『境界線上のホライゾン』

動く設定資料集。

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境界線上のホライゾン - Wikipedia
境界線上のホライゾンとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2011年。川上稔著のライトノベル『境界線上のホライゾン』のテレビアニメ化作品。全十三話。監督は小野学。アニメーション制作はサンライズ。遠い未来の極東を舞台にしたSF冒険ファンタジー。原作が発表される前に膨大な量の設定資料が公開される等、練り込まれた奇抜な世界観が魅力の典型的な「設定アニメ」である。

・設定


 「設定がよく分からない」と批判されるドラマは世に数多く存在するが、その原因は一体何だろうか。単に「受け手の読解力が足りない」という根本的な物を除けば、おそらく以下のような原因が挙げられるだろう。1、設定が破綻している物(破綻していれば理解できないのは当たり前)。2、設定が多過ぎる物(複雑にすればいいというわけではない)。3、設定の見せ方が下手な物(思わせぶりな台詞ばかりで中身0とか)。4、設定を見せ過ぎる物(全部を台詞で語っちゃう系)。5、設定と物語が無関係な物(いわゆるゴミ)。もちろん、これらの原因が単独で存在するのではなく、様々に複合することでコードがスパゲッティ化し、結果、「何をやっているのか分からない」状態になるのだろう。
 さて、本作もとかく「設定がよく分からない」と言われがちな作品である。ただ、本作の場合は、ご丁寧に第一話のエンディングでナレーションが全てを語ってくれているのでありがたい。「遠い未来。ある理由から、もう一度歴史をやり直し始めた世界。かつて、神として天上へ昇った人類は、争いの末、神々の力を失い、再び地球と呼ばれた台地へと戻ってきた。しかし、その星の環境は荒れ果て、神州以外に人の住める場所はなくなっていた。人々はかつての繁栄を取り戻すべく、聖譜と呼ばれる前時代の歴史を元に現実世界の神州とそのコピーである重奏神州に分かれ、歴史再現を行っていた。しかし、中世の神州において、歴史再現の失敗により生じた重奏神州の崩壊が世界各国による極東神州の分割支配をまねき、各国の王はそれぞれの土地の戦国大名との合一を図ったのである。そして、現在、極東の戦国大名と世界各国の英傑達は、極東史の戦国時代と世界史の三十年戦争時代をやり直しつつ、世界の覇権を争っている」……長ぇーよ。ていうか、意味分かんねーよ! 神州ってどこやねん!? 歴史再現って何やねん!?
 もっとも、実際に本編を見てみれば気付くと思うが、これでも分かり易くまとめている方なのである。本当の設定はもっと大量かつ複雑で、到底一つの文章にまとめられるような物ではない(Wikipedia参照)。つまり、本作は設定が分かり難いとか説明が悪いとか言う以前に、端から視聴者に理解させることを放棄した世にも珍しい作品である。

・主人公


 主人公は、武蔵アリアダスト教導院の総長兼生徒会長。見た目は高身長で細マッチョのイケメン。だが、顔は常にヘラヘラと笑っていて締まりがない(常に陽気でないと死んでしまうという謎設定があるため)。性格は空気の読めないスケベでお馬鹿なお調子者。でも、リーダシップがあって皆に好かれている。言動は痛々しいオタクその物で、未来世界なのになぜか現代のネットネタを連発する。そして、「趣味はエロゲー」である。あのさぁ……煽りでも何でもなく真面目に聞きたいのだが、ライトノベルの読者は本当にこういった主人公を好ましく思っているのだろうか。いわゆる一般的な熱血主人公よりも、この手の「美化されたオタク」タイプの方が共感できるということだろうか。ライトノベル好きの全員がエロゲーユーザーではなかろうに。ちょっと意味が分からない。後、普段は適当でも、いざと言う時に本気を出す系の人物が中二病的にカッコイイのは分かるが、その言葉に「説得力はない」ということを早く理解して欲しい。
 何にしろ、この灰汁の濃過ぎる主人公に共感できる人間が非常に限られているのは間違いないわけで、多くの視聴者は共感以前に不快感を覚えるだろう。はっきり言って、それはドラマとして失格、いや、問題外である。もちろん、悪人やダメ人間が主人公になるドラマは多数あるが、それらの人々は人間が隠し持っている弱さや脆さを克明に映し出すため、不快感を覚えつつも頭から否定できず、最後にはついつい自分を重ね合わせてしまうのである。一方、本作は? エロゲー好きなオタク以外はお断り? それが自慰行為でないなら何と言うのだろう。そもそも、「エロゲー」って何? これだけ複雑な設定を詰め込んだ作品なのに、なぜ「仮想偏愛遊戯」みたいな世界観に合った固有名詞を付けないの? もう、この時点で本作は真面目にファンタジーをやる気がないとみなしても良いということだ。こいつ一人のせいで、頑張って作った設定が全て台無しである。

・モザイク化


 上に初期設定を長々と書いたが、はっきり言って、これでも序の口である。本作の設定は想像以上に膨大である。そのため、さすがに第一話こそはエンタメに徹したが、第二話からは怒涛の設定オンパレードが開始される。当然、一つ一つを物語として描く尺はないため、全てが登場人物の台詞として語られる。しかも、分かり難いことに、それらの設定に沿った物語は、主人公達とはまるで関係のないところで繰り広げられるのである。主人公=視聴者が世界を見て回る内に、徐々に複雑な設定が明らかになるといったオーソドックスな手法は使われない。各組織のリーダー的な立場のキャラクターが裏で暗躍している間、主人公達は本筋と全く無関係の幽霊退治などをやっており、彼らがストーリーに加わるのは中盤以降、大きな事件が起こった後のことだ。これでは物語に没入しろと言う方が難しい。
 ただ、ここは判断が分かれるところだ。これらのモザイク化した設定群は明らかに意図的に仕組まれた物である。大して重要ではない物にすら固有名詞を付け、詰め込めるだけ詰め込んでいる。最早、設定を増やすこと自体が目的化しているようなレベルだ。もちろん、設定が前面に出過ぎている以上、ドラマとしては全く評価できないのだが、この複雑怪奇な世界観が好きという人もいるだろうし、何度もアニメ本編を見直して、パズルゲームのように少しずつ設定を解きほぐしていくのも楽しみの一つであろう。そのため、頭ごなしに悪いとも言い難い。ここは一つ、「人を選ぶ作品」と曖昧に誤魔化しておくのが得策だろうか。
 ちなみに、なぜ、これほどまで設定がモザイク化するかというと、根本のテーマである「歴史再現」が無理やり過ぎるからである。「未来の日本で戦国時代を行う」というただ一つの目的のため、どんどん後付けで設定を足していった結果、最終的にここまで肥大化してしまった。破綻していないのはさすがだが、褒められるようなことでもない。

・問答


 このようにとかく面倒臭い作品であるが、軸となるメインストーリーは意外と単純である。簡略化して書くと、「子供の頃に亡くなった幼馴染みの魂が封じられた自動人形が敵に捕えられたので、皆で助けに行く」というだけの物語だ。それはそれで悪くはないのだが、練り込まれた設定とのギャップが凄まじく、真面目にやれば二・三話で終わってしまうような簡単な話である。ところが、本作は全十三話。では、それまで何をやっているのかと言うと、そのほとんどの時間を埋めるのが「問答」である。
 本作は、事あるごとにキャラクターが一対一で討論する。それは意見のぶつけ合いなどではなく、一定のルールの下に行われる文字通りの「ディベート」である。議題は「戦争するべきか否か」や「それに大義名分があるか否か」など。まぁ、それなりに含蓄のある言い回しや巧みな論理展開などを使って、迫力のある討議を演出しようとはしているのだが……。ただ、なぜ、そのような討論が劇中において成立するかと言うと、登場人物が全員、歴史再現などの決められたルールには必ず従う遵法主義者だからである。そして、そのルールとは何かと言うと、当然、作者自身が築いた「設定」なのである。自分の作った設定を遵守する者達が自分の思う通りの言葉をぶつけ合ったら、そりゃ、描くのは楽だよねという話だ。結局、作者の「高度な頭脳戦を描ける俺カッコイイ」でしかないため、人によっては鼻に付くだろう。
 なお、最終盤、敵から自動人形を助け出すための手段も問答である。彼女を助け出したい主人公とそれを拒否する自動人形の意見が平行線を辿る。しかし、主人公がその状態を上手く逆手に取って……という流れだが、正直、これはどうだろう。何となく哲学的なことを言っているようなムードを醸し出しているが、要するにやっていることはただの「説得」である。クライマックスシーンなのに二人で突っ立って会話をしているわけで、その間、当たり前のように敵は攻撃を待っていてくれる。何も盛り上がらない。捕らわれのお姫様を騎士が説得して連れ出すおとぎ話が子供達にウケるかと考えれば、本作のがっかり具合をお分かり頂けるだろうか。

・戦闘


 では、本作は「付いて来れる者だけが付いて来い」という漢らしい作品なのかと問われたら、一点だけ万人が楽しめる要素がある。それが戦闘シーンである。動画枚数が多く、レイアウトも巧みなので、実にダイナミックである。同制作会社の『機動戦士ガンダム00』などより明らかに予算的にも技術的にも気合が入っているのが哀しい。時代はライトノベルということか。特に、第一話の空中戦艦上の戦闘は、建物の奥行き感に空の青さが加わって非常に面白いビジュアルになっており、そこだけでも見る価値がある。ただ、個々のキャラクターの戦闘形態が違い過ぎるため、第一話以外は常にタイマン勝負なのが難点か。大規模な戦争が起こっているはずなのに、一つの勝負が終結すれば、また次の勝負というように視野が著しく狭い。そういう物と割り切れば楽しめるが、個性的な仲間が皆で協力し合って戦うといった団体戦の面白さは皆無である。
 そして、忘れてはいけないのが、ここでも設定、設定、設定である。戦闘中にも係わらず、自分達の技の原理や効果を『美味しんぼ』の海原雄山の如く詳細に解説する。もちろん、ほぼ全てが後付けである。最初から、これは『美味しんぼ』なのだと思えば、微笑ましく見れないこともないのだが、作者自身はこれをカッコイイと思ってやっているようなので、いろいろと残念だ。

・総論


 設定資料集を片手に、主人公の登場シーンを全て早送りで飛ばしたら、まずまず楽しめる作品。ドラマとしては全く評価できないが、設定の詰め込み具合だけはガチなので、よくぞここまで頑張った「努力賞」といったところだろうか。

星:☆(1個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
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