『みなみけ』

不安定な不安感。

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みなみけ - Wikipedia
みなみけとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2007年。桜場コハル著の漫画『みなみけ』のテレビアニメ化作品。全十三話。監督は太田雅彦。アニメーション制作は童夢。番組冒頭の前説によると「この物語は南家三姉妹の平凡な日常を淡々と描く物です。過度な期待はしないで下さい」とのこと。言い訳から入る作品というのも珍しい。

・キャラクター


 本作は高校生の長女、中学生の次女、小学生の三女という南家の美人三姉妹を中心とした日常系ギャグアニメである。長女の「春香」は、品行方正・学業優秀・スポーツ万能の完璧超人。一家の主として家事を一手に引き受けている。普段はおっとりとしているが、怒らせると怖い。ただし、少々間が抜けているところも。次女の「夏奈」はトラブルメーカー。何か行動する度に騒動を巻き起こすタイプの人間だが、明るくてさっぱりとした性格なので性別・年齢問わずに友達が多い。そのため、意外と男子にモテるものの本人にその自覚はない。三女の「千秋」は、無口で何を考えているか分からないクールキャラ。口癖は「バカ野郎」。しかし、実は可愛い物好きで甘えん坊。まだまだ、子供っぽいところが残っている。
 以上、書いていて嫌になるぐらいベタなキャラクター設定である。もちろん、王道が一番ということは理解しているが、オリジナル作品として世に発表する以上、何かもう一捻りが欲しいところだ。例えば、姉妹の性格を一つずつズラすだけで、それは全く新しい物になるだろう。そこまでやらずとも、家の外と内で微妙に性格を使い分ければ随分と印象が変わるはずだ。逆に姉妹に共通する癖などを持たせて、血縁の関係性を強化しても面白い結果になるかもしれない。もっとも、そんなことをしても結局は「次女の暴走に三女が巻き込まれて長女が諌める」というありがちなパターンに回帰するわけで、全体的に低レベルなCVも含めて、どこか底の浅さを感じざるを得ないのが素直な感想である。

・内容


 ただ、三姉妹の物語と言いつつ、実は彼女達が話の中心になることは少ない。各々、通っている学校が違うこともあって、三人揃って画面に登場すること自体が稀だ。それゆえ、「南家三姉妹の平凡な日常」という謳い文句に惹かれて視聴し始めると間違いなく後悔することになる。
 実際、本編のストーリーは三姉妹よりも彼女達の友人が中心になる。あくまで三姉妹はホスト役であり、その周辺で巻き起こる個性的なゲストによるドタバタ話がメインだ。それは言い換えると、外部の変わり者が加わらないと物語にならないということである。そのため、話を進める度に無節操に人員を補充していった結果、気付けば劇団並みの大所帯になっている。複数世代間の人間関係を描いた物語として見ると価値はあるが、やはり行き当たりばったり感は否めない。
 ネタのジャンルとしては、シュール系と呼ばれる物に近い。単純なボケとツッコミではなく、ボケにボケを重ねたり、そのまま何事もなかったように通過したりする。リアル顔や劇中劇などの不条理な小ネタは、ウケる人にはウケるのだろうが……。基本的に、登場人物は自分に甘くて他人に厳しい人間が多く、意地悪く足を引っ張り合うことによってギャグが成立する。また、『みつどもえ』と同様に勘違いネタも多用する。ただし、本作が他作品と決定的に異なるのは、そのネタをいつまでも引っ張り続けることだ。例えば、三女の男友達が長女と知り合うために女装するという誰がどう見ても出オチの一発ネタを、後の回でも延々と使い回すのである。良く言えば話に連続性があるということだが、悪く言えば引き際を理解していないということだ。これに限らず、本作は非常に内輪色が濃く、途中から参加するにはハードルが高い作品である。

・家族


 本作を初めて見た視聴者が必ず抱く疑問は、「三姉妹の親はどうした?」ということだ。アニメでは当然、長期連載中の原作でも一度も出てこない。しかも、他の萌えアニメのように子供同士の連帯感を高めるために意図的に存在を隠しているのではなく、物理的にいないのである。全ての家事を子供達が担当しており、家計の心配をするシーンもあることから、現在の南家には三姉妹しか住んでいないのは確かなようだ。それが物故したのか失踪したのか離れて暮らしているのかは、全く事情説明がないので分からない。前者だとしたら生活費の問題が浮上するが、そんな物は些細なことである。何より問題なのは、親がいないにも係わらず、それを一切話題にせず、極当然のことのように振る舞っている三姉妹の「不気味さ」である。ありがちな「両親の海外赴任」で何の問題もなく、亡くなったなら亡くなったで仏壇の一つでも映していれば誰も同情しないのに、まるで最初から存在しないかのように淡々と日常を過ごしているのは、サイコホラーと言われれば納得してしまう光景である。
 なぜ、このような異様な状況になっているのか、その理由を一言で言うと「わざわざ描く必要がないから」ということになろう。描きたいのは子供達の話であって、親がどうこうという話題にはまるで興味がないから描いていないだけという単純な理由だ。気持ちは分かる。しかし、人が人である以上、親という存在は避けて通れないし、特に本作の場合は主役に「小学五年生の女の子」を抱えているのである。にも係わらず、面倒だから親のことを描きたくないというのは作者のわがままでしかなく、結果的に残るのはキャラクターのアダルトチルドレン化、つまり、人間らしさの欠如である。「創造上の育児放棄」と呼んでもいいだろう。キャラクターの生みの親として、その行為は少し不義理ではないだろうか。

・三


 本作のヒロインは春香、夏奈、千秋の三姉妹である。当然、「冬は?」という疑問が湧き上がる。ユング心理学を持ち出すまでもなく、四が完成された状態であり、三はその前段階の未完成の状態だ。そのため、常に誰か一人足りないかのような不安定さ=不安感を覚えるのである。普通に考えると、設定段階でもう一人家族を増やして春夏秋冬の四姉妹にするだろう。では、なぜ、本作はそうしなかったのだろうか。
 その違和感は「冬馬」というキャラクターの登場によって、さらにフォーカスされる。冬という名前の付いた彼女が三姉妹の輪の中に加わることによって、画的にも心理的にも非常に安定するのである。彼女が非常にボーイッシュな外見・性格であることも、3+1という形になってバランスがいい。しかし、所詮は別の家の子。彼女がいなくなると、かえって不安定さが浮き彫りになる。
 逆に考えてみよう。意図的かどうかは別にして、この一人足りない状態が必然だったという考え方だ。つまり、わざと不安定な状態を作り出し、そこへ誰かが入ってくるのをずっと待ち続けているのである。それは誰か? その解答は、萌えアニメという物を長年見続けてきた人ならすぐに導き出すことができるだろう。もちろん、「読者&視聴者」である。視聴者が彼女達の中に加わって一緒に楽しい時を過ごす、そのために席を一つ空けて待っていてくれるのである。本作が人気である隠れた理由がそこにある。

・総論


 作画が綺麗で女の子も可愛いが、肝心のキャラクターの人間性が薄く、ギャグも人を選ぶ。そのため、どこを褒めたら良いのかよく分からない作品である。キャラクターデザインが好みで、本作独特のノリに付いて行けるという人にはオススメだが、三姉妹の物語に期待して視聴しようと思った人は、悪いことは言わないからやめておいた方がいい。ちゃんと心温まる家族愛を描いた名作は世の中に幾らでもあるのだから。

星:☆☆(2個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
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