『灰羽連盟』

宗教アニメ。

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灰羽連盟 - Wikipedia
灰羽連盟とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2002年。安倍吉俊著の同人誌『オールドホームの灰羽達』のテレビアニメ化作品。全十三話。監督はところともかず。アニメーション制作はRADIX。背中に灰色の羽を持つ「灰羽」達が、居心地の良い街から巣立つまでの軌跡を描いたファンタジー物語。よく勘違いされるが、「ハイバ・ドウメイ」ではなく「ハイバネ・レンメイ」である。

・雰囲気アニメ


 その上質な音楽と美術、そして、作品全体を包む穏やかで柔らかい雰囲気から、本作は『ARIA The ANIMATION』などと同じ「雰囲気アニメ」のジャンルに区分されることが多い。確かに、何の変哲もない日常生活の描写が主で、住民は皆が心優しく、争いごとはほとんど起こらない。また、時間や季節の変化をしっかりと描くなど、身の周りの空気感を大切にすることで、まるでそこで暮らしているかのような感覚を味わえる。ただし、本作は、それらに加えて複雑に絡み合った設定としっかりと練り込まれたストーリーを持っており、単純に雰囲気アニメで片付けてしまうのは失礼な作品である。逆に、心の内面をえぐるような重苦しいシリアス展開も多いため、そういった穏やかな雰囲気を期待して見始めた人は面食らうことになるだろう。特に、イニシエーションを扱った第一話は、痛みが伝わるほど精緻に描いているため、大半の人はそこで視聴を止めてしまうかもしれない。
 一つのアニメーションとして見ると、作画自体は丁寧だがコンテとレイアウトが甘いため、映画的な評価は決して高くない。場面によっては視点がイマジナリーラインを越えてころころ移り変わり、見た目に反してかなり忙しい。それでも、全体的にくすんだ色合いで統一するなど、2002年というデジタル過渡期の時代を鑑みると、雰囲気作りはよく頑張っている。今ならセピア色のフィルターをかけて終わりだろう。それはそれで味気ない。

・異世界


 本作のストーリーは、俗に「異世界物」と呼ばれるドラマの構成パターンの一つをそのまま踏襲している。物語の冒頭で、何の前触れもなく主人公が謎の異世界に飛ばされる。うろたえる主人公に対し、先住民達が世界の仕組みを説明する。そして、主人公が異世界の奇妙なしきたりに慣れて行くに従って話が進み、やがて、物語の後半でその世界の矛盾に気付き始める。楽園だと思っていたそこは、実は……という黄金ストーリーだ。この「実は」の部分がどれだけ奇想天外であるかが異世界物の評価を決める肝心要のポイントになるが、本作も十分に視聴者の度肝を抜くトリックを用意している。そのため、これから本作を見ようと思っている方は、本項を含むアニメ解説サイトにはあまり目を通さない方が身のためだろう。確実に、最後まで見終わった時の面白さが半減する。
 では、本作における異世界の説明をして行きたいが、非常に複雑な設定になっているため、全て紹介すると膨大なスペースが必要になる。それゆえ、メインストーリーに関係する部分だけを抽出することにする。主人公は灰色の羽と頭上の光輪を持った「灰羽」の一人。灰羽は、それまでの記憶を全て消して異世界「グリの街」に生まれ落ちる。そこはヨーロッパの田園都市風だが、なぜか日本語が公用語。周囲を高い壁に囲まれ、街の人々も含めて誰も外に出ることはできない。だが、一定の期間を経た灰羽だけは、壁の向こうへ「巣立つ」ことができる。ただし、生まれ付き羽に黒い染みのある「罪憑き」は巣立つことができず、そのまま消えてしまう。罪憑きとはかつて罪を犯した者。その罪を自覚することができれば、染みは消え、他の灰羽と同じ道を歩むことができる。
 以上が本作の簡単な設定だが、ここまで簡略化してもまだ難解である。ただ、その中心となる疑問点はたった一つだ。要は「灰羽とは何か?」である。

・天使


 この世界の灰羽は、まるで我々の世界における天使のような姿をしている。ということは、天使のような何かを指す高度なメタファー(例:動物)なのかと穿った見方をしてしまいがちだが、それこそが制作者の仕掛けたミスリードである。実は難しく考える必要は何もなく、そのままの意味で「天使」なのである。
 もちろん、劇中で明確に描くようなヘマはしていないが、最終回の展開と台詞から大体が読み取れる。それは、灰羽達が「一度死んでいる」ということだ。そして、生まれる前に見た夢は、彼らがどのようにして亡くなったのかを追体験している。彼らが巣立つということは、仏教用語で言うなら「成仏する」、キリスト教用語で言うなら「神の下に召される」ということ。だが、羽に黒い染みのある「罪憑き」だけは、自らの犯した罪ゆえに成仏ができない。つまり、彼らは自殺したのだ。主人公はおそらく投身自殺して、主人公の先輩は鉄道の線路に身を投げ出して。本作のストーリーは、そんな彼女達が罪の重さを自覚することで贖罪を果す物語である。
 このように、本作は非常に宗教的なアニメになっている。明白な宗教観を持たないことに定評のある日本人が作った作品で、ここまでしっかりと「死と再生」を描くのは非常に珍しい。その分、視聴者の深層に訴えかける深い物語となっている。なぜ、本作が今でも名作と呼ばれるかという理由の全てがここにある。

・灰羽


 アニメは目に見える物が全てであって、設定を深読みすることは避けるべきだと考える。なぜなら、余計な枝葉にばかり捉われて、アニメその物の本質を見誤ってしまうからだ。ただし、本作の場合は、一番の謎がタイトルに込められているので、どうしても触れざるを得ない。それは「なぜ、白羽ではなく灰羽なのか」ということである。
 考え得る解釈は三つ。一つは、第五話の「世界のはじまり」という神話の中で語られている通り、創造神が白羽でその子が灰羽という解釈。つまり、灰羽とは神に選ばれた特別な存在であるという考え方だ。その一方で、死んだ者は全員灰羽になり、禊を終えて巣立った後に白羽になるという解釈もできる。ただ、それだとグリの街が灰羽で溢れていなければならなくなり、若者の灰羽しかいないという設定とも矛盾する。最後に、灰羽とは罪を犯した者であるという解釈。何らかの理由で白羽になれなかった可哀想な人々という考え方だが、それだと罪憑きとの差別化が難しくなる。自殺は最大の罪と考えれば矛盾をなくすことは可能だが。
 いずれにしても共通しているのは、キリスト教的宗教観と仏教的宗教観の折衷になっているということだ。亡くなった人間が天使になる。ただし、羽は純白ではなく灰色。この辺りの自虐的な思考方法は極めて日本人的だ。グリの街の公用語が日本語であるのも、こういった日本人の死生観を反映した物であろう。それゆえ、個人的には三つ目の解釈が最も相応しいように思う。グリの街は黄泉比良坂であり、罪人はそこで穢れを祓って黄泉の国へ行く。そう考えるのが一番自然ではないだろうか。

・欠点


 上記を見て分かる通り、非常によくできた設定ではあるが、それはSFミステリーとしての面白さであって、アニメとして面白いかどうかは意見が分かれるところだ。明るく穏やかな物語は第五話で早くも終了し、その後は登場人物が悩み苦しむ重々しい物語が延々と続く。各話ごとに盛り上がりどころを用意しているため、途中で飽きるということはないだろうが、メインストーリーが「主人公の先輩」の贖罪物語なため、感情移入という点ではやや問題がある。また、ラストへと繋がる一番のギミックである名前のダブルミーニングも正直苦しい。
 それ以上に気になるのがキャラクターの弱さだ。羽はあるが華がない。見た目の可愛さだけでなく、単純な人格の深さに関しても他作品に大きく劣る。そのせいで、グリの街が如何にも一時的な逗留場であるという感が見え隠れしてしまうのだ。萌えに傾倒してはいけないが、萌えを否定してはいけない。異性に好感を持たれるということは、それだけ人間的な魅力があるということだ。何の係わりもない赤の他人が苦しんでいても、何も感じないのが人間である。

・総論


 間違いなく、アニメ史に残る名作である。面白いのは、最初に見た時とエンディングまで達した後にもう一度見直した時では受ける印象が全く異なる点だ。具体的に言うと、一周目は主人公視点、二周目は主人公の先輩視点になる。そういった意味でも、ぜひとも二度見て欲しい作品である。

星:☆☆☆☆☆☆☆☆(8個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 21:38 |  ☆☆☆☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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