『恋風』

気持ち悪い。

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恋風とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2004年。吉田基已著の漫画『恋風』のテレビアニメ化作品。全十三話。監督は大森貴弘。アニメーション制作はA・C・G・T。十数年ぶりに再会した歳の離れた兄妹による禁断のラブストーリー。ケータイ小説の『恋空』とは何の関係もない。

・妹


 本作の主人公は二十代後半の会社員。ヒロインは高校一年生の妹。二人の年齢差は十二歳。両親が離婚したことで十年以上離れて暮らしていたが、妹の高校進学を期に一緒に暮らすことになる。最初はギクシャクしていたが、いつしか二人は互いを意識し合うようになり、そして……。
 妹萌えというジャンルを打ち立てた金字塔である企画『シスター・プリンセス』が発表されたのは2000年。その後、2001年の『みずいろ』、2002年の『D.C. ~ダ・カーポ~』といった十八禁美少女ゲームによって第一次妹ブームが起こり、そして、そのブームの集大成たる書籍『「妹ゲーム」大全』が発売されたのは本作と同じ2004年である。それゆえ、本作はちょうど妹ブームの真っ只中に発表されたことになる。ただし、当時の妹物は業界団体の自主規制によって、そのほとんどが血の繋がらない「義妹」であり、そんな中、ある意味イレギュラーな存在である漫画・アニメで実妹との近親相姦が描かれたのは興味深い。なお、「コンピュータソフトウェア倫理機構(ソフ倫)」が近親姦を再緩和したのは同年のことであり、また、この頃を境に妹ブームは姉ブーム・ツンデレブームへと変遷を遂げ、2010年代の第二次妹ブームへと繋がっていく。
 そのような時代背景を持つ本作は、近親相姦物として見ると極めて基本に忠実なストーリーである。ネット上に無数に散らばる近親相姦体験談を探せば、本作と似たような話は幾らでも転がっているだろう。逆に言うと王道であり、その手の趣味の人間からは受け入れられ易い内容のはずなのだが、ある一点がネックとなって人々を遠ざけていた。それは主人公が恐ろしく「気持ち悪い」ことである。

・春


 主人公は恋人に振られたばかりの二十代後半の男。そんな彼が、定期券を落とした一人の女子高生と出会ったことから物語が始まる。彼女に何かを感じた主人公は、後日、たまたま持っていた遊園地のチケットでデートに誘い、そこで失恋の悲しみを癒してもらう。その後、彼女が自分の妹であり、これから一緒に生活することを知る。その日から主人公の苦悩と葛藤の日々が始まるのだった。
 長年離れて暮らしていた妹と一緒に暮らすことになった。その状況に対して戸惑うのは当然だろうが、それにしても主人公の言動が実に気持ち悪い。最初からヒロインのことを妹として見ておらず、異性慣れしていない中学生のような痛々しい反応をする。もちろん、「別々に暮らしていた妹」「久しぶりの女性の家族」「現役女子高生と同棲」「遊園地での一件」「妹の容姿の良さ」といった不安要素が一気に押し寄せ、頭がパニックになるのは分かるが、だからと言って、いろいろな過程をスルーして済し崩し的に妹を性的な目で見るのはどうだろう。これでは、妹を別れた彼女の代用にしているようにしか取れない。
 要するに、一言で言うと「童貞臭い」のである。とてもじゃないが、つい最近まで恋人と付き合っていた二十代後半の男には見えない。しかも、外見が山のような大男で、口調もボソボソしゃべり、対するヒロインは幼児体型で子供っぽいので、さらに犯罪チックな光景になってしまっている。これが、汗臭い男子学生が主人公なら理解できる。性欲と恋愛を勘違いし、若気の至りで実の妹に対して性的な感情を抱くこともあるだろう。だが、酸いも甘いも知っているはずの大人がこれでは、画的に奇怪なだけで視聴者の感情移入は難しい。もっと言うと、本作のテーマとも矛盾する。
 結果論だが、プロローグの時点で二人をもっと親密にさせておけば、こうはならなかっただろう。つまり、兄妹だと判明する前に何らかの肉体的接触を持たせていれば、主人公が思い悩む必然性が生まれるのである。下手に純愛にこだわったせいで、全てが後手に回っているのは非常にまずい。

・秋


 季節が流れ、秋になると主人公の奇行も一旦収まり、平穏な日常が訪れる。すると、今度は妹の方が重度のブラコンを発症して、兄への想いを募らせる。気持ち悪い兄と違って、妹の感情は実に分かり易い。分かり易過ぎてドラマ的な面白さは少ない。要は思春期にありがちな「お兄ちゃん幻想」だ。離れて暮らしている内に、兄に対する憧れが膨らみ、自分の中で勝手に理想像を形作る。そこに思春期特有のいわゆる「恋に恋する」状態が加わって、兄妹を対象にした擬似恋愛に発展する。ただし、あくまで目的は恋愛ドラマの主人公に為り切ることなので、自分から告白しておきながら、現実的に兄に抱き締められると逃げ出すという身勝手な行動を取る。まぁ、それも思春期らしさだろう。
 これも含めて、本作の最大の欠点は「エロさが足りない」ことである。具体的に言うと、物語を成立させるためには妹をもっと肉感的に描かなければならないのだ。体は大人なのに心は子供という思春期のアンバランスさがあって、初めて妹の心情にリアリティが生まれるのである。本作のような中学生以下にしか見えない容姿だと兄も間違いを犯しようがなく、話の説得力に欠ける。また、後の初体験のシーンも、いきなりブラックアウトでは背徳感も何も感じない。『ヨスガノソラ』まで行くとやり過ぎだが、ある程度のベッドシーンは必要だ。年代的に仕方ないとは言え、どうでもいい萌えアニメに性的な要素を持ち込み、ちゃんとした恋愛ドラマからは排除するというアニメ業界の歪さはどうにかならない物か。

・冬


 以降、主人公は徐々に壊れていく。ただ、こちらは実際に妹に告白された後なので仕方ないと言えば仕方ない(大人とは思えないのは確かだが)。苦悩する主人公は家を出て一人暮らしを始め、会社にも行かなくなり、身なりもボロボロになる。そして、会社の同僚との一悶着があった後、ついに妹の好意を受け入れ体を重ねる。最終回では、晴れて恋人となった二人が思い出巡りをしてエンディングを迎えるのだが、これからも関係が続いて行くのか、それとも普通の兄妹に戻るのか、どちらとも取れない微妙な終わり方になっている。「視聴者の想像に委ねる」と言えば聞こえはいいが、結局は「投げた」ということだ。本作のように社会的に難しい問題を扱った場合、何か一つでも制作者の意見を出さないと、ただ単に「自分達の手には負えなかった」で終わってしまう。全十三話もかけてそんな物を見せられては堪った物ではない。
 問題点をまとめると、本作には物語の軸がないのである。「失われた兄妹の絆を取り戻す物語」なのか「離れて育った兄妹が互いを異性として認識する物語」なのか「子供の純粋な気持ちを受け入れる大人の物語」なのか「禁断の恋に目覚めた人々が壊れていく物語」なのか。そういうことを決めないまま適当に恋愛ドラマを立ち上げているため、ただ兄妹間の近親相姦を淡々と描いただけになっている。公式では「本当の恋」などと謳っているが、それこそ眉唾物だ。子供の妹が純粋な恋で、大人の兄が不純な恋なのか? 上記の通り、主人公は精神的にひどく子供っぽい。逆に、妹の方こそ幻想恋愛なので不純だ。このテーマで話を描きたいなら、まず、先に「本当ではない恋」をしっかりと示さなければならないだろう。このように大人と子供という対立軸が曖昧なことが、内容の過激さに反して、本作がいまいちマイナー作品である一番の理由に違いない。

・総論


 これがテレビドラマだったらそれなりに衝撃的なのだろうが、サブカル業界では当時ですら使い古された定番ネタなので、評価としては中の下と言った辺りになるだろう。歴史的な価値はあるが、作品としては中途半端で面白みもない。また、スペースの都合で割愛したが、全体的に作画(パース)も悪く、アニメーションとしても微妙。最初から主人公を高校生にしておけば全てが丸く収まっただろうに。

星:☆☆(2個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 20:17 |  ☆☆ |   |   |  page top ↑
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