『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』

存在自体が害悪。

公式サイト
俺の妹がこんなに可愛いわけがない (アニメ) - Wikipedia
俺の妹がこんなに可愛いわけがないとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2010年。伏見つかさ著のライトノベル『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』のテレビアニメ化作品。全十六話。監督は神戸洋行。アニメーション制作はAIC Build。わがままなツンデレオタク妹に振り回される兄の悲哀を描いた擬似恋愛コメディー。本作以後、タイトルが文章形式のライトノベルやゲーム、そして、それらをアニメ化した作品が急増した。

・基本設定


 本作のヒロインは、妹物エロゲー(十八禁美少女ゲーム)をプレイするのが趣味の中学生の妹である。この設定を目にした瞬間、猛烈な不快感を覚える人はマイノリティーなのだろうか。ギャルゲーではなくエロゲーである。十八歳未満購入禁止のアダルト商品である。いくら法的根拠のない自主規制とは言え、中学生が購入して良い物ではなく、明確な道徳違反である。例えば、これがアダルトビデオやポルノ映画だったら大問題だろう。当然、アダルトゲームも同様だ。もちろん、エロゲーにはアダルトビデオと違って、高品質なシナリオや音楽、キャラクターを含む物も存在するが、そういった良作はコンシューマ移植されているのが常である。そもそも、本作のテーマは「オタクか否か」なのだから、エロゲーでなければならない理由は一切ない。
 結局、なぜ、十八禁美少女ゲームかと言うと「エロいから」である。中学生の女の子がエロゲーをプレイしているという状況その物が。可愛いツンデレの妹が妹物のエロゲーをプレイしているという事実その物が。視聴者はそんな彼女の姿を想像して性的に興奮し、自慰行為に励んでいるわけである。そして、そういった男の下半身丸出しの妄想を、大の大人が多大なコストと人員を懸けてアニメ化し、子供も見ることのできる地上波に垂れ流しているわけである。しかも、「他人の趣味に口出ししてはいけない」などという自己正当化した理由を付けて。これはもう「恥を知れ」としか言い様がない最低の行為だ。世界に誇る日本の「OTAKU」の真の姿である。

・エロゲー会社協賛事件


 上記の非道徳性に拍車をかけたのが、この「事件」である。話題になったので知っている人も多いだろう。本作には、実在のエロゲー制作会社が何社もタイアップし、劇中ゲームやイラストを提供している。それだけならよくあることだが、問題なのは本作のヒロインが「中学生」であることだ。エロゲー業界団体は、反児童ポルノを訴える圧力団体の批判をかわすために、十八歳未満は購入できないという自主規制を敷いている。ところが、エロゲー会社が本作に協賛することによって、「エロゲーは中学生が購入しても良い物だ」と公に認めることになってしまう。これでは、圧力団体に大義名分を与えることになってしまい、今までの積年の努力が全て水の泡である。先人の頑張りを無駄にしないためにも、そして、真面目にエロゲーを作っている他の企業のためにも、これにタイアップした企業は某食品会社ではないが廃業してもらいたい。
 さらに問題なのは、「これの何が悪いのか理解できない人」が大勢いたという衝撃の事実である。当時、危機感を覚えた人がそういった人を説得して回るという光景が各所で見られた物だ。それでも、いつの間にか事件が風化したところを見ると、業界内部の人間を含め、現状に危機意識を抱いている人が如何に少ないかを示している。結局、一番恐ろしいのは「想像力の欠如」ということだ。普段、二次元に対する妄想力を自慢している人が、ほんの先の未来さえ予測できないという事実は、オタクという物の歪みをよく表している。

・自己肯定


 以上のような派手な設定にも係わらず、ストーリーは至極凡庸である。隠れオタクのヒロインが趣味をカミングアウトし、本当の自分を見つけ出すという思春期の少女のアイデンティティー確立を描いた自己実現ストーリーだ。それ自体はよくできている。気の合う趣味友達を探し出す友情物語として見ると何も問題ない。
 ただ、全体的な流れを鑑みると、やはり、本作が擁護しているのは、オタクの妹ではなく「オタクその物」である。例えば、オタクに対して分かり易い偏見を抱いているステレオタイプな敵を登場させ、分かり易い批判を言わせる。そして、それに分かり易く反論することによって、「オタクは素晴らしい物だ」と訴えるという姑息な手法だ。妹の存在はその出汁に過ぎない。要するに、ヒロイン=美化された作者自身であり、本作は1クールに渡って延々と作者が自己肯定を続ける物語と言っても過言ではない。テレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』であれほど批判された行為を、十五年後にまた繰り返すとは呆れるばかりだ。
 ちなみに、ラストは妹が打ち込んでいる「陸上競技」でアメリカへ行くかどうかという話である。オタク趣味で自己実現を果たす物語だと思ったら、最後にあっさりと裏切られ、これまでのストーリーが全く無意味な物になる。だからと言って、陸上競技を詳しく描いているというわけでもなく、どちらに対しても不義理な脚本としか言い様がない。

・天邪鬼


 本作の基本的なドラマツルギーは「すかし」である。タイトルを見て分かる通り、「妹は兄に対して優しい物だ」というこの業界におけるセオリーを逆手に取り、あえて常識を裏切ることでシニカルなストーリーを構築している。ということは、隠れオタクな妹の物語を成立させるためには、兄妹共に極めて「一般人」でなければならないということだ。その点で言うと、本作において著しく欠けている要素が、妹の一般人描写である。容姿端麗・学業優秀・スポーツ万能でオタクとは程遠い存在であり、兄のことを普通の家族としか思っていないという設定を事前にしっかりと描かなければならないのに、その説明があるのは冒頭のほんの数分程度。本来なら第一話全てをそれに費やすべきであり、これは明白なストーリー構成上の欠陥である。
 一方、妹以上に一般人でなければならない主人公の兄も、制作スタッフの教養の限界か、残念ながら一般人には成り切れていない。相思相愛の幼馴染みがいるという基本設定もさることながら、初めから無駄にオタク用語に精通し、口調や服装や言動はエロゲーの主人公その物である。劇中での行動も典型的な「巻き込まれ型」であり、主体性がなく周囲の人の言われるがまま。この時点で、「一般人の兄が妹に影響されてオタクになる」という物語的な面白さは半減している。
 何より、彼の妹に対する感情の変化が掴み難いという致命的なウィークポイントがある。本作の性質を考えると一番の肝のはずだが、極めて適当である。最初は妹に対して嫌悪感を抱いていたはずなのに、頼まれるとすぐに協力的になる。その際、心の葛藤や感情の変遷などがあまり見られず、それこそ、妹物のエロゲーやエロ漫画の方がよっぽど主人公の内面を描けている。最終的には、業界のセオリーの裏の裏を取って「兄妹だから」で全部済ませてしまうが、家族話が好きな視聴者はそこが一番知りたいポイントなのだ。何も分かっていない。結局、兄妹の話を真面目に描くことができないから逃げているに過ぎない。

・オタク文化と性風俗


 本作の問題点は、すなわちオタク文化の問題点である。そして、オタク文化の抱える最大の問題点が「性」に関する事象である。かねてより、オタク文化と性風俗は切っても切れない関係だった。エロゲーにエロアニメにエロ同人誌と、可愛らしいキャラクターを淫らに陵辱することこそがオタク文化の華だった。ただし、昔はあくまでアングラだったわけである。誰も知らないところでこっそりとやっていたからこそ、こういった非道徳的な文化も許容されていたのだ。
 ところが、時代が進み、オタク文化がメジャー化するにつれ、性的な要素までオープンになってしまった。人として本来隠すべき物までも、まるでトップレスビーチのように開放され、白日の下に晒されている。当然、十八歳未満の子供達の目にも留まる。マスコミが夏冬の風物詩のように取り上げ、老若男女が大挙して押し寄せているコミックマーケットが、実はエロ同人誌即売場であることをどれだけの一般人が知っているだろうか。このような倫理観の欠如は、劇中でも何度か問題視されているのだが、いずれも適当な理由を付けてはぐらかしている。真面目に答えても批判に打ち勝てるわけがないのだから、最初から問題に向き合おうともしない。これは異常である。誰かが「貴方達は頭のおかしい人ですよ」と指摘してやらなくてはならない。図らずも、結果的に全て劇中でステレオタイプな敵が批判した通りなのである。

・総論


 オタクの素晴らしさを描くはずが、かえってオタクの醜悪さを露呈しただけであり、結果、業界の悪い点を全て集約したような作品になっている。しかも、こうやって批判されることすら想定済みであり、あらかじめ予防線を張った上で茶化している。業界の未来など全く考えず、自己肯定に走っただけの不誠実な作品だ。それゆえ、オタクにとって、自分達の一番の敵は圧力団体などではなく、こういった作品であるということを自覚しなければならない。

星:★★★★★★★★★★(-10個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 22:26 |  ★★★★★★★★★★ |   |   |  page top ↑
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