『ご愁傷さま二ノ宮くん』


御愁傷様。

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ご愁傷さま二ノ宮くん - Wikipedia
ご愁傷さま二ノ宮くんとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2007年。鈴木大輔著のライトノベル『ご愁傷さま二ノ宮くん』のテレビアニメ化作品。全十二話。監督は吉川浩司。アニメーション制作はAICスピリッツ。ある日突然、サキュバスの女の子と同棲することになった高校生がアダルティックな日常を送るハーレムラブコメ。某所において、なぜか全話削除されずに生き残っていることで有名。どことは言わないが。

・サキュバス


 本作は、女性淫魔ことサキュバスのヒロインを中心としたハーレムアニメである。この一文を目にした瞬間、サブカル業界に詳しい人はうんざりとするだろう。なぜなら、サキュバスという題材は、エロゲーやエロ漫画などの二次アダルトの世界では飽きるほど繰り返された定番中の定番ネタだからだ。分かり易い例を挙げると、無料エロゲーとして名を馳せたアリスソフト制作の『しまいま』は、サキュバスの姉妹をヒロインにした作品である。なぜ、これほどまでに好まれるかと言うと、その特性である「男性から精を奪って生きる」「誘引能力を持つ」「グラマラスな絶世の美女」といった要素が、エロティックな物語を構築するのにまさに打って付けだからだ、当然、ストーリーは、突然どこからか降って湧いたサキュバスの生命維持のために、主人公が嫌々ながら(喜んで?)性的に協力するという流れになる。性質上、基本的には性に恋に積極的なヒロインが多い。もちろん、中には大人しいサキュバスも存在するが、結局やることはやらないといけないため、そのギャップが萌えを生んだりもする。どちらにしろ、二次アダルトの世界においてこそ、その魅力を最大限に発揮する素材であり、いくら無法地帯と化した現在の深夜アニメでも使いこなすのは困難だろうというのは想像に難くない。
 ちなみに、本作中でこれらのサキュバスの特性が詳しく説明されることは一切なく、主人公も極普通のこととして受け止めている。どうやら、アニメファンなら知っていて当たり前の知識ということらしい。今更ながら恐ろしい業界だ。

・ヒロイン


 ヒロインの月村真由は、高校生離れした肢体を誇る天然ボケのサキュバス(正確にはサキュバス能力を持った普通の人間)。にも係わらず、修道院で育ったため男性恐怖症である。未熟さゆえにサキュバス能力を制御できず、情緒不安定になると暴走して周囲の男性を見境なく誘引してしまう。そのため、男性恐怖症克服の特訓と称して主人公と寝食を共にすることに。ただし、キスは相手の精を根こそぎ奪ってしまい、命の危険があるのでNG。とは言え、サキュバスである以上、いつか精を奪わなければ死んでしまうのだが。
 と、こうやってまとめてみても、よく意味の分からない設定である。まず、彼女にとっての一番の問題は「能力を制御できないこと」であって、男性恐怖症はその原因の一つに過ぎない。そもそも、男性恐怖症が原因で男性を惹き付けるというのも辻褄が合わない。普通は逆だろう。「男が寄って来るから男性恐怖症になった」か「男性恐怖症だから男が寄って来ない」にしなければならないはずだ。それを克服する特訓にしても、なぜ主人公と擬似恋愛ごっこをすることで男性恐怖症が治るのか理解不能。最初から主人公に対して何一つ恐怖心を抱いていないではないか。そして、最大の謎は精を奪うことだ。何が謎って、本人を含む誰一人としてそれを話題にしないので、物理的に何が何だかさっぱり分からないのである。お前ら、ヒロインが死んでもいいのか?
 要するに、「サキュバス」「男性恐怖症」「情緒不安定」「暴走」「特訓」「サキュバス能力」「精を奪う」といった各ピースが完全に分離独立しており、一つの文章になっていないのである。物語として成立させようと思ったら「サキュバスのくせに男性恐怖症なせいでサキュバス能力が発揮できず、男性から精を奪えないため、一人前のサキュバスとして自立できるように性的に特訓する」としなければならないだろう。そして、そのテーマを話の軸に据え、それに沿うように物語を構築して初めて作品としての体を成すのである。本作はそんな基本的なことすらできていない。はっきり言って、小学生レベルの国語能力である。本当にプロの仕事だろうか?

・主人公


 本作の主人公は、ライトノベル原作のハーレムアニメらしい典型的な巻き込まれ型やれやれ系キャラクターである。なぜか、女性にモテモテだが、彼女達の好意が理解できないほど頭が鈍い。いや、鈍いどころか、本作の主人公は完全に不感症である。ただ、そのおかげで彼一人だけヒロインのサキュバス能力に耐性があった(過去の事件絡みで免疫ができていたと取ることもできるが、詳細は不明)。もっとも、劇中で「このままでは理性が持たない」と発言していることから、普段は理性で性欲を抑えているらしい。意味が分からない。性欲が弱いのと性欲を抑えているのとでは、似ているようで全く正反対の事象なのだが。この辺りは物語の根幹に係わることなので、制作者は「朴念仁」の一言で適当に誤魔化さずにしっかりと描いて欲しい。
 また、同時に主人公は超人的な身体能力を持つ格闘技の達人である。いやはや、ご都合主義な妄想もここまで来るとご立派である。一言で言うと「幼稚」なのだが、それを言ってしまうと元も子もないので、「皆が童心に返る夢の国」ということにしておこう。なお、その身体能力が物語的に必要不可欠かと言うと、決してそうではない。むしろ、真面目な優等生タイプの主人公の方が何倍も面白くなったはずだ。

・ストーリー


 上記の二人に、北条麗華という主人公のことが好きな財閥のお嬢様を加えた三人の男女によるちょっぴりHなドタバタ系ハーレムラブコメが本作の趣旨……のはずだが、ぶっちゃけ大して面白くもないし、エロくもない。何より、キャラクターの個性が異常なほど弱い。その理由は明白で、設定がただの舞台装置でしかなく、物語の中に全く絡んで来ないからである。「情緒不安定になるとサキュバス能力が制御できなくて男性を見境なしに惹き付けてしまう」という基本設定は、第二話の時点で綺麗さっぱり忘れ去られる。以後、その能力が顔を出すことは「一度も」ない。謎の軍隊に捕えられた時ですら出ないのだから、制作者も忘れているのだろう。もっとも、設定に筋が通っていない時点で、話に絡めようがないのも事実である。
 本来、この手の話は、サキュバスに誘惑される主人公とそれを阻止しようとする女性の三角関係にならなければならないはずだ。だが、本作はサキュバス能力が全く生かされないばかりか、サキュバスである必要性すらないので、ただ単に天然ボケとツンデレの女の子のつまらない漫才になってしまっている。つまり、個性も独自性もないただのテンプレキャラの見本市ということだ。「男性恐怖症のサキュバス」「メイドをするお嬢様」といった変り種設定は見た目だけで、それがギャグや萌えに昇華されることはない。言ってみれば、ヒロインを他の天然巨乳キャラ、例えばハルヒの朝比奈みくる辺りに置き換えても全く話に支障はないだろう。これは制作者にとって最大の屈辱だと思うのだが、どうだろうか?
 ちなみに、指摘すらしたくないのだが、ヒロインが主人公を好きになった明確なポイントが何もない。気付けば惚れている。いや、本当に惚れているのか? 何かの心の病気なんじゃないのか? これを「ラブ」コメと言い張るのだから恐ろしい。

・もしかして:


 最終回近辺は、急に思い出したように男性から精を奪わないとヒロインが死んでしまうという話になる。こうやって安易に「死」という問題を持ち出すことで、かえって話を軽くしていることになぜ気付かないのか。なお、十年前の過去話やそのトラウマでもう一人のヒロインがサキュバス能力を持つ二重人格になった(意味不明)という話もあるのだが、大して盛り上がらないので省略。それより問題なのは、キスで相手の精を奪い、奪われた方は命の危険があるという点である。つまり、精力と言うより人間の根源的な生命力として描いている。はっきり言おう。それはサキュバスではなく、「ヴァンパイア」の特徴である。サキュバスが相手の精力を奪うというのは、物理的にエネルギーを奪うのではなく、性的に懐柔するということである。最終的に、そもそも制作者がサキュバスというものを理解していないという衝撃の事実が明らかになる。
 その後、何やかんやで助かったヒロインが、エピローグでとんでもないことを口走る。「私、今はまだ自分の力も制御できないダメなサキュバスですけど、いつかきっと男性恐怖症を治してみせますから」と。何度も言うが、彼女が抱えている数多くの問題の中で、男性恐怖症は非常に些細なことである。男性から精を奪わないと死ぬんだろ? 奪われた男性は下手すると死ぬんだろ? これからどうするんだよ!? 以上、物語と何の関係もないテーマを当然のように語って締めくくるという「これぞクソアニメ」な素晴らしいエンディングである。

・総論


 本作のようなリアリティーの欠片もないアダルティックハーレムアニメを好む層がいるのは事実なので、そのことに対しては言及しない。ただし、本作はあまりにも初期設定の練り込みが甘く、それゆえ、その設定が物語に全く絡んで来ないという致命的な欠陥が存在する。世の中には、サキュバスという特殊設定を生かしたエロくて面白くてヒロインが可愛い作品は幾らでもあるので、そちらを見るのが吉である。

星:★★★★★★★(-7個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 22:36 |  ★★★★★★★ |   |   |  page top ↑
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