『四畳半神話大系』

大人向けのエンターテインメント。

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四畳半神話大系 - Wikipedia
四畳半神話大系とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2010年。森見登美彦著の小説『四畳半神話大系』のテレビアニメ化作品。全十一話。監督は湯浅政明。アニメーション制作はマッドハウス。冴えない大学生の主人公が、無駄に過ごしてしまった二年間の大学生活を取り戻すため、何度も一からサークル選びをやり直すループ系のSFファンタジー。原作・監督・脚本・キャラクター原案といずれの人物も深夜アニメ初挑戦ながら、本作はテレビアニメ初の文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞した。

・設定


 主人公の「私」は大学生。大学入学後、理想の「黒髪の乙女」と付き合うために軟派なテニスサークルに所属するが、生来の人付き合いの悪さにより孤立し、その反動から悪友の「小津」と共に他人の恋路を潰す黒い活動に精を出していた。だが、そのせいもあって、密かに恋い慕う「明石さん」にも告白できず、不毛で無意義な学生生活を過ごしたことを後悔するはめに。そこで主人公は思う。「別のサークルに入っていれば、違う人生を歩んでいたはずなのに」と。すると、なぜか大学一回生の四月まで時間が巻き戻り、主人公は新しい学生生活を何度も繰り返すことになる。はたして、主人公は黒髪の乙女と付き合えるのだろうか。
 この概略を読めば分かる通り、本作のジャンルは最近流行の「ループ物」である。その中でも、最良の結果が出るまで自らの意志で何度も同じ大学生活をやり直すという、いわゆるモラトリアム的な感情を描いた「積極的ループ」とでも呼ぶべき作品である。一度しかない人生。どの選択肢が正解かなど誰にも分からない。もしかしたら、別のルートを通っていれば、今とは比べ物にならないほど良い人生を謳歌できたかもしれない。できることなら、もう一度やり直したい。これは全人類に共通する普遍的な願望であろう。それゆえ、本作には普遍的な面白さが詰まっている。もっとも、どんなに舞台が変わろうと、演じている役者は同じ自分である。だとすると、結局のところ大して変わらないのではないか、自分自身を変えない限り人生が変化することはないのではないか、という疑問も当然生じてくる。そして、それこそが本作のメインテーマである。
 なお、原作小説は時間のループではなく、あくまで同時に存在する平行世界という設定になっている。アニメ版でもその設定を引き継いでいるかどうかは微妙なところで、時間が巻き戻るような描写もあれば、最終回では全ての平行世界が一つに集約されるような描写もある。どちらにしろ、どのルートを選んでも最終的には似たような結末に辿り着くので、あまり深く考えずパラレルな視点で鑑賞した方が、より単純に楽しめるだろう。

・大学


 本作は、上記のような主人公にとって都合の良い「何でもあり」な世界観や、常に誰かの手のひらの上で踊っているような感覚を味わう点など、世界を創造する力を持つ少女をヒロインにしたSFアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』と作風がよく似ている。もちろん、低質な『エンドレスエイト』などとは違い、サークルごとにストーリーがガラリと変化し、エンターテインメントとして見ても一級品なので安心されたし。
 ただ、それらを超える本作とハルヒの最大の相違点は、物語の舞台が「大学」であることだ。大学は、何をやってもいい「自由」があると同時に、自分から動き出さなければ何も起こらないままあっと言う間に四年間が過ぎ去ってしまう「自己責任」の場でもある。あくまで内輪の安全空間に過ぎない高校の部活と違って、大学のサークルはより社会と密接に繋がっているため、どこに入るかによって全く違う人生になってしまう。実際、期待外れのキャンパスライフを過ごし、後悔を抱えたまま社会人になったOB・OGは星の数ほどいるだろう。そのため、中学・高校を舞台にした他のモラトリアム系作品よりも、何百倍も話にリアリティーがある。
 また、学生の街・京都を舞台にしたことも良い効果を生んでいる。バンカラと言うかアナクロと言うか、雑多な下町に多数の変人が生息し、学生達が自主的に行動し、学内で秘密組織が暗躍するといった何かが起こりそうな予感のする伏魔殿的な雰囲気が、如何にも「京都の大学の学生」という感じなのだ。今時、東京に四畳半のオンボロアパートはどれだけ存在するだろうか。偏見かもしれないが、これはオシャレな関東の大学を舞台にしていたら、なかなか出せない味である。
 このように、大学を舞台にすることは設定的にも物語的にも多くのメリットがあるはずなのだが、残念ながら深夜アニメ界隈ではあまりお目にかからない。萌えアニメに限ると、パッと頭に思い浮かぶのは『ああっ女神さまっ』ぐらいな物だろう。主な視聴者層が中高生で、ヒロインを女子高生にしなければならない大人の事情があるとは言え、作品全体のことを考えるともう少し増えてもいいはずだ。

・ストーリー


 主人公の「私」は、人一倍プライドが高くて理屈っぽいわりに要領が悪く、そのせいで目の前の好機を逃し続ける冴えない男。理想の女性は古風で清楚な「黒髪の乙女」という典型的な草食系男子だ。基本的に面倒臭い人間である彼が、常に言い訳を周囲に振り撒きながら悪い方へ悪い方へと突き進んでいく様に対して、視聴者はイライラを覚えると同時に自分自身の弱さを投影して共感し、最後には自然と彼を応援している自分に気付くだろう。
 そんな主人公とどの平行世界でも友人となるのが、本作において狂言回し的役割を担う「小津」である。彼は他人の不幸をおかずに飯が食えるという根っからの捻くれ者だが、主人公とは違い、無意義なキャンパスライフを全力で楽しんでいる。一見するとどうしようもない悪党だが、自分の欲望に素直で意外と友達想いな彼は非常に人間らしく、また、好きな女性には一途な面を持つなど何とも憎めないキャラクターである。
 そして、ヒロインの「明石さん」は実に可愛らしい。一年後輩の生真面目&クールな才女で、主人公に輪をかけた変わり者なのだが、彼とだけはなぜか波長が合うようだ。理想の黒髪の乙女よりも自分を理解してくれる女性である。それゆえ、主人公とくっ付くのは彼女しかいないだろうなと序盤の段階で視聴者に思わせる演出は見事である。何より、それこそがループする最大の動機なので、第一話でそこをしっかりと強調するという構成の抜け目のなさが心憎い。
 この三人を中心にした物語は、何度もループを繰り返した後、最終的に主人公が「どのサークルにも入らない」という結論を下す。そして、半引き籠もり生活を二年間続けた結果、彼はなぜか自宅の四畳半の部屋だけがどこまでも続く世界に閉じ込められてしまう。そこは平行世界が隣り合わせになった異空間だった。やがて、他の世界の自分を見て周る内に、主人公は彼らがそれなりに充実した時間を過ごしていたことを知る。小津が自分の親友であること、不毛と思われた日常が豊穣な世界だったこと、自分がヒロインを愛していたこと、それらを理解した主人公は、ようやく四畳半世界とループを脱出し、ヒロインに告白して感動的なハッピーエンドを迎える。正確に言うと、全ての平行世界が統合されたような状態らしい。そこで、ヒロインもループを経験していたかのような演出を入れるのが素晴らしい。

・欠点


 このように非常に優れた作品なのだが、アニメーション的に見るとどうしても見過ごせない大きな欠点が幾つか存在する。まずは、本作の設定がループ物ではなく平行世界物であるという点だ。冒頭で述べた通り、アニメ版では正確には言及されていないが、最終回を見る限り、平行世界物として処理せざるを得ない作りになっている。だが、平行世界の住民は、視聴者が別の世界へ移動している間もそれぞれの人生を歩み続けるのである。それゆえ、他の世界の主人公は皆、薔薇色のキャンパスライフに失敗し、最後の主人公だけが成功したということになってしまう。そうなると、「サークルに入らないこと」が正解ルートとなり、それは「好機を逃さずに一歩踏み出すべきだ」という結論と矛盾する。もし、これがルート分岐型のアドベンチャーゲームなら、完全にクソゲーだ。やはり、ここは単純にループとしておくか、最後にもう一度、一回生の四月まで時間を巻き戻すべきだっただろう。
 二つ目の欠点がナレーションである。元が一人称の小説ということで、原作の雰囲気を再現するために主人公がモノローグで語りまくるという形式を取っている。そんなところまでハルヒに似なくていいのだが、彼が話しているのは要するに小説で言うところの「地の文」である。場面説明と状況説明、そして、心理説明だ。だが、映像作品とはそういった説明を「画」で行うから映像作品なのである。言葉で全て説明してしまうなら、それこそ小説を読んでいればいい。しかも、本作の演出はあまり捻りのない直接的な物が多い。部長が部を支配している状況を表現するために、ナチスドイツ風の画を入れたりする。小津の見た目は爬虫類のようだとナレーションを入れながら、実際の画も爬虫類化した小津を描くなどといった幼稚な演出もある。自らアニメーションの映像作品としてのプライドを捨て去るような行為には、評価を下げざるを得ない。
 そして、最後の欠点。それは万人向けではないということだ。実際に人生を無駄にしたという経験がないと、なかなか主人公には共感しづらいだろう。そういう意味でも、本作は純粋に大人向けのエンターテインメントである。

・総論


 作品としてはほぼ完璧である。だが、明らかにおかしな点が複数あるため、その分を減点とした。何にしろ、アニメファンを自称するなら見ておくべき作品である。

星:☆☆☆☆☆☆☆☆(8個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 22:39 |  ☆☆☆☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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