『ロケットガール』

人命軽視。

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ロケットガール - Wikipedia
ロケットガールとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2007年。野尻抱介著のライトノベル『ロケットガール』のテレビアニメ化作品。全十二話。監督は青山弘。アニメーション制作はムークDLE。女子高生の主人公が、宇宙飛行士となって日本初の有人ロケットに挑戦するハードSF。科学的に正確な数字や専門用語を駆使し、徹底してリアルにこだわった作品になっているらしい。JAXA(宇宙航空研究開発機構)が協賛している。

・設定


 本作の舞台は、ソロモン諸島に設営された日本の民間宇宙ロケット研究施設、通称SSA(ソロモン宇宙協会)。目標は国産ロケット初の有人飛行。だが、今のロケットでは推力が足りず、成人男性の宇宙飛行士では重量オーバーになってしまうため、計画が頓挫してしまう。残された時間は半年。そこで、たまたま父親を探すためにソロモン諸島へ来ていた女子高生の主人公を騙して、無理やり宇宙飛行士の訓練を受けさせることにした。父を連れ戻すという目的のため、嫌々ながら訓練を受ける主人公。はたして、日本初の有人ロケットは無事に成功できるだろうか。
 「女子高生宇宙飛行士」、本作が多大な予算と全十二話もの長い期間をかけてやりたかったテーマはこの一点に尽きる。可愛らしい女子高生が一風変わった職業に挑戦する萌えアニメは数あれど、その中でもトップクラスの荒唐無稽さである。そんな無茶苦茶な設定を成立させるため、何とか話にリアリティを持たせようとした努力の跡は見られるが、やはり、根本的な部分に無理がある。まず、宇宙飛行士になるために必要不可欠なスキルは、「身体能力」と「科学知識」と「語学力」の三つだ。他の技術は詰め込み教育で何とかなるかもしれないが、この三項目だけは一朝一夕でどうにかなる物ではない。どうにもならない以上、設定段階で人並み外れた天賦の才能を彼女に与えなければならないのだが、当然、そんな気の利いたことができる脚本ではない。すると、その先に待っているのは、クソアニメのお約束である「過程がないのに結果だけは完璧」だ。ろくな訓練描写などないのに、半年後には三つのスキルを完璧にマスターしている。これがSFファンタジーなら問題はないのだが、本作は自称「ハードSF」であり、実際、ロケット発射に関しては徹底的にリアリズムにこだわっている。それゆえ、かえって設定の稚拙さが目立つ結果になっている。
 ちなみに、第四話で固形燃料の技術革新が起こり、推力の問題は完全にクリアされている。つまり、女子高生宇宙飛行士である必要すらない。自分達で自分達のドラマのアイデンティティーをぶち壊す馬鹿脚本はどうにかならないのか?

・児童虐待


 もっとも、上記のような問題は本作ではほんの些細なことだ。主菜の前の前菜に過ぎない。本作にはもっと大きな問題が待ち構えている。
 何としてもロケットを成功させたいSSAの所長は「猿でもできる簡単なバイト」と称して、主人公に無理やり厳しい宇宙飛行士訓練を受けさせる。その暴挙に対して、他の所員は一応の難色を示したものの、それはロケットに対する心配であって、誰も主人公のことを心配する者はいない。むしろ、彼女にパイロット適正があると分かると、嬉々として訓練に送り出す。主人公の両親や周辺に住む人々=社会が止めることもない。はっきり言って、これは「虐待」である。下手すると、「人身売買」である。宇宙飛行士という職業は命懸けだ。しかも、今回の計画は前人未到であり、失敗する確率の方が高いのである。それほどまで危険な計画に無知な子供を投入するなど、人命軽視というレベルではない。歴史に名を残すような非人道的犯罪行為であろう。さらに言うと、候補生の中には現地の少女も含まれているため、重大な「国際問題」である。
 ドラマには、先人が何百年もかけて培ってきた「型」という物が存在する。いわゆる王道的な展開という奴だが、王道には人を惹き付ける力があるだけでなく、物語に「整合性」をも与えてくれる。本作で言うところの王道展開とは、所長はマッドな科学者で目的のためなら手段を選ばない変わり者。一方、所内には人道主義者のはみ出し者がいて、所長の行動に異を唱える。結果、所内で衝突が発生し、同時に外部からの圧力で計画が中止になる。だが、所員の宇宙開発に懸ける夢に共感した主人公が、自ら「私がやります」と申し出る、だ。本作のような非人道的な物語を成立させるためには、これがベスト、いや、これしかないのである。この流れを取らないとただのクライムムービーになってしまうことは、先人が証明してくれている。また、グループ内での意見の衝突がないということは、登場人物の人間性が薄いということだ。そんなゾンビみたいな連中が何人集まったところで良いドラマなど生まれるはずがない。ただのカルトムービーである。

・第一部


 第五話で早くもロケット打ち上げが開始される。その際、原因不明の異常が見られたが、構わず強行(おいおい)。すると、打ち上げ自体は成功したものの、案の定、軌道が狂った上に機体が損傷して地球に帰れなくなる。慌てて、ロシアに救援を頼むが当然のように却下。この時点で新たな国際問題発生。仕方ないので、もう一機のロケットで救援に向かう。一度、失敗したロケットで簡単にランデヴーができるわけがないのだが、その辺りの詳細は全編カット。未成年の女の子二人にぶっつけ本番で宇宙遊泳をやらせて機体を修復しようとするが、損傷が激しく大気圏突入は不可能。仕方ないので、一つの船に二人が乗り込んで帰ることに。結局、宇宙にデブリをばら撒きに来ただけ。
 最後は、主人公の通っていた学園に不時着するというアニメらしいオチが付くが、そんなことが可愛く見えるぐらい全体的に酷い。全てが行き当たりばったりで、宇宙飛行士の命を粗末にし過ぎている。こんな連中に国の代表面をされたら、国家的な恥である。そもそも、日本初の有人ロケットの物語ではなかったのか? ならば、1クールかけてじっくりと過程を描き、映画『王立宇宙軍 オネアミスの翼』のようにロケット打ち上げシーンをクライマックスにするべきではないか。こんな宇宙ドタバタ話を描くためにJAXAは協力したのだろうか。本作から見て取れるのは、日本の科学技術力の低さだけなのだが。

・第二部


 第七話からは第二部になる。しかし、日本初という大義名分がないので、かなりどうでもいい物語になる。宇宙飛行士に憧れる主人公の後輩の女子高生が、SSAに志願入隊する。4Gにすら耐えられないひ弱な彼女が、厳しい宇宙飛行士の訓練を受ける物語はかなり痛々しいが、相変わらずそれに苦言を呈する所員は一人もいない。数ヶ月後、彼女は晴れてミッションスペシャリストになる。理由は「体が小さいから」であって、当然、「手先が器用」などの伏線はない。
 彼女と主人公はNASAのスペースシャトルの救援のために宇宙へ旅立つ。勇気と無謀を履き違えた彼女達の活躍により、ミッションは無事達成される。しかし、またもやSSA所員の計算ミス(おいおい)により、彼女達は地球に帰還できなくなる。現地のNASA宇宙飛行士の機転により、大気圏上でスキップして減速することにしたが、そのプランの要となる後輩が突入時のGで気絶してしまう。今までGに耐えられなかった彼女が、最後の最後に気合で耐え抜く成長物語ではないのか? 唯一の伏線を使い捨てにする制作スタッフの頭の悪さ。結局、最後は主人公の「ヤマ勘」により帰還に成功する。そして、ラストのスタッフロールは、まさかの所員達の「事故釈明インタビュー」。もう、全員を刑務所に叩き込めよ。

・総論


 数字と専門用語を並べたらリアルになると思ったら大間違いである。最も重要な「人間の感情」を蔑ろにしてリアルを語ろうなど片腹痛い。結局、本作が視聴者に伝えたかったことは、JAXAもNASAも宇宙飛行士の命を捨て駒としか思っていない極悪犯罪者集団だということだ。税金の無駄。ただ、スキンタイト宇宙服はエロくて良い。

星:★★★★★★★★★(-9個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 22:08 |  ★★★★★★★★★ |   |   |  page top ↑
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