『空を見上げる少女の瞳に映る世界』

黒歴史。

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MUNTOシリーズ - Wikipedia
MUNTOとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2009年。オリジナルテレビアニメ作品。全九話。監督は木上益治。アニメーション制作は京都アニメーション。他人とは違った景色を見ることのできる少女の元へ異世界の王が現われ、共に世界を救うように頼まれる青春異世界冒険ファンタジー。京都アニメーションが自社製作したOVA『MUNTO』『MUNTO 時の壁を越えて』に新作カットを加えて再構成したディレクターズカット版。なぜか(略)シリーズ第四弾。

・失敗作


 人気シリーズを大胆にアレンジした『フルメタル・パニック? ふもっふ』で注目を集め、美少女ゲームをアニメ化した『AIR』で方向性を確立し、言わずと知れた『涼宮ハルヒの憂鬱』で一時代を築いた京都アニメーションが、『Kanon』『らき☆すた』『CLANNAD』といったヒット作の後に続いて、同社の原点である自社製作OVA『MUNTO』シリーズをテレビアニメ化した作品。そして、現時点ではほぼ同社唯一の営業的な「失敗作」である。そもそも、『MUNTO』シリーズ自体がたった二話で打ち切られた企画であり、お世辞にも成功したとは言い難い作品だ。そのため、本作が作られたのは、良く言えば何としてでも最後までやり遂げるという制作者の熱い意地、悪く言えば廃品のリサイクルである。
 そんなテレビアニメ版は、OVA版に新規エピソードを加えた物に、本来OVAで発表されるはずだった完結編(後に映画化された)を加えて全九話のストーリーに再構成されている。ただ、打ち切られる企画などは往々にして根本的な部分に問題を抱えている物だ。それゆえ、全編を通してひどく不出来な作品になってしまっている。しかも、OVAを強引にテレビアニメ化したことによる予期せぬ弊害も生まれている。つまり、本作はOVA版の問題点、テレビアニメ版の問題点、映画版の問題点という三つの欠陥を抱えているのである。

・共通の問題点


 本作の最大の欠点は、間違いなく「設定がよく分からない」ことである。いや、基本設定自体は実に単純だ。時空を隔てた平行世界にもう一つの地球があり、その上空には天上界が浮かんでいる。だが、それを支える根源のエネルギーである「アクト」が失われたことにより、天上界は崩壊の危機に瀕していた。平行世界の出来事は現実世界にも影響を与えるため、このままでは両方の世界が消滅してしまう。この危機を救えるのは、無からアクトを生み出す能力を持ったヒロインだけ、という王道の異世界召喚物である。こんな簡単な話なのになぜ理解できないかと言うと、上記の設定が全て「台詞」で語られるからである。しかも、あまり必要のない情報まで全てストーリーの序盤に口頭で説明されるため、頭の中で整理するのに時間がかかる。一方、その間、画面では何をやっているかと言うと、延々と見た目は派手だが中身のない戦闘シーン。これでは理解しろという方が無茶だ。
 要するに、本作には「物語」がないのである。ただ単に設定を並べているだけで、「なぜ、そうなるか」をエピソード形式で描いていないため、今、キャラクターが何をやっているのかすら分からないのだ。第六話の冒頭で、主人公が「そんなことをすれば、それを拒絶するユメミの心が時空の壁と反発し合い、どちらの世界も跡形もなく崩壊することになるぞ」と説明口調で事の重大性を語るが、この台詞を聞いて「それはやばい」と感じる視聴者がいるだろうか? 要はアプローチが逆なのだ。風変わりな舞台上で普通の人間が取るはずの行動をキャラクターにちゃんと取らせれば、設定など後から付いてくる物である。特に本作は尺の限られたショートアニメなのだから、設定など後回しで、描くべき物語を前面に出すべきだったのではないだろうか。

・OVA版の問題点


 では、本作の描くべき物語とは何だろう。平凡な日常の裏では激しい戦争が行われており、それが原因で現実世界まで崩壊の危機に瀕している。だが、それに気付いているのはヒロインだけ。つまり、迫り来る世界の終焉を描いた「終末論」である。しかし、本作は、なぜかそこへ中学生らしい自分探しストーリーを加えているため、ひどくテーマがぶれてしまっている。それゆえ、現実世界の空気と異世界の空気が完全に乖離しているのである。しかも、両世界の作画のギャップがあまりにも強過ぎて、違和感が果てしない。具体的に言うと、現実世界は『新世紀エヴァンゲリオン』風デザインだが、異世界は九十年代のライトファンタジー風、つまり、『スレイヤーズ』や『天地無用!』風デザインなのである(異世界はヒロインの夢の世界でもあるので、古いファンタジー系なのは意図的な物なのだが、それでも違和感が大き過ぎる)。それらが激しい爆発と共にニアミスするのだから、はっきり言って「コント」である。わざわざOVAを買って、そんな物を見せられたら堪らない。
 では、どうするべきだったのだろうか。終末論がテーマなら、平凡な日常が徐々に壊れていく恐怖を一番に描かなければならない。空から落ちてくる柱、接近する浮遊大陸。その異変の正体を唯一知っているヒロインが、現実世界を破滅から救うためにどう行動するかが本作の話の肝だろう。よって、異世界の様子を詳細に描く必要は全くない。精々、ヒロインの夢の中か、もしくは幽体離脱的な剥離した意識上で描けばいい。でなければ、ヒロインの「他人には見えない物が見える」という設定が生きてこないだろう。今のままでは、何のためにヒロインを出したのかさえ分からない。本作には「物語がない」というのはそういう意味である。

・テレビアニメ版の問題点


 テレビアニメ版の第六話前半までは、OVA版二巻に新規エピソードを追加して再編集した物である。具体的に何を追加したかと言うと、説明用テロップと戦闘シーンと回想シーンとその他諸々の補足シーンである。いずれも物語的に絶対必要というわけではなく、ただストーリーの助長さを増しただけになっている。特に回想シーンの扱いは酷く、当然のように台詞で全てを説明してしまうのは、OVAの失敗から何も学んでいないということか。第二話の冒頭などは、たださえ長い主人公の友人のボーイフレンドの一人語りに、さらに回想シーンを追加しているため、完全に彼のワンマンショーと化している。しかも、純度100%の中二病なので苦痛以外の何物でもない。誰が得するんだ。そんなところに力を入れている暇があるなら、明らかに説明不足で超展開を起こしているOVA第一巻のラスト(テレビアニメ版の第三話)に至る伏線をもっと詳細に描くべきだろう。
 なお、新規作画は最近の京アニ風、つまり、『けいおん!』風である。要するに、一つの作品の中に『けいおん!』画と『新世紀エヴァンゲリオン』画と『スレイヤーズ』画が混在するというとんでもなくカオスな状態になっているということだ。さらに言うと、次回予告のナレーションはなぜか現代風ギャグである。もう、何だ。いろいろときつい。

・映画版の問題点


 さて、ここまでは、言ってみれば商品としての問題点であり、「これではOVAは売れないだろうなぁ」というレベルの欠点だ。だが、完結編として新たに付け加えられた第六話の中盤以降は、完全にアニメ作品として崩壊しており、看過できない状態にまで到達している。
 本作のストーリーは、夢見がちなヒロインが心の世界と向き合うことで現実との折り合いを付ける成長物語のはずだ。しかし、元々、第一話から台詞だけで全てを説明してしまう作品だったのに、回が終盤へ移行するにつれ、それさえもなくなってしまう。最後に残るのは、それっぽい「単語」だけだ。「心」「鏡」「世界」「未来」といった耳当たりの良い単語をどこかの宗教セミナーのように連呼して、無理やり場を盛り上げようとする。当然、物語的にはさっぱり訳が分からないのだが、脚本家の頭の中だけでは成立しているらしく、視聴者を放置してどんどん先へ進む。そして、最後は謎の友情パワーと謎の爆光で全てが丸く収まる。これはまさに駄作と名高い映画『少林少女』の手法だ。いくら中高生がメインターゲットでも、これでは騙せないだろう。
 また、ラストシーンでは敵が一人だけになり、登場人物も全部で五人になる。最初の方は大規模な軍隊と戦っていたはずだが、物語が進むごとに話のスケールが小さくなるという何とも斬新な演出だ。この感覚、同じく駄作と名高い映画『ゲド戦記』を髣髴とさせる。ただし、その五人に世界の命運がかかっているのだからやるせない。セカイ系と言えば聞こえはいいが、世界の危機を中学生の自分探しに置き換えているのだから悪質である。確かに、心の持ち方一つで瞳に映る世界(異世界)は良くも悪くもなる。だからと言って、現実世界の形は変わらないし崩壊もしない。「子供が思うほど世界は単純ではない」と教えるのも大人の大切な役割ではないだろうか。
 最後にエピローグにおけるヒロインのモノローグを全文転載しよう。これを読めば、本作の全てが分かるという名文である。「目には見えない人の心。その姿を知りたくて、人は心に形を与えた。その形は人、その形は世界。その心の形を私は見る。怖いけれど、逃げ出したいけれど、私は鏡の前に立つ。映されているのは私の心。そこに立つ姿はありのままの姿。似合わない服を着てるし、髪型は変。ちっとも可愛くない。本当、泣けてくる。それでも、私はそこに立って、映る姿をただ見つめる。もちろん、葛藤はある。落ち込んだりもする。だけど、それもいつか静かになって、素直な気持ちになれて、そんな自分を受け入れられるかなって思えてくる。それが終わった時、私は勇気が持てて、次の一歩を踏み出せる。その一歩が私を変える。その小さな勇気を映した姿は、いつか心にも届く。心の姿が変わっていく。世界の形が変わっていく。世界は美しくなれる。美しい世界を映して、心はもっと強くなる。私、強くなる。みんなと繋がって、みんなと一緒に」……お前は何を言っているのだ?

・総論


 全ての事象を台詞と単語だけで説明するという駄作のサンプルのような作品である。一度ズッコケた物を、よせばいいのにリサイクルして、さらにズッコケるという前人未到の離れ業を演じてみせた。作画は良いので、何も考えずにヌルヌル動く戦闘シーンだけを目当てに鑑賞するのがいいだろう。間違っても、本作に燃えや萌えを期待してはいけない。

星:★★★★★★(-6個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 21:59 |  ★★★★★★ |   |   |  page top ↑
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