『涼宮ハルヒの憂鬱』

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涼宮ハルヒの憂鬱 (アニメ) - Wikipedia
涼宮ハルヒの憂鬱(アニメ)とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2006年。谷川流著のライトノベル『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズのテレビアニメ化作品。全十四話。監督は石原立也。シリーズ演出は山本寛。アニメーション制作は京都アニメーション。世界を根本から揺るがす力を持った「涼宮ハルヒ」という少女を巡る恋愛SFストーリー。厳密に言うと二期に相当する作品がないのだが、ここでは便宜的に2006年版の全十四話を一期とする。

・ハルヒ以前ハルヒ以後


 アニメの歴史どころか、アニメ業界の形すら変えた化け物アニメ。アニメ史は明確にハルヒ以前とハルヒ以後に分けられる。それぐらい、業界に対して多大なる影響を与えた作品である。
 具体的に何が変わったかと言うと、それまでは「オタクの見る物」であった深夜アニメが、本作の登場以後、「オタクではない人の見る物」になったのである。特に、それまで縁のなかった一般中高生までが深夜アニメに触れ始めたのは、歴史上の大きな転換点だ。一見すると、それはアニメの社会的地位が向上したことを示す素晴らしい現象のように思われるが、実際は明らかにデメリットの方が大きい。なぜなら、彼らはアニメが好きなのではなく、あくまで友人ないしネット住民とのコミュニケーションツールとしてアニメを利用しているに過ぎないからだ。話のネタにするためには、できる限り多くの人が視聴している物でなければならない。それゆえ、作品の質や面白さを無視して、話題になった(もしくは話題にした)アニメに人が集中するという一過性の一極化現象が往々にして発生するようになった。それは、よりマニアックであることに喜びを見出していたオタクがアニメを見ていた時代には考えられない状況である。
 また、元々、彼らはアニメに興味のない人々だから、作品の良し悪しを内容で語ることができない。語るべき知識と経験がないのだから仕方ない。そんなライトオタクな人々が唯一議論に参加できる指標が、DVD等の「売り上げ」である。誰の目に明らかな絶対的な「数値」だ。それが迎える先はすなわち、「売れたアニメが良い作品」で「売れなかったアニメが悪い作品」という拝金主義への傾倒である。本来、商業的なことを否定すべき視聴者側がこれでは、老若男女が楽しめる高品質なアニメを作ることなど実質不可能である。つまり、売り上げを伸ばすためには、より視聴者に対して媚(オタクの内輪ネタや露骨な性描写など)を売るしかない。それは、業界にとっても自らの首を絞めるに等しい泥沼的な行為である。
 では、なぜ、本作は業界の形を変えるほどまで非オタクの中高生を惹き付けることができたのだろうか? 簡単に見て行こう。

・セカイ系


 本作は「セカイ系」と呼ばれるジャンルに属する物である。セカイ系とは、「個人」と「世界」がその媒介である「社会」を無視して直接繋がる作品のことを言う。例えば、世界の命運はある個人の努力に懸かっているとか、世界の根底を揺るがすような魔法を個人が使いこなすとか。物語はスケールが大きければ大きいほど盛り上がるため、制作者は得てしてセカイ系に走りたがるのだが、個人が社会を飛び出した瞬間、間違いなくリアリティは地に落ちる。人は組織や世間をなくしては生きられない。それができると思っているのは「子供」だけである。
 そんな中、本作は同じセカイ系でも、スケールを極端に大きくすることで、逆にリアリティへ目が向かないように上手く操作している。分かり易く言うと、個人が世界に繋がるのではなく、「個人=世界」である。主人公達が生きる世界は、涼宮ハルヒというヒロインが創造した物であり、彼女の機嫌によって存在が左右される。世界の均衡を保ちたければ、常に彼女を楽しませ続けなければならない。何とも荒唐無稽である。実際、なぜヒロインにそんな力があるかは劇中では意図的に誤魔化されており、詳しい解説はない。その代わり、彼女がそういう存在であることを前提にして、周りの人間がどう動くべきかをストーリーにしている。要するに自然災害に対する危機管理の物語である。これは面白い試みだ。SFアニメの名に恥じない、よく練り込まれた設定である。

・公式同人


 SFやミステリーに明るい人がこの設定を見れば、ヒロインの存在が何であるかをすぐに言い当てることができるだろう。当たり前だが、「ヒロイン=作者」である。作者は世界を創造し、その舞台上に自由にキャラクターを配置する。作者が飽きれば、もう話の続きは作られない。それゆえ、キャラクターは作者の機嫌を取るために、常に滑稽な芝居を演じ続けなければならない。
 また、ヒロインの行動=作者の行動である。彼女は「宇宙人・未来人・超能力者以外に興味はない」と言って、実際に宇宙人と未来人と超能力者を自らの作った同好会「SOS団」に集めてみせる。彼らは、天然巨乳メイド・天才無口キャラと言った典型的な「テンプレ萌えキャラ」であり(事実、劇中でヒロインは「萌えキャラを集めた」と公言している)、彼らと共に「何でもあり」な世界の中、何でもありの同好会で何でもありなことをするのが本作の骨子である。世界の行方や主人公とヒロインの恋愛などは二の次だ。誰も邪魔しない空間で気の合う仲間と遊ぶ「楽しい日常」に勝る物はない。
 これはいわゆる二時創作の同人作品の手法である。テンプレ萌えキャラを一同に集めて、彼女達に野球やゲームや探偵ごっこなど様々なイベントを体験させる。たとえ、それがどんなに理不尽な行為であっても、ハルヒの設定を活用すれば矛盾は起きない。なぜなら、「何でもあり」な世界なのだから。言ってみれば、本作は「萌えアニメツクール」のような物と解釈しても良い。しかも、本作はそれを公式で認めているのが特徴である。これが創作意欲に溢れた中高生に流行らないはずがない。

・モラトリアム


 本作は、小説『涼宮ハルヒの憂鬱』をベースにした連作エピソード六話と、その後日談である閑話エピソード八話から成り立っている。特徴的なのは、それらの時系列をシャッフルして、閑話エピソードを間に挟んだ形式にしていることだ。その閑話エピソードは、SOS団の日々の活動を描いた物であり、相も変わらず何でもありのグダグダな日常が繰り広げられる。とは言え、メインの連作エピソードは単に設定をなぞっているだけだから、それほど面白いという物ではなく、後日談が途中に挟まっているからこそ、楽しい雰囲気を維持しているとも言えよう。
 だが、これが一つの落とし穴となっている。連作エピソードのラストは、不機嫌が極限まで高まって閉鎖空間に捉われたヒロインを主人公が救出するというものだが、だからと言って、ヒロインが何らかの心の成長を遂げたということは一切ない。なぜなら、今後も変わらない日常が続くということをあらかじめ後日談が示しているからである。せっかく変えた髪形も元に戻ってしまう。本当に本作で物語を完結させたいなら、後日談ではなく、原作を改変して劇中のエピソードにするべきだ。最終的にSOS団を解散して、初めて物語が完結したと言えるのである。
 しかし、皮肉なことに、本作が中高生に受け入れられた最大の理由がここにある。なぜなら、ヒロインも主人公も心の成長を果さず、楽しい仲間とずっと同じことを繰り返す、いわゆる「モラトリアム」を描いているからだ。この点に関しては賛否両論であろう。「モラトリアムは現実逃避である」とする意見もあれば、「成長すればいいというものではない」という意見もある。どちらにしろ、本作がモラトリアム真っ只中の中高生に気に入られ、アニメ業界で一時代を築いたのは紛れもない事実である。

・主人公


 このように様々な見方ができるとは言え、本作は非常に完成された作品であることには変わりない。映画の文法に則った演出は深夜アニメでは傑出している。だが、そんな出来の良い作品において、唯一にして最大の欠点が「主人公」である。
 本作の主人公は、俗に「巻き込まれ型」と言われている。最近では「やれやれ系」などと呼ばれることも。言動に主体性がなく、周囲の人間が巻き起こすドタバタに否応なく巻き込まれて、最後に「やれやれ」とため息を吐くタイプの主人公のことだ。ただ、本作の主人公の場合は意外と自分から係わっているのである。ヒロインに接触したのも主人公の方からだし、その気になれば、いつだってヒロインの暴走を止めることもできた。なのに、「気が付けば」「暇潰しだ」「習性だ」などと言って、ズルズルと彼女のわがままに付き合っていくのである。これは言い訳である。本作は1クールの間、延々と主人公の言い訳を聞かされる物語だと言っても過言ではない。
 もちろん、そういった主人公の行動さえも、ヒロイン=作者の手のひらの上だったという解釈も可能であろう。しかし、元来がメタフィクショナルな性質を持つ作品である以上、主人公だけはヒロインの影響下から外すべきだった。主人公は作者の代弁者であると同時に、視聴者の代理人である。それすらも自由に支配できると考えるなら、それは作者の思い上がりであり自己肯定の極みである。一人ぐらいは作者の作った殻を突き破ってくれる人がいれば、もっとラストにカタルシスを味わえたのではないだろうか。

・総論


 どこまでが意図的だったかは分からないが、セカイ系・公式同人・モラトリアムと中高生のニーズに完璧に応えた作品である。「視聴者がキャラクターを使って遊ぶ」ということを制作側が初めて公に認めた作品として、本作はアニメ史に残るだろう。アニメファンを自称するなら、必ず見ておかなければならない作品である。それにしても、「一般人の振りをしたオタク」丸出しの主人公のうざいナレーションだけは、どうにかならなかったのだろうか。

星:☆☆☆☆☆☆(6個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 21:42 |  ☆☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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