『大魔法峠』

集大成。

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大魔法峠 - Wikipedia
大魔法峠とは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2006年。大和田秀樹著の漫画『大魔法峠』のOVA化作品。全八話。監督は水島努。アニメーション制作はスタジオバルセロナ。魔法の国からやってきた可憐なプリンセスが、楽しい仲間達と一緒に夢いっぱいの学園生活を過ごす魔法少女系アニメ。はい、嘘です。ごめんなさい。

・邪道魔法少女


 邪道魔法少女三部作の中では、本作が最も「魔法少女」らしい作品である。主人公の田中ぷにえ(本名)は魔法の国「聖魔法王国」のプリンセス。とある事情から、修行のために人間界の学校へ転校することになる。ショートボブの金髪に大き目のカチューシャという少女漫画風の可愛らしい容姿、変身こそしないが普段の学校の制服が特殊なので、外見は非常にメルヘンチックである。いつも胸に付けているプリンセスロッドを使い、「リリカル・トカレフ・キルゼムオール」と呪文を唱えることで魔法を使うことができる。パヤたんというキュートなマスコットキャラが常に付き従う。OP曲はキャッチーで愛くるしい正統派アニソン。ベースとなる元ネタは『魔法使いサリー』と『魔法のプリンセス ミンキーモモ』の折衷か。この時点では、誰がどう見ても真っ当な魔法少女である
 さて、本題である。本作は同じ魔法少女でも邪道魔法少女なので、ここから中身をできる限り崩して行かなければならない。だが、設定のテンプレートまで変えてしまうとパロディーである意味がなくなってしまうため、基本的には何か新しい物を付け足すという形になる。『ナースウィッチ小麦ちゃんマジカルて』ではオタクパロディー、『撲殺天使ドクロちゃん』ではエログロが追加要素だった。そして、本作の目玉は、その物ずばり「バイオレンス」である。

・バイオレンス


 まず、主人公の可憐で可愛らしい性格はフェイクである。最初は物の加減が分からない程度の天然キャラかと思いきや、敵に襲われた時などに彼女は本性を露わにする。その素顔はガラが悪く、ドス黒く暴力的かつ卑劣な外道で、王族としての威厳に満ちている。表情も一変し、声のトーンも下がる。その可愛い顔と暴力的な顔の落差を、CVの佐藤利奈が巧みに演じ分けている。それ以前の問題として、彼女が転校してきた学校はスケバンが大勢いるような暴力校であり、彼女達は転校生のくせに目立つ主人公をシメようとする。主人公を付け狙う魔法の国からの刺客も、冗談抜きに本気で彼女のタマを取りに来ている。また、なぜか外国人にウケたことで有名なカレー作りのシーンなど、『撲殺天使ドクロちゃん』ほど極端ではないが、エログロ風味のブラックネタも満載だ。
 このように、本作の特徴は魔法少女とバイオレンスの高度な融合にある。要するに、可愛らしい魔法少女の世界観に、それと正反対に位置する古き良き少年不良漫画的な世界観を付け足して、モザイク化させているわけである。第二話などがその典型で、マスコットとの出会いが回想シーンで語られるのだが、それが某世紀末救世主漫画のように退廃的なイメージなので笑いを誘う。ただし、ネタとしては非常にベタである。下手な制作者が手を付けると、くだらないパロディーで終わってしまうだろう。それゆえ、本作の場合は物語の軸となるテーマをしっかりと事前に定義することで、そう簡単にはぶれないように工夫している。それが、次に紹介する「マキャヴェリズム」と「肉体言語」である。

・マキャヴェリズム


 政治学者のマキャヴェリが著作『君主論』で書いた「政治家は国家存続の目的のためなら、手段を選ぶべきではない」という思想。もっと分かり易く言うと、いわゆる「帝王学」である。本作は、「みんな、私のお友達」という平等主義的な魔法少女とのギャップを演出するため、「力こそが正義」という実力主義的な思想を物語の根底にしている。しかも、元ネタが『魔法のプリンセス ミンキーモモ』なので、ちょうど上手いことに主人公が魔法の国のお姫様なのである。そのため、本作における魔法の国は、そのメルヘンな名前とは裏腹に、主人公の母親が武力と謀略で軍事制圧し、絶対王政による恐怖政治を敷いているという設定になっている。そんな母親の娘である主人公も、同様のマキャヴェリズム論者だ。目的のためなら手段を選ばず、勝利こそが全て、敗北して生き恥を晒すぐらいなら潔く死を選ぶ。それが良いことか悪いことかはこの際問題ではなく、キャラクターが一つの固い信念をベースにして動くというのは、ドラマ制作において非常に大切なことである。なぜなら、人物の言動に一貫性が出て、話に説得力が増すからだ。つまり、バイオレンスアニメと言っても、ただの無差別な暴力ではないということである。これが作品の質にどれだけ貢献するかは語るまでもないだろう。

・肉体言語


 主人公は、邪道魔法少女にしては珍しく魔法の使い手である。しかし、その魔法が封じられても、彼女は肉弾戦という必殺の隠し技を持っている。と言うより、そちらの方が本職であり、むしろ、それを好む。彼女の得意技は、格闘技全般の中でも特に関節技(サブミッション)。それを「肉体言語で語り合う」と称する。なぜ、打撃技ではなく関節技かという理由は明白で、魔法という目に見えない超自然的な技と最も対極に位置するのが、他者との身体的接触をベースにした関節技だからだ。たとえ、武器がなくても、たとえ、相手が巨大なモンスターであっても、自分の身一つで戦いに勝利することができる。それゆえ、彼女はこう述べる。「打撃系など花拳繍腿、サブミッションこそ王者の技よ」
 ただ、関節技は画的にはかなり地味なので、アニメーションとして見ると少々厳しい物がある。実際に関節技をかけられた経験がないと、痛みを実感することも難しいだろう(もちろん、実際に魔法をかけられた経験のある人間はこの世に一人もいないのだが)。その代わり、本作は格闘描写に関しては徹底的にリアルにこだわっている。特に、第三話の刺客との関節技を駆使した戦闘シーンは、格闘技マニアをも唸らせる完成度だ。おそらく、作画スタッフの中に相当な格闘技好きがいるのだろう。また、それ以外にも軍事や合戦描写なども正確だ。こういった細かいこだわりは素直に賞賛したい。ギャグアニメだからこそ、「真面目に馬鹿をやる」ことが大切なのである。

・総論


 数ある邪道魔法少女の中でもずば抜けた完成度を誇る一品。全く関連性はないはずだが、『ナースウィッチ小麦ちゃんマジカルて』『撲殺天使ドクロちゃん』で積み上げてきた物の集大成のような作品になっている。しいて欠点を挙げるならば、漫画の時点ですでに完成されているので、あまりアニメ化するメリットが感じられないということだろうか。

星:☆☆☆☆☆(5個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 22:01 |  ☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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