『うみものがたり ~あなたがいてくれたコト~』

善と悪。

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うみものがたり ~あなたがいてくれたコト~ - Wikipedia
うみものがたりとは - ニコニコ大百科

・はじめに


 2009年。オリジナルテレビアニメ作品。全十二話+未放送一話。監督は佐藤順一。シリーズディレクターは紅優。アニメーション制作はゼクシズ。パチンコメーカー三洋物産の人気シリーズ『海物語』を元にしたオリジナルストーリー。マリンやワリン、サムといった登場キャラクターこそ共通するが、設定的な繋がりはない。

・パチンコ


 まず、初めにパチンコ・パチスロの歴史を簡単に振り返りたい。2003年、パチンコ業界にある革命的な機種が登場し、史上空前の大ヒットを記録した。それが伝説の四号機パチスロ『北斗の拳』である。この機種が人気を博した理由は、何よりその仕様が革新的だったためだが、それに加えて『北斗の拳』という誰もが知る有名漫画を題材にしたことも挙げられる。その結果、パチスロを知らない原作ファンが挙ってホールに足を運ぶというかつてない珍現象が発生した。それまで内輪の間だけの遊戯だったパチンコに、「オタク」という人種を巻き込むことで、新たな風を吹き込むことができる。それを知ったメーカーは、続々と漫画やアニメを題材にした新機種を開発する。その代表が『新世紀エヴァンゲリオン』であり、その利益を流用して新作映画を制作したのは有名な話だ。また、パチスロ『ナースウィッチ小麦ちゃんマジカルて』で萌えアニメのパチスロ化という新たなムーブメントが生まれると、『快盗天使ツインエンジェル』といったオリジナル萌えスロも誕生し、よりオタクとパチンコの結び付きが強くなっていく。
 一方、『北斗の拳』は原作を知らないパチンコファンがアニメを見るという新しい流れももたらした。それを受けて、パチンコのアニメ化という逆輸入も頻繁に行われるようになる。先陣を切ったのは『北斗の拳』と同時期の人気台、パチスロ『吉宗』であり、上記の『快盗天使ツインエンジェル』である。そして、2009年、満を持して人気パチンコ『海物語』シリーズのアニメ化が発表される。それも、あくまで原作ファン向けだった他機種とは違い、本作は不特定多数の視聴者へ向けた一般深夜アニメである。共通点はキャラクターの名前と見た目だけという純粋なオリジナル萌えアニメ。一体、それがどのような作品になるのか、予想も付かない状況に視聴者の期待と不安が渦巻いた。

・雰囲気アニメ!?


 ヒーリングアニメという新境地を開いた『ARIA The ANIMATION』の佐藤順一を監督に迎え、音楽は『スケッチブック ~full color's~』で美しいピアノのメロディーが絶賛された村松健、舞台は鹿児島県の架空の離島である天神子島(モデルは奄美大島)、海をテーマに愛と優しさに溢れた物語を描き出すと、ここまで牌が揃えば、誰もが『ARIA』シリーズのような美術と音楽に秀でた「雰囲気アニメ」を想像するだろう。街の人々は皆が優しく温かく、何の悩みも不安もない理想郷を描いた、見ていて気持ち良くなるアニメ。実際、第一話が始まるとその予想が的中していることを知る。海に落ちてきた指輪を持ち主に返すため、地上へやってきた主人公達が、異文化に戸惑いながらも人々と交流を重ねるストーリー。上質の美術と音楽。OP曲・ED曲も美しい。少々、ギャグ成分が多めだが、『ARIA』ファンなら「アリア社長回と似たような演出」と言えば、納得してもらえるだろう。
 ところが、第一話の終盤から突然、きな臭さが漂い出す。主人公の妹が誤って「セドナ」という邪悪生命体の封印を解いてしまい、徐々に世界が闇に覆われる。セドナと同時に復活した亀の長老の助言に従い、主人公と指輪の持ち主は、それぞれ「海の巫女」「空の巫女」として覚醒する。二人は世界を守るため、魔法の力を駆使してセドナの手下に立ち向かう……と、以上が第二話までの大まかなストーリーである。ここから分かる通り、本作の本当のジャンルは「魔法少女物」なのである。これはさすがに予想できない。戦闘シーン自体は、パチンコマネーの恩恵を受けているだけあって、よく動くし迫力もある。しかし、ビジュアルテーマは雰囲気アニメのままだし、何より音楽がピアノを中心にしたヒーリングミュージックだ。そこに魔法少女らしいファンタジックな変身シーンと無駄にオシャレな敵が加わるのである。もう、合う合わないという次元の問題ではない。はっきり言って、かなり「痛い」レベルだ。せめて、敵デザインだけはもう少し海の生物っぽくできなかった物か。

・キャラクター


 主人公は、海人(ウミビトと読む。半魚人のような物)のマリン。天真爛漫で純粋無垢。他人を疑うことを知らず、「みんな、愛してる」が口癖の博愛主義者。後に海の巫女として覚醒する。もう一人の主人公は、空人(ソラビトと読む。地上人)の女子高生の夏音。彼女はマリンとは正反対にネガティブな性格で、「死にたい」が口癖の孤立主義者。恋人にフラれた(と思い込んでいる)ことで、指輪を海に投げ捨てた。後に空の巫女として覚醒する。この正反対の特徴を持った二人を中心に、姉のことが大好きな妹のウリンや夏音の元カレ、恋のライバル、事件の全貌を知る亀の長老とその娘、海人仲間のワリンとサムなどが物語に加わる。これだけ見ても分かると思うが、本作は非常にキャラ配置が上手い。全員が主人公の設定を補強するように配置され、無駄な人員が一人もいない。とても、元ネタがパチンコ台の看板娘だとは思えないぐらいの絶妙さ加減だ。
 キャラ配置が上手いとどうなるか。それは、設定通りにキャラクターを動かすだけで物語が発生するということである。その筆頭がマリンの妹のウリンだ。彼女は姉のことを愛するがゆえに、姉を独り占めしたいという独占欲が生まれ、空人に対する嫉妬心からセドナに浸け込まれる。そして、セドナの依り代になった彼女は、マリンを闇の世界に引きずり込もうとする。今までずっとマリンと二人で暮らしてきた妹のことを想えば、彼女がこういう行動を取るのは十分に納得できる。納得できるということは、話に合理性・妥当性があるということだ。このように、難しい物語作りなど何もしていないのにちゃんとストーリーになるという状況は、ドラマ作りにおける理想である。

・邪悪と純粋


 本作の敵であるセドナは、邪悪なエネルギーの集合体のような物である。一方、セドナに唯一対抗できる存在である巫女に変身するには、汚れなき純粋さが必要とされている。しかも、亀の長老の言によると、セドナを封印するためには「ピュア100%」でなければならないらしい。純真なマリンはそれに合格したが、夏音は元来性格的に邪悪であるため、巫女としては力不足。そのため、如何に夏音が邪悪さを捨て、純粋さを取り戻せるかが戦いの鍵になる。
 これが序盤で説明される本作の設定だが、社会経験の少ない子供ならまだしも、普通の大人ならすぐにその矛盾点に気付くであろう。つまり、何を持って邪悪や純粋などと定義するのかである。実際、第四話の日食を期に、純粋無垢だったはずのマリンにも暗い陰の部分があることが判明する。また、ウリンは姉を愛するがあまり、空人への憎しみを募らせる。人を愛することは善きことではなかったのか。マリンの信条である「みんな、愛してる」は、結果的に人を傷付けることになるのではないか。そういった疑問が常に自己批判となって作品に深みを与えている。そして、終盤、敵であるはずのセドナの正体が、島の人々の悲しみや怒りの感情が蓄積された物であることが明らかになり、自分達の戦っている相手は本当に邪悪な物なのだろうかと二人は思い悩む。
 このように、本作のメインテーマは「善と悪」である。光あるところには必ず闇がある。闇がなければ光は存在し得ない。ベタではあるが、人が人である以上、避けては通れない普遍的なテーマだ。物語のラストでは、マリンは巫女の力に頼らず、心から自分の愛を伝えることで妹を解き放つ。ご都合主義的と言われれば間違いなくそうなのだが、善と悪、光と闇を超越した存在は結局のところ「愛」しかないわけである。そういった意味でも、本作は最初から最後まで一貫して同一テーマを描いた上質の作品である。

・でも、このアニメって


 忘れられがちだが、本作はパチンコメーカーとのタイアップアニメなのである。目的はパチンコ『海物語』シリーズの宣伝であり、可愛い女の子が活躍するほのぼのアニメを見せ球にしつつ、無知なオタクをパチンコ業界に引きずり込もうと企んでいるわけである。パチンコがすなわち邪悪だとは言わない。だが、人々の負の感情や怨念が積もり積もっている場所なのは否定しようのない事実であり、それをセドナと称すなら、パチンコ中毒者はウリンであり、彼らを現実に引き戻そうとする家族・友人はマリンであるわけだ。メーカー的にそれは大丈夫なのだろうか。正直、自分達の首を絞める行為に手を貸しているように思えてならないのだが。
 それはそうと、本作にはどれぐらいの宣伝効果があったのだろう。このアニメを見てホールに足を運ぼうと思った人間がいるとは思えないし、仮にいたとしても、すぐに引き返してしまうだろう。なぜなら、アニメのマリンとパチンコのマリンとでは、あまりにもキャラが違い過ぎる。下手すると詐欺レベルである。これでは当初の目的は果せそうにない……とまぁ、ここまで書けば分かると思うが、三洋物産はアニメの制作と平行して、パチンコ『うみものがたり ~あなたがいてくれたコト~』を作るべきだったのである。せっかく良いアニメを作ったのに、みすみすビジネスチャンスを逃してしまうとは情けない。

・総論


 明らかに浮いているバトルシーンを除けば、テーマもストーリーも綺麗にまとまっている隠れた良作である。そういったシナリオの良し悪しに興味がなくても、全体的に水着シーンが多いので単純な下心で鑑賞するのもいいだろう。ただし、このアニメが原因でギャンブル狂になってしまっても、本ブログは一切責任を負いませんのでご注意を。

星:☆☆☆☆☆☆(6個)
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テーマ: アニメレビュー -  ジャンル: アニメ・コミック
by animentary  at 20:46 |  ☆☆☆☆☆☆ |   |   |  page top ↑
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