『侵略!イカ娘』

奇跡的なつまらなさ。

公式サイト
侵略!イカ娘 - Wikipedia
侵略!イカ娘とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2010年。安部真弘著の漫画『侵略!イカ娘』のテレビアニメ化作品。全十二話。監督は水島努。アニメーション制作はディオメディア。謎の海洋生物「イカ娘」が、海を汚す悪しき人間界を侵略して我が物にしようと奮闘する日常系ドタバタコメディー。一回三話構成という某国民的アニメを思わせる作りが特徴で、作風も大体似ている。たぶん。

・つまらない


 イカ娘と言えば、つまらない。つまらないと言えば、イカ娘。ネット界隈ではすでに代名詞のような扱いを受けている。これだけ聞くと、どんなに粗悪で低俗な作品かと想像するだろうが、実際はそうではない。本作よりつまらない作品は星の数ほど存在するし、いわゆる見るに堪えないクソアニメとは一線を画している。では、なぜ本作だけがそう呼ばれているのかと言うと、この「つまらない」は一種の褒め言葉のような物で、イカ娘という作品の持つ独特の雰囲気やストーリーの壊れ具合を表すのに、他に適切な言葉が見つからないという意味においてのつまらなさだ。本当は非常に面白い……ということもなく、本当につまらないのだが、だからと言って批判に値するような作品ではなく、好調なセールスが示す通り万人に好かれたアニメである。つまり、男子小学生が照れ隠しで好きな女の子をいじめるように、あえて辛辣な言葉を使うことによって愛情を確認している。もっとも、作品の出来としてはいろいろと問題があるのは紛れもない事実なので、その辺りを鑑みつつ、なぜ本作はつまらないのに高い評価を受けているのかを考察する。
 まずは、本作がどのような作品であるかをざっと紹介しよう。物語の舞台は人込みでごったかえす真夏の海水浴場。そこへ海中から一人の少女が現れる。彼女の名前はイカ娘。海を汚す人間達に憤り、地上を侵略して我が物にしようと立ち上がった謎の海洋生物。彼女は手始めに一軒の海の家を侵略しようとしたが、超人的な戦闘能力を持つ店主の返り討ちに遭う。そして、壊した壁の修理代を払うまで海の家に居候してバイトすることになるのだった。というのが、第一話のストーリーである。これだけ見たら分かる通り、基本的には一話完結型のギャグアニメである。ただし、ギャグの質にはあまり主眼が置かれず、かと言って各回のストーリーも弱い。とにかく、イカ娘という特殊なキャラクターを中心にして、のんびりダラダラと真夏の海で過ごすことがメインになっている。それゆえ、作品の雰囲気はギャグアニメと日常系アニメの中間といったところになり、そういう意味で言うと、間違いなく「つまらない」作品である。

・出オチ


 本作の根幹的なストーリーは「侵略」である。謎の海洋生物であるイカ娘が海の底から現われて、不埒な人間界の悪行に天誅を食らわせようとするのが物語の基本的な骨子だ。要するに、B級怪獣映画のパロディーである。だが、その侵略行為は、海の家の従業員に阻止されて、番組開始五分で頓挫する。残念ながら、本作のメインストーリーはここで終了である。ギャグとしても完全にオチているので、これ以上、話を広げようがない。
 それはキャラクターも同様だ。イカの擬人化キャラクターだからイカ娘という安易なネーミング、髪の毛が触手になっているという何の捻りのない造形、そして、「~じゃなイカ」「~でゲソ」という分かり易過ぎる口癖。イカはともかくゲソの取って付けた感は、ギャグアニメにしてももう少し何とかならないのかと言いたくなる。全体的に不条理系四コマ漫画で突発的に出てくるシュールネタと同レベルであり、その場限りの使い捨て一発キャラにしか見えない。つまり、イカ娘というキャラクター像自体が適当極まりないため、どう考えても1クールアニメで主役を張れる人材ではない。言い換えると、本作は存在自体が完全に「出オチ」なのである。
 しかし、何の因果か、アニメはまだまだ続く。たとえ、一発ネタでも続く。仕方ないので、侵略というテーマはとりあえず脇に置いておいて、イカ娘という適当な思い付きで作られた使い捨て一発キャラを徹底的にいじくり回すしかない。やれ、イカスミを吐けるとか、やれ、体が光るとか、やれ、エビが大好物だとか(※本物のイカは魚もカニも食べる)といったどうでもいい小ネタを次々と注ぎ足していく。まるで泳ぎ続けないと死んでしまう魚のように。立ち止まって足元を見つめ直す暇はない。それゆえ、最大の謎であるはずの「イカ娘とは何者なのか?」という問題が完全におざなりになっているのである。登場人物の誰もそのことを気にしないどころか、本人もとかく忘れがちである。おそらく、最終回でも明らかになることはないだろう。なぜなら、「侵略」は本作の中ではすでに終わったコンテンツであり、イカ娘が海の家でドタバタした日常を過ごすことへと完全に目的がシフトしているのだから。

・侵略ごっこ


 このように、本作の最大の特徴は「初期設定が全く物語に絡まない」ことである。ストーリーアニメならば、この時点で問答無用の最低評価だ。だが、本作は幸か不幸かギャグアニメなので、こういった企画段階の不具合もある程度許容されている。例えば、第三話の肝試し回で「幽霊に道案内されて帰宅する」というシーンがある。本来なら、そこは幽霊に海に突き落とされたけれど「イカだから」助かったという話でなければならないはずだ。初期設定が物語に絡むとはそういうことである。しかし、本作はそのような面倒臭いドラマ作りを一切行わない。伏線やらお笑い理論やらはどうでも良くて、何となく「イカっぽければ」それでいいのだ。どうせ詳しい裏設定など誰も考えていない。
 そんなファジーでアバウトなストーリーの頂点が、第四話の「侵略ごっこ」である。夜、海の家で一人留守番をすることになったイカ娘は、暇に飽かして身近にあった道具を使って侵略ごっこ遊びを始めるのだが……これはない。絶対にあり得ない。と言うのも、彼女は実際に人間界へ侵略しに来ているわけである。つまり、海の家で生活していること自体が侵略行為の一環なのであって、その中で侵略を遊びのネタにすることなど断じてあってはならない。冷静に考えると、これは設定の根底を揺るがすような大矛盾である。水戸黄門が名刺代わりに印籠を見せるような物だ。しかし、それでいいのだ。なぜなら、その一見どころか、まず間違いなく何も考えていない「あり得なさ」こそが、本作の最大の魅力なのだから。
 もちろん、物語としては壊滅的である。ドラマ制作のセオリーを完全に無視している。ところが、その「あり得なさ」が逆に視聴者の常識を破壊し、ギャグアニメとして成立させているという皮肉な効果を生んでいる。笑いの基本が受け手の予想を覆すことだとすると、結果論だがこれも十分ありなのだ。何と言う怪我の功名。何と言う奇跡。ただし、この手の方策は意図してできる物ではなく、もし仮にそういった部分が透けて見えてしまうと、かえって稚拙な欠点が鼻に付くだろう。だが、本作は一切の手抜きをしておらず、できる限りの力で一生懸命作っている。ただ、「天然」なだけだ。だから、おかしな部分も温かい目で見守ることができる。要するに、頑張って作っているのだけど、結果的にへっぽこな作品に仕上がってしまうドジっ子な制作者を眺めて楽しむという新ジャンル「作者萌え」である。

・作者萌え


 イカ娘と言えば、つまらない。つまらないと言えば、イカ娘。なぜ、そういった扱いを受けているかと言うと、本作は基本的にダメなアニメだからだ。作劇の基本ができておらず、ギャグアニメなのにギャグが弱い。だが、その手のアニメにありがちな不快感は全く感じない。なぜなら、制作者はダメはダメなりに一生懸命楽しい作品を作ろうとしている、その気持ちが十分に伝わってくるからだ。
 そんな制作者の優しさが最も発揮されている点がキャラクターである。と言うのも、登場人物が全員「いい人」なのである。全十二回、計三十六話の長い物語で、劇中に悪人が一人も出て来ない。ギャグアニメに必要不可欠な狂言回し的役割の人すら出て来ない。特に、ツッコミ役で普通の作品ならもっとイカ娘に厳しく当たらなければならないはずの海の家の次女が、驚くほど彼女に対して親切なのである。これもギャグアニメとして考えると明らかに不正解なのだが、イカ娘フィルターを通すと正解に見えてくるのが不思議な点だ。そして、こういった「優しさ」こそが、本作の心地良い雰囲気を生み出す最大の要因であるのは言うまでもない。
 さて、最後に主役のイカ娘その物を見ることにしよう。個性的な口癖や触手と一体化した髪型など、見た目は実にキャッチーなのだが、その中身は非常に掴み難い性格をしている。人間界に現われた謎の生物という設定から想像されるような純真で天然ボケで幼い部分は確かに持っているのだが、その一方で意外とクールな毒舌家だったりする。地上侵略という目的から分かる通り、やたらと好戦的ではあるが、強い者には弱く、すぐにへこたれる。幽霊は平気なのに動物には弱い。お馬鹿キャラのように見えて、実は頭がいい。野性的な生活をしていたはずなのに、やたらと病気で寝込むことが多い。このように常に危うい二面性を持ったキャラクターとして描かれており、それが人間(?)的な深みをもたらして、誰からも愛される理由になっている。もっとも、それらの性格が意図して設定された物かどうかは、正直なところ怪しいが。

・総論


 昨今の深夜アニメにしては珍しく、見ていて幸せな気分になれる良作である。どうせつまらないのだから、信者だのアンチだのといった不毛なケンカも起きない。何のわだかまりもなく皆で楽しめるアニメ、こういう作品がもっと増えて欲しいと心から願うでゲソ。

星:☆☆☆☆☆☆(6個)
関連記事
スポンサーサイト
テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 22:37 |  ☆☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
twitter
検索フォーム
最新記事

全記事一覧
評価別一覧
年代別一覧
掲示板
カテゴリ
リンク
カウンター
RSSリンクの表示



にほんブログ村
PR1
PR2