『TARI TARI』

普通の青春ドラマ。

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TARI TARI - Wikipedia
TARI TARIとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2012年。オリジナルテレビアニメ作品。全十三話。監督は橋本昌和。アニメーション制作はP.A.WORKS。高校三年生の男女五人組が、高校生活最後の夏を合唱部の活動に懸ける青春ドラマ。『true tears』『花咲くいろは』と並ぶ同制作会社のオリジナル青春アニメシリーズの一つである。この不思議なタイトルは、「~したり、~したり」という繰り返しの表現から取った物らしい。

・アニメーション


 非常に丁寧に作られている作品である。作画も綺麗で、特に背景美術は極めて高品質。ところどころ、実写と見間違えるほどの……いや、実際に実写を加工して使っているのだろう、明らかに質感が普通の画と異なる背景が幾つか見られる。もちろん、実写加工背景自体は特に悪いことではない。本作のように、美術と演出が直結している作品では多大な効果を生む。だが、アニメーション的に考えると、どうしても二つの大きな問題が噴出してしまい、結果的にちぐはぐな印象を視聴者に与えてしまう。
 一つ目の問題点は、コンテよりも先にレイアウトが決まることで、人物画と背景との間にパースの歪みが発生してしまうことだ。例えば、人と自転車で接地面が違ったり、斜めに傾いた背景の前を人が水平に横切ったり。要は、実写背景アニメの代表作『魔法遣いに大切なこと ~夏のソラ~』でよく見られたアレだ。本作はあそこまでは酷くないが、それでも人物が動き回るシーン等では、いろいろと違和感を覚える。そして、もう一つの問題点は、背景が綺麗過ぎるとそちらに焦点が合ってしまい、いわゆるパンフォーカスの状態になって、逆に中心の人物が浮いてしまうことである。つまり、風景とアニメ絵のアンバランスさがより強調されるのである。下手すると、昔の映画のハメコミ合成映像のような陳腐な画になってしまう。ただ、本作は光の反射と床への影の映り込み表現が抜群に上手いので、これらの欠点はあまり目立たない。夏のソラから四年、デジタル技術の進歩はここまできたのかと感心する。
 一方、これら美術面に比べて、音楽面はお世辞にも良いとは言い難い。どれもこれも印象に残らない平坦な曲ばかりである。せっかく「合唱」が作品のテーマになっているのだから、もう少し質の高いBGMを揃えても良かったはずだ。それこそ、合唱風の柔らかなコーラス曲や透明感のあるピアノ曲で統一する等の手段はあっただろう。また、OP曲・ED曲も、如何にも萌えアニメという感じで目新しさがないのも非常に残念である。

・序盤


 本作の舞台は、江の島周辺にある普通科と音楽科が併設された架空の私立高校。夏休み目前、三年生の宮本来夏は顧問教師との衝突が原因で声楽部を辞め、新たに合唱部を立ち上げる。彼女は自分や弟の友達を手当たり次第に勧誘し、即席のコーラスグループを作って合同発表会に出場する。その発表会は、昨年、来夏が大失敗をしたリベンジの場だった。しかし、思わぬアクシデントから他のメンバーが出場できず、仕方なく彼女は友人の沖田紗羽と二人だけで舞台に立つ。客席がざわつく中、二人は朗らかに歌い上げる。
 この時点でまだ第二話である。非常に展開が早いが、ドラマ作りの基本として「物語の序盤で主人公に挫折を味わわせ、そこから這い上がる様を描く」というパターンがあり、本作もそれに則っている。ただ、非常に残念なことに、あまりにもその描き方が粗雑過ぎて、少々不快感を覚える展開になってしまっている。まず、問題なのは、彼女達が明らかに周囲に迷惑をかけていることだ。劇中で指摘されている通り、合同発表会は遊びの場ではない。名ばかり合唱部が二人でカラオケを歌う場ではない。これは、真面目に音楽に取り組んでいる人や演奏を聞きに来た客に対して失礼な行為であろう。個人的な自己満足のために社会に迷惑をかける行為は、いくら子供であっても許される物ではないからだ。ところが、これほどまで悲惨な状態にも係わらず、本人は意外と満足しているのである。演出的にも、二人だけのチープな合唱がなぜか大成功した風の扱いになっている。これは明確な脚本上のミスだ。ここで描くべきは失敗体験であり、来夏の考えの甘さが招いた挫折である。この段階でリベンジが成功すると物語が終了してしまう。これから先も話を続けるつもりなら、主人公に「これではいけない」という強い後悔の念を残さなければならないだろう。
 ちなみに、こういった「青春のためなら、どこまでモラルを逸脱して良いか」問題は、青春ドラマが常に抱える永遠の命題である。ある程度、社会の規範からはみ出さないと青春の爆発は表現できない。だが、やり過ぎるとただの犯罪集団になってしまう。年々、社会のコンプライアンスが厳しくなっているので、フィクションの世界も微調整が求められている。要は、盗んだバイクで走り出したり、夜の校舎の窓ガラスを壊して回ったりする行為はもう許されないということだ。この辺りのサジ加減の難しさを、本作からも見て取ることができる。

・中盤


 その後、合唱部は一旦解散。今度は本当に歌が好きな人間を集めて、再始動することにした。集まったのは、騎手を目指している紗羽、母との確執から音楽をやめていた和奏、バドミントン部の大智、帰国子女のウィーンに来夏を含めた五人。
 本作における最大の問題点は、この部員集めの過程が著しくいい加減なことである。合唱は、数ある部活動の中でもトップクラスにハードルが高い行為だ。何より、人前で歌うこと自体が恥ずかしい。しかも、ただのカラオケではなく各パートを歌い分けなければならず、さらに少人数であればあるほど一人一人の負担が大きくなる。これだけの難事業に高校生、特に男子高校生が積極的に参加するとは考え難い。もちろん、本作の大智、ウィーン共に人前で歌を歌うことに抵抗を覚えるような人間ではないので、設定的な不具合はないのだが、問題は視聴者である。視聴者とキャラクターとの間の思想的な隔絶が大きくなり過ぎると、共感が難しくなる。すると、どんなに感動的な物語を作っても、全て遠い世界の出来事になってしまう。そのため、ここは「歌うことは恥ずかしい」と感じる一般的な感覚を持った人間を一人登場させ、視聴者とのリンク役を担わせるべきだったのではないだろうか。
 そして、合唱部として活動をしていく過程で、部員達は自分の人生と向かい合う。それぞれ、甘酸っぱい青春ドラマとしてしっかりと作り込まれ、基本に忠実な極めてクォリティの高い物語となっている。その間の合唱部の練習もちゃんと描かれ、どこぞの部活アニメとの格の違いを見せ付けている。ただ、青春ドラマの方に重きが置かれているため、恋愛要素は全くと言って存在しない。下手に部員間の愛憎劇を入れて、ドロドロのメロドラマにされるよりはいいが、物足りなさを覚えるのも正直な感想だ。この辺りは意見が分かれるポイントだろうか。
 なお、他にも脚本的な不満を書くと、なぜ過去の合唱部が声楽部になったのかと、和奏が普通科に編入した経緯がごっそりと抜け落ちている。本筋と直接関係があるわけではないので、なくてもストーリー的な不都合は特にないが、下手に伏線が張られているため非常に気になる。

・終盤


 物語終盤、合唱部の目標が秋の文化祭に決まり、それに向けて練習と準備に取り掛かろうとした矢先、本作におけるラスボス的存在である学園理事長が登場する。あからさまに敵の匂いをぷんぷんと漂わせた彼の下した結論は、何と学園の「廃校」。てっきり、文化祭中止程度の軽い障害かと思ったら、まさかの大掛かりな展開に驚かされる。最早、合唱どころの騒ぎではない。何でこうもやることが極端なのか。一応、その後は合唱部の面々が自分達で最後の文化祭を開催しようと奮闘するストーリーになるのだが、事が大き過ぎるせいで、あまり話が盛り上がらない。結局、どんなに頑張っても努力が叶うことはないと分かりきっているのだから。やはり、物語の目標はギリギリ手が届く範囲に置いておくのが作劇のセオリーであろう。
 その文化祭へ向けて準備する話自体はよくできていて面白いのだが、肝心の最終回が少々残念な仕上がりになっている。何より、文化祭で披露する音楽劇の演出が甘い。文字通り、絵に描いたような素人劇になってしまっている。アニメの演出と演劇の演出は全く異なるスキルなので、どうやら本作の監督にそこまでの技量はなかったようだ。物語の目標と同じく、演出の目標も手の届く範囲内に置いておいた方がいい。また、音楽劇を開催したからと言って物語的に何か起こるということもなく、当然、理事長が改心して学園存続などといった超展開もないため、結局はただの自己満足で終わってしまう。ここまで何のカタルシスもない青春ドラマは珍しい。もちろん、「青春とは自己満足の産物だ」と言われれば、確かにそうなのだが……何となく不満を覚えるのは、自分が歳を取ったからということだろうか。きっと、こうやってストーリーの粗を探していること自体、青春的にはむなしい行為なのだろう。

・総論


 非常に良くできた作品……に見える。だが、それは他の作品があまりにも情けないからであって、青春ドラマとしては標準レベルである。それでも、客に媚びることなく、真面目に「アニメ」を作ろうと励んでいるP.A.WORKSのこのシリーズは、心から応援したい。

星:☆☆☆☆☆☆(6個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 16:12 |  ☆☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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