『GOSICK -ゴシック-』

主人公いらなくないか?

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GOSICK -ゴシック- - Wikipedia
GOSICK -ゴシック-とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2011年。桜庭一樹著の小説『GOSICK -ゴシック-』のテレビアニメ化作品。全二十四話。監督は難波日登志。アニメーション制作はボンズ。1924年、ヨーロッパの架空の国「ソヴュール王国」を舞台に、金髪の天才少女と日本人留学生が織り成すゴシックホラー風学園恋愛ミステリー。直木賞作家・桜庭一樹の出世作にして、ファン待望のアニメ化作品である。

・主人公


 まず、主人公がうざい。いや、もう、うざいなんて物じゃない。邪魔。アニメ的に邪魔。と言うのも、元来、ドラマの主人公は劇中世界と視聴者を繋げる案内係的な役割を担わなければならないのに、この主人公、なぜか普通の人間が当然行うべき行動を全く行わないのである。例えば、図書館の天井裏にいるはずのない少女がいた。その異様な光景に出くわした時、人は一体どういう行動を取るだろうか? 驚くのは当然として、普通の人は未知なる恐怖に対して、まずは身の安全を図ろうとするだろう。ところが、本作の主人公は「人形?」などと言って当たり前のように接触を試みるのである。こういった良く言えば「純朴」、悪く言えば「能天気」な行動が最初から最後まで頻発する。保身を考えないということは、「死の恐怖がない」ということだ。死を恐れない人間はただの人形である。魂のない人形がどんなに体を張って危機に立ち向かったところで、それは「勇気」ではなく「無謀」である。そんな者に目の前をウロチョロされても、視聴者は気持ちをシンクロさせることなどできない。
 その後、主人公はヒロインを執拗に付け回す。理由は「友達だから」と「弱い者を守るのは当然だから」の二つ。前者は別のヒロインの好意を徹底無視している時点で破綻しているし、後者はその思想自体が危険だ。ヒロインは見た目こそ子供のようだが、主人公と同い年のクラスメイトである。そんな彼女を彼は徹頭徹尾、上から目線で子供扱いし続けるのである。しかも、その態度は愛を確かめ合った後も変わらない。これは異常だ。普通の人間が取る思考方法ではない。設定上、ヒロインは愛を知らない未成熟者ということになっているが、本当に愛を知らないのは主人公の方ではないか? 今回はヒロイン側も好感を持っていたから良かったものの、下手するとただのストーカーである。

・ミステリー


 本作のジャンルは「一応」ミステリーということになっている。わざわざ、一応と注釈したのは、ミステリー以外の要素の比重が大きいことに加え、劇中で使われているトリックがあまりにも「低レベル」だからである。実際、ヒロインがあっさりと謎を解いて「単純なトリックだ」と勝ち誇る場面が多々あるが、それが本当に子供向け科学雑誌で使われそうな単純なトリックだから困る。さらに、尺の問題もあるだろうが、謎の見せ方やその解答法も全体的に拙い。ミステリーファンなら即座に片手で数え切れない量の矛盾点を列挙できるだろう。また、ヒロインがホームズよろしくパイプをくわえながら、「知恵の泉が告げている」「カオスの欠片を再構成して言語化する」とそれほど決まっていない決め台詞と共に推理を披露するが、それは状況証拠を並べて最も可能性が高いストーリーを自信満々に述べているに過ぎない。たまたま正解だったから良かったものの、例外を全て埋め切れていない時点でミステリーとしては厳しい。
 上記の決め台詞から分かる通り、本作は基本的に「安楽椅子探偵」のフォーマットを踏襲している。探偵が現場に赴かず、伝え聞いた情報だけで犯人を探し当てるタイプのミステリーだ。それを成立させるために、ヒロインを「図書館の天井裏の植物園に一人で住んでいる謎のゴスロリ天才少女」と設定しているが、その詰めが非常に甘い。安楽椅子探偵を気取るなら、徹底して浮世離れしたミステリアスな好事家にしなければならないのに、常に暇を持て余し、床に座ってお菓子を食べながら本を読むのが趣味という極めて世俗的なキャラクターとしてヒロインを描いている。この時点で、自ら設定的な面白さを捨て去っている。謎のゴスロリ少女の素顔はベールに包まれているべきで、日常的な姿はストーリーの後半にでもさらけ出せばいいのだ。もっとも、第一話の時点でヒロインが自ら現場に足を運ぶというダメダメ構成なので、何かを根本的に勘違いしていると言わざるを得ない。

・ゴシック


 綴りこそ違うが、タイトルになっている「ゴシック」とは、一般的に中世ヨーロッパのことを指す。当時は聖と俗の境目が薄く、公が個を支配し、死がすぐ隣にあった。そういった中世のグロテスク&オカルトティックな部分だけを取り出した「ゴシック小説」(例:吸血鬼ドラキュラ)が、ヨーロッパで一時期流行し、本作はそのテイストを受け継いだような作品になっている。ただし、十九世紀末のオカルトブームが終焉した第一次世界大戦後を舞台にしているため、世界観自体にゴシック的な要素は少ない。要するに、この『GOSICK -ゴシック-』という作品は「中世のオカルト的な部分だけを取り出したゴシック小説の雰囲気だけを踏襲したミステリー小説を萌えアニメ化した物」であって、本来の「ゴシック」からは程遠い作品に仕上がっている。本作において、明確にゴシックと呼べる物はヒロインのゴスロリ服だけである。劇中の殺人事件や怪談や奇術や錬金術などもどこか中途半端で、もう少しタイトルから連想されるような「おどろおどろしさ」があっても良かったはずだ。やはり、日本のアニメがヨーロッパのゴシックホラーを再現するのは、少々ハードルが高過ぎたらしい。
 ただ、最終回直前の第二十三話だけはゴシック的な魅力がある。国のお偉いさんが、ヒロインをおとぎ話に出てくる怪物「モンストル・シャルマン」に仕立て上げ、集団ヒステリーを利用して軍事国家化を図ろうとする。そのリアリティーは別にしても、この回だけはゴシック的な不気味さと不安定さが見られて面白い。視聴者は本作にこういう雰囲気を望んでいたのだ。やはり、真に恐ろしき物は幽霊でも怪物でもなく「人間の心」である。

・ストーリー


 実際のところ、ゴシック風学園ミステリーという宣伝文句は見せ球であり、その裏にはしっかりと構築された骨太のストーリーが流れている。劇中に登場する数々の事件も、全て中心軸に関係した物語であり、それぞれが伏線になっているという高度な仕掛けになっている。逆に言うと、全二十四話の連続ドラマの節々にミステリー的な味付けを加えているということだ。その観点で見れば、ミステリーやゴシックの要素が疎かになっているのも仕方ないと言えなくもない。
 ソヴュール王国オカルト省のブロワ侯爵にはある野望があった。それは、オカルトの力を用いて祖国を軍事強国化すること。その野望を果すため、彼は特別な力を持つとされる「灰色狼」の娘を妾にし、強制的に子供を産ませる。その目的は、灰色狼の血を引く子供をオカルト兵器として使うため。そして、その子供こそがヒロインである。オカルト兵器と事件の推理力がどう繋がるのか少々理解に苦しむ点はあるが、実に興味深い設定である。さすが、直木賞作家と言いたいところだが、最大の伏線である「モンストル・シャルマン」を第一話で出せていない時点で、取って付けた感が否めない。国民を集団ヒステリーにするほどメジャーな童話なら、会話の節々に登場していてしかるべきだ。長期連載の原作では仕方ない部分もあるが、アニメは連載終了後に作られたのだから、いくらでも改変することができたはず。なぜ、主人公の蔑称を「子リス」ではなく「ウサギ」にしなかったのか(モンストル・シャルマンはウサギを使い魔にする)、アニメ制作スタッフの文芸センスの無さが恨めしい。

・問題点


 結局、制作者が本作で何を描きたかったかと言うと、「ポストオカルトにおける近代化及び科学主義の勃興」である。オカルト復権の象徴たる怪物として育てられたヒロインが、実は科学信奉者であり、その論理的思考でオカルト的な物の正体を暴いて白日の下に晒し、復讐するというストーリーだ。なら、そう描けばいい。それまで迷信や怪談として捉えられてきた事件をヒロインが次々に解き明かす。そうやって、徐々にゴシックからの脱却を図り、それに反対するオカルト信奉者と対決するという単純な話にすればいいのに、わざわざ余計な横軸を加えることによって、事態を混迷化させている。それが「愛」である。
 ヒロインは地下室に幽閉されて育てられたため、恋愛・親子愛・家族愛といった物が理解できない。だが、生き別れの母親(と主人公)との出会いによって愛とは何かを知り、人として成長する。ストーリー自体は素晴らしいが、問題はその愛がオカルトと対比になっていない点である。むしろ、どちらかと言うと「愛=オカルト」であり、ヒロインの属している科学の方が愛の敵だ。それゆえ、ヒロインが成長する度に作品のアイデンティティーが崩壊し、前半でやっていたことを終盤で全否定するというひどく残念な結論になってしまっているのである。ただでさえ希薄な主人公の存在意義が揺らぐ。そもそも、母親さえいれば愛情物語は描けるわけで、実際、主人公のいない最終回近辺の方が作品としての出来がいい。
 ちなみに、ヒロイン役の声優が悠木碧で、母親役の声優が沢城みゆきである。『紅 kurenai』コンビの復活だが、演技力の面で完全にヒロインは母親に食われている。本気でアニメのクォリティー向上を目指すなら、ヒロイン役を沢城みゆきにして、母親役に既婚のベテラン声優を当てるべきだと思うのだが。

・総論


 原作を読もう。

星:☆☆(2個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 22:10 |  ☆☆ |   |   |  page top ↑
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