊がいるらしいのだが、劇中には未登場。誘拐事件が発生したかと思うと、それはただのお遊びだった。さらに、第四話。ハクメイ達がハーブ採りに出かけると、そこを縄張りにしているフクロウに殺されそうになる。その時ばかりは強気なハクメイも恐怖に震えるのだが、結局、フクロウは食料だけ奪って去っていき、事なきを得た。だが、少なくとも、この世界には小人を食らう巨大な生物が身近に存在するらしい。それでは『進撃の巨人』である。本当ならもっと警戒して生きなければならないはずだが、本作に登場する人々にそういった危機感は全く感じられない。これでは自然の中での暮らしを十分に描いたとは言い難いだろう。

・人間


 先述の繰り返しになるが、小人をメインにした作品は大きく二つに分けられると考える。それは「劇中に人間が登場するか否か」だ。もっと正確に言うと、人間の文化と関わり合いがあるかどうかである。人間と共に生活していたり、もしくは人間の町のすぐ側で暮らしていたりすると、両者の文化を比較し易く、小人ならではのメリット・デメリットをより具体的に描くことができるだろう。また、人間自体は登場しなくても、人間の文明の名残があるかどうかで大きく変わってくる。例えば、森の中で空き缶が一つ見つかっただけで、そこには大きな事件が発生するはずだ。そうすることにより、小人の視点で人間の文明を見つめ直すこともできる。それが文明批判になるかヒューマニズムになるかは作り手次第だが、やはり我々の心が動くのは人間の物語である。小人はあくまで人間の鏡という位置付けだ。

 一方、本作は劇中に人間も人間の文明も一切登場しない珍しいタイプの作品である。小人達の文明は人間とは関係なく独自発展を遂げており、仮にそれが人間の物と酷似していても、ただの偶然の一致に過ぎない。主役はあくまで小人である。それ自体は別に悪いことではないのだが、そういう形式を取ると一つの大きな問題が発生してしまう。それは、この世界が一般的な異世界ファンタジーと何も変わらなくなってしまい、身長九センチの小人である意味が薄らいでしまうことだ。確かに、巨大な虫や動物と共生しているのは小人らしいが、それらを未知の幻想生物に置き換えてしまえば、どこにでもあるファンタジーになってしまう。つまり、我々と地続きの世界ではないということである。(なお、本作には魔法は登場しないが、魔法のような科学技術は登場する)

 結局、なぜ本作の作者は人間の存在を完全に消し去ったのか、正直なところ、よく分からない。小人達を人間から独立した一つの種族として描きたいということなのだろうが、それだと「エルフやドワーフで良くね?」ということになってしまう。本作を見て真っ先に感じることは、やはり「人間あっての小人である」という動かし難い一つの事実だ。幸いなことに原作はまだ連載中なので、今後、小人ならではユニークなエピソードが生まれることを期待しよう。

・テーマ


 本作のテーマは、上記の「友情」を除くと「スローライフ」や「自然との共生」や「温故知新」になるだろうか。小人達の文明は、蒸気機関車こそ実用化されているが、オートメーション化された大工場などはなく、全て家内制手工業で日用品が作られている。つまり、産業革命が起きる直前のまだ自然に対して畏怖の心を持っていた時代がモデルになっている。人々は古い道具を大切に使いながら、自然の中で時間に追われることなくのんびりと暮らしている。それは都会の雑踏の中、毎日ストレス塗れで生活している現代人が欲して止まない物だ。もちろん、現代社会には現代社会のメリットも存在するので、それを頭から否定してしまうと非常に独善的・思想的な物語になってしまうが、本作はその辺りのバランス感覚に優れており、作り手のメッセージがドラマを通じて程良く伝わるようになっている。

 最終話は、ハクメイがミコチの家に転がり込むまでお世話になっていたキャラバン隊にまつわるお話である。詳細は省くが、当時、ハクメイは熟考の末にキャラバン隊から抜けて、マキナタの町に定住することを決意した。それは、マキナタの町が世界中から個性的な人々が集まる「変な町」だったからだ。そして、放浪をやめた結果、彼女はミコチという無二の親友と出会うことになる。こうして、最終話にして本作のメインテーマが「町」であることが明らかになる。実際のところ、主人公達の暮らす町その物が主役になるアニメは多く、本ブログでもよく例として挙げられる『ARIA The ANIMATION』などはまさにそうで、意図的に何の悩みも苦しみもない理想郷を作り出すことによって、逆説的に「幸せとは何か?」を我々に問いかけている。本作もそのパターンを踏襲し、最終話で町にフォーカスを当てている。

 ただ、マキナタの町を主人公として考えると、やはり足りない部分が多い。何より、ハクメイとミコチの住んでいる家は町の郊外にある。準レギュラー格もほとんどが郊外住みで、町にはたまに買い出しで顔を出す程度だ。生活圏という意味では間違ってはいないが、最終回で大々的にフォーカスされる状況には違和感を覚える。こういうまとめ方をするなら、もっと町を人々の出会いの場にすべきだったし、ハクメイとミコチが初めて顔を合わせたシーンも映像化すべきだっただろう。いろいろと欠点の多い本作だが、全体のストーリーを鑑みた場合、どうしてもここが一番の欠点になる。友情でもスローライフでも、もう少し別のテーマで別のまとめ方を模索した方が良かったのではないだろうか。

・総論


 個人的には凄く好きなアニメ。ただ、あまりにも欠点が多過ぎて、他人にはお勧めし難い。せめて、もう少し画的な面白さがあれば。

星:☆☆☆☆☆☆☆(7個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 09:49 |  ☆☆☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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